事例 > 非営利研究機関向け ArcGIS サイトライセンスで全職員が研究へ利活用することが可能に

事例

非営利研究機関向け ArcGIS サイトライセンスで全職員が研究へ利活用することが可能に

北海道立総合研究機構

 

全職員が気兼ねなく使えることで多種多様な研究に地理空間情報のパワーを

ArcGIS を基盤とした GIS プラットフォームの特徴

  • 非営利研究機関向け ArcGIS サイトライセンスにより全職員が GIS を利用できる環境の整備
  • 研究分野を問わず、データ整備にも分析解析にも使える高度で汎用的なツールの活用

概要

北海道立総合研究機構(以下、道総研)は、道内に 21 の試験場等の研究組織を有する総合試験研究機関である。法人の運営を行う法人本部と研究を行う 5 つの研究本部で構成されている。北海道の重要な施策に関わる戦略研究を始めとしたさまざまな研究開発を推進している。

GIS を活用した研究は、道総研設立以前より、一部の試験場等でパイロット的に取り組まれていた。

道総研設立を機に、GIS 研究者らが集まり、研究会の組織内協力・連携の強化を図る中で課題として浮かび上がったことは、いずれの研究者も GIS ライセンスの確保や基盤的に使う地図情報の整備に苦労している点であった。

このため、試験場等で契約していた GIS ライセンスをあらためて道総研として一括整理し、ArcGIS Desktop 同時利用ライセンス、内部情報共有サーバー、外部情報公開サーバーを整備した。そして 2015 年度(平成 27 年度)より「道総研 GIS システム」として、運用を開始した。

さらに、さまざまな分野での GIS 活用の進展や、比較的容易に利用できるよう GIS の改良が進み、道総研内の利用者や潜在的な利用希望者が増え、後述するあらたな課題も生じてきた。このため、2019 年度(令和元年度)からは「非営利研究機関向け ArcGIS サイトライセンス」を導入することとなった。

導入後は分野を問わず多方面の研究に ArcGIS が活用されている。データの収集や可視化だけでなく、高度な分析や解析での利用が多いことも総合的な研究機関ならではの傾向である。

また、GIS 機能だけでなく「公開」までワンストップで実現可能な点もメリットと感じている。関係者間の情報共有はもちろんのこと、研究結果を社会に還元する手段としても活用していく意向である。組織内外で分野を越えて情報を共有し合うことで、新たなイノベーションが生まれることにも期待している。

課題

以前の「道総研 GIS システム」では、1,000 人近い職員数に対し少数の ArcGIS Desktop 同時利用ライセンスが配られているのみであった。操作に慣れていないため、ひとりひとりの利用時間が膨らみ、その結果利用できるライセンス枠が空きにくい状況であった。

また、いざ必要な時に使用できないと研究の見通しが立たないため、GIS を用いた研究手法の採用は難しいものとなっていた。

さらに、データの可視化や分析に手間がかかる点も課題であった。たとえば、インターネットからダウンロードした衛星データを画像化するため、独自のプログラムを組まなければならない場面がある。研究者の本業は研究であり、研究の本筋から外れた調整業務や作業にリソースを割くべきではない。そうした問題意識が次第に大きくなっていった。

ArcGIS 採用の理由

「非営利研究機関向け ArcGIS サイトライセンス」を導入するにあたって特に考慮したことは以下の 3 点である。

  1. ① 全職員がエクステンション製品も含めたライセンスを利用できること。
  2. ② トレーニングや研修があり操作方法が学べること。
  3. ③ サポート体制が整っており、必要な時に支援が受けられること。

いずれも研究を最大限スムーズに行えることを重要視した。
また、ArcGIS の汎用性も決め手のひとつである。特定の分野に限らず広く利用できることが総合的な研究機関である道総研の特性に適していた。

各研究本部での活用例と効果

ArcGIS は、社会的意義の大きい研究で活用されている。ここではその一例を紹介する。

≪農業研究本部≫


過去 2 ヶ年の衛星画像を用いた排水不良地点の抽出
航空レーザー測量 DEM5A(国土地理院)を加工して作成

中央農業試験場の巽氏は、衛星画像から、水はけが悪い水田エリアの抽出を行っている。表層土壌水分と相関が高い波長の反射率から排水不良の傾向があるエリアを抽出した。ArcGIS を活用して衛星画像や標高データを加工し、可視化することで排水不良水田や水が溜まりやすい窪地を把握し、地域の排水対策のための参考情報として活用している(道庁や酪農学園大学と共同)。

≪水産研究本部≫


表面水温(左)と表層クロロフィル a 濃度(右)
提供:しきさい観測画像(JAXA)

中央水産試験場の有馬氏は、漁業資源の変動や漁場形成要因の調査の一環として、動物プランクトンの動態を研究している。それに関わる水温や水深、植物プランクトン量の指標となるクロロフィル a 濃度の把握は重要である。これまでは、日本海洋データセンターなどが公開している水深データをプログラム処理で画像化していた。同じ作業を ArcGIS で行った際はジオプロセシングツールでの変換はもちろん、他レイヤーとの重畳も手軽に行うことができ、作業が効率化された。

≪森林研究本部≫


丸太集積所の適地選定

林業試験場の津田氏は、持続可能な森林経営体制の構築について研究している。そのひとつに、気象や地層などの環境条件による森林成長量のモデル化がある。モデル化することで広域での成長量分布傾向の把握が可能になる。また、気候条件との関係から地球温暖化の影響の推定に繋がる。

また、関係者協議の際に必要な根拠として、丸太の最適な輸送ルートや集積場所の計算も ArcGIS のネットワーク解析で行っている。

≪産業技術環境研究本部≫


エゾシカ囲いわなの全景

エネルギー・環境・地質研究所では、多くの職員が研究データの収集、解析、そして公表する作業に ArcGIS を活用している。たとえばエゾシカの捕獲数や目撃数を Web マップで一般公開することで、捕獲従事者が効果的かつ効率的に捕獲適地を選定することに寄与している。また、地すべりのリスク評価でも ArcGIS を活用している。地すべりは道路の寸断や河川の堰き止めを引き起こす。地すべりによって孤立する恐れのあるエリアを把握するため空間解析やネットワーク解析を行い、同様に解析成果を Web マップで一般公開している。

≪建築研究本部≫

北方建築総合研究所の川村氏は、発生が切迫しているとされる日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震の被害想定に ArcGIS を活用している。具体的には、津波からの避難行動の推定のために道路ネットワークデータを使用したルート解析を実施しているほか、津波時刻歴データを用いたシミュレーション動画の作成なども行っている。

研究結果は自治体の防災計画や災害対策の根拠となっている。

そのほかにも、同研究所の阿部氏は、地域のエネルギー需要の把握や可視化に ArcGIS を用いている。建物の分布をもとにエネルギー消費量を推計し、ゼロカーボン推進などの文脈で自治体におけるエネルギー政策の基礎資料としている。推計自体は Excel 上で実施した推計結果を ArcGIS にプロットし、メッシュ化することで迅速な認識の共有を可能にしている。

今後の展望


ルート解析による津波からの避難行動の推定

非営利研究機関向け ArcGIS サイトライセンスを活用した結果、幅広い分野で ArcGIS の活用が進んでいる。組織全体で地理空間情報を研究に取り入れる意識が高まり、より膨大なデータを扱う傾向が強まった。現状は、データの収集や可視化、分析、解析機能の活用がメインであるため、今後は ArcGISOnline の Web 公開機能の仕組みを積極的に利用していきたい意向である。研究成果を適用できる地域の可視化・公開をすることで、広く一般に役立ててもらうことができると考えている。

また、他組織と共同で研究する機会も多いことから、組織間のデータ共有がスムーズになることで、これまで以上の相乗効果が生まれることを期待している。

プロフィール


道総研の皆さん



関連業種

関連製品

資料

掲載日

  • 2023年1月30日