課題
導入効果
相模原市は神奈川県北部に位置し、人口は 70 万人を超え、県内では横浜市、川崎市に次ぐ 3 番目の人口を擁す。鉄道や道路の地理上の理由により、東京都の町田市や八王子市などの多摩地区との関わりが深い。
相模原市における災害は主に豪雨や台風で、近年の大きな災害としては、2019 年の令和元年東日本台風では多数の土砂災害が発生し、住家や道路の損壊など、かつてない規模の被害を被った。避難所には 6,000 人強の市民が避難した。
相模原市は既存の災害情報共有システムのリプレイスに伴い ArcGIS Online を使ったシステムを導入した。被災現場や避難所からの情報を ArcGIS Survey123 を使って収集し、ダッシュボードを使って庁内で情報共有を行った。また新しい機能として、市民への避難所情報の共有システムも実装した。
完成の約 5 か月後には大雨が発生し、実際にシステムが使用されたが、直感的でわかりやすいインターフェースで作られていたことにより、動画による研修のみだったにも関わらず、その運用はスムーズに行われた。
相模原市では以前から、災害時の避難所の参集人数の登録や被害地点の登録などを行う、GIS による災害情報共有システムを保有していた。しかし従前のベンダーが災害情報システムの開発から撤退するということになり、システム変更の必要が出てきた。
次期システムの選定にあたっては 10 社以上の比較検討が行われた。ArcGIS の採用の一番の理由は機能の比較によるものであったが、システムの規模感や価格も比較検討されたという。
開発は ESRI ジャパンコンサルティングサービスにより、2021 年(令和 3 年)の 1 月から 3 月という短期間で行われた。コロナ禍のため、避難所の混雑状況の可視化を、システム更新に合わせて早急に実装したいという思いがあったためである。
システムは ArcGIS Online を中心に構成された。被災現場からは写真を含む被害状況が ArcGIS Survey123 を通じて報告される。避難所からは開設状況や避難者数、職員参集人数などの情報が、こちらも ArcGIS Survey123 を使って集約される。庁内からは各課、機関ごとの職員の参集状況や、災害の情報、避難所情報、また気象情報などが ArcGIS Online へと送られる。それらの情報はさまざまなダッシュボードで可視化され、庁内で情報共有される。また、市民へは避難所の開設状況と混雑状況もダッシュボードを使って公開される仕組みである。すべてがクラウド上で完結しており、データの追加、編集、閲覧のすべてが Web ブラウザーのみで可能である。
市民への避難所情報の公開は、以前のシステムには無く、今回から実装されたものだ。
クラウドシステムの採用に関しては、このシステムでは避難者の氏名などの個人情報は取り扱わないという運用により可能になったという。またハードウェアやデータセンターが庁内に無いということは、災害時の被災の可能性を考えると、逆に有利な点と考えられるという。
開発にあたっては、コロナ禍ということで Web 会議のみで打ち合わせを行いながら進められたが、特に問題は無くスムーズに進められた。
開発後の職員への研修については、コロナ禍により集合型研修を行うことはできないという理由もあり、使い方を説明した動画とマニュアルを提供することで行われた。
4 月のシステム完成後、しばらくは運用方法の検討が行われていたが、そのような状況下で 8 月 13 日から 15 日にかけて相模原市は大雨に見舞われた。神奈川県内では多数のがけ崩れや土砂の流出などの被害が発生した。この時に災害情報共有システムは実際に使われることとなった。避難所の混雑状況や被害状況の報告やステータスの更新など、ほぼすべてのアプリや機能がここで使われたという。
相模原市では多くの市民が避難所へ避難し、満員になる避難所も出た。職員への研修は前述のように動画による説明だけだったにも関わらず、システムの運用についてはトラブル無くスムーズだったという。
これは、作成されたアプリが、基本的に初見でも触ることができるようなシンプルな作りになっていたためで、特別な訓練が不要ですぐに使うことができた。
実際に使用してみて良かった点として、基本的な機能は従前のシステムから引き継いだものであったが、ダッシュボードは情報が集約され、数字などがわかりやすく表現されているのは改善された点であった。またダッシュボード上でステータスが未完了の災害対応がすぐにわかるので管理がしやすかったという。
また以前のシステムでは被災状況は現場でスマホからの入力ではなく、情報を持ち帰って庁内で入力していた。
「開発に関して非常に短い期間の中でリクエストに柔軟に対応していただき助かりました。GIS というと、とっつきにくかったり、複雑だったりと思われることも多いのですが、初見でも内容がわかるようなシンプルなシステムになっているので説明がしやすく、ダッシュボードによる情報の見やすさなども優れていると感じました」と担当の高木氏は語った。
今後、まずは庁内に利用を浸透させていき、ユーザーからのフィードバックを反映させ、改善していきたいと考えている。他には避難指示発令地域のマップへの表示や、また市民公開に関してはスマホでの表示の最適化なども行っていく予定である。