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事例

データサイエンスチームの立ち上げ 汎用的な情報分析基盤としての GIS の利活用推進

東京電力パワーグリッド株式会社

 

ArcGIS Pro を有効活用し、社内情報資産の見える化・送配電設備保全業務の改善を実現

概要

東京電力パワーグリッド株式会社は、送配電設備の運用・保守効率化を目的として、社内外のデータ活用を推進する「データサイエンスチーム」を設置している。データサイエンスチームでは、地理情報の汎用的な分析基盤として ArcGIS を導入しており、複数の分析プロジェクトで活用している。今回は同チームが ArcGIS を用いて取り組んだプロジェクトとして「送電線の地上高可視化」、「配電線不良発生個所の環境分析」、「通信ケーブルの道路等縦横断抽出」の 3 つの取り組みを紹介する。

課題

東京電力パワーグリッドは、2016 年(平成 28 年)4 月に東京電力より分離され、東京電力管内の託送事業を担う、一般送配電事業会社である。送配電事業会社としては、日本国内最大の需要家数を誇っており、世界全体で見ても最大の送配電事業会社の 1 つに挙げられる。

この事業規模に加えて、停電時間の少ない安定供給を実現していることも同社の託送事業の特徴として挙げられる。こうした状況から、省エネの推進、再生可能エネルギーの普及拡大や、EV 普及、人口減少といった社会環境に適応しつつ、大規模・安定供給を続けることが同社の経営課題として掲げられている。

東京電力パワーグリッド社内には、自社設備に関する情報をはじめ、豊富な地理情報が眠っている。それに加え、近年では、衛星画像、地形情報など、社外から入手ができる地理情報のバラエティも豊富になっている。

前述したような安定供給を実現するためには、こうした社内外の「資産」とも呼べる豊富な情報を活用し、効果的な設備更新、系統運用をどのように実現したらよいかという知見を得る必要がある。

こうした状況を背景に、東京電力パワーグリッドは、電力需要や設備データなどのビックデータを分析し、業務変革につなげる組織として、技術・業務革新推進室 データ戦略・高度化グループにデータサイエンスチームを設置した。

ArcGIS 採用の理由

データサイエンスチームでは、社内外の情報分析のための基盤を整備している。地理情報の分析基盤としては、ArcGIS Pro および各種エクステンション製品を導入し、それらを活用するため、OJT を中心として人材育成に取り組んでいる。

データサイエンスチームはその職務上、特定の決まったデータ処理業務をこなすのではなく、社内のさまざまな部門からの相談に応え、データ視点から分析課題を抽出し、その解決に取り組む必要がある。そのため、汎用性に優れ、3D での空間分析をはじめ、さまざまな分析が可能で国内外で導入実績が多くある ArcGIS を地理情報分析基盤として採用した。

課題解決手法

送電線の地上高可視化
ドローン航空規制では、地表または水面からの高さが 150m 以上のドローンの飛行を制限している。ドローンが使用可能な区間を把握するため、現在保有のデータを ArcGIS Pro を用いて可視化することにより、送電線の地上高が 150m を超過する箇所の有無の把握が可能となった(図 1)

図1
図 1 送電線の地上高可視化

配電線不良発生個所の環境分析
電柱などに代表される配電設備の劣化故障は、設備更新においてコストの増大要因の 1 つである。データサイエンスチームでは、社内の設備故障履歴情報を、地形モデルや風況といった気象情報など、配電設備周囲の環境情報と重畳・分析することで、風況環境と設備寿命との関係性を可視化した(図 2)。

図2
図 2 配電線不良発生個所の分析

通信ケーブルの道路等横断・縦断箇所抽出
送配電線には、電力保安装置の制御を目的として通信ケーブルが併せて設置されている。こうしたケーブルが、河川や道路、鉄道軌道といった施設を縦横断する場合には、各施設の管理者に対して占有許可を申請する必要があり、またケーブルの脱落による災害を防止するため、ケーブル網の中でも特に留意する必要がある。従来はこうした縦横断については、現場や図面の上での目視確認に基づいたリスト化を行っていたが、ArcGIS Pro の空間結合機能を用いることで、網羅的な把握・リスト化を実現した(図 3)。

図3
図 3 通信ケーブルの道路等横断・縦断箇所抽出

効果

データサイエンスチームを立ち上げ、社内からのリクエストに応えてさまざまな地理情報の分析・可視化体制を整えたことにより、業務のデジタル化・内製化が実現できた。これにより、設備運用・保全業務の効率化につながっている。

今後の展望

災害対応能力の強化や、再生可能エネルギーへの対応、老朽化設備への対応を背景として、東京電力パワーグリッドの業務や、取り扱う情報は、今後より一層複雑になっていくと予想される。こうした状況下で、データサイエンスチームが果たす役割もより重要度を増していくことが期待される。電力事業者でのデジタルトランスフォーメーションに欠かせないツールとして、GIS を今後も活用していく。

 

プロフィール


技術・業務革新推進室
データ戦略・高度化グループ
 グループマネージャー
      大福 泰樹 氏(後列右)
 データサイエンスリーダー
      山内 有倫 氏(後列左)
 メンバー 福田  聡 氏(前列中央)
 メンバー 田口 修平 氏(前列左)
 メンバー 藤代 圭太 氏(前列右)



関連業種

関連製品

資料

掲載日

  • 2022年1月11日