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都市プランナーによる購入能力を考慮した住宅パターンの可視化

ハワイ州ホノルル市

 

重要なポイント

  • ハワイの首都は、居住者用住宅と短期賃貸住宅を購入能力という観点から分析している
  • プランナーは提案されているゾーニングの変更を現在の住宅パターンに照らし合わせて視覚化し、その影響を評価している
  • 3D ビジュアライゼーションにより、計画されている変更を迅速かつ直感的に理解することができる

Airbnb や VRBO などのオンライン ホスティング サイトは、地域の不動産市場を混乱させることを目的としていなかった。しかし調査によると、世界中の都市で短期間のバケーション レンタルが、家賃や住宅価格の上昇の大きな要因になっていることが判明した。

ハワイ、特にホノルルでは、手頃な価格の住宅を見つけるのは長期に渡り、難しくなっている。このような状況に対処するため、また住民と観光客の需要のバランスをとるため、最近ハワイ州議会が短期賃貸住宅のホストに宿泊税の徴収と支払いを義務付ける法案を可決し、知事による署名を待っている。ホノルル市議会では、短期賃貸住宅の数を制限し、違反者には 1 日あたり 1 万ドルの罰金を科すという厳しい内容の法案が可決されたばかりである。

ホノルルには、合法的なバケーション レンタルが 800 件、違法なバケーション レンタルが 8,000 件あると想定されているため、州税はかなりの収益を上げることができる。短期賃貸物件の数を制限することで、これらの物件の一部を地元の人々が利用できるようになると見られている。このような変化や市民への影響を把握するために、市のアナリストやプランナーは地理情報システム(GIS)の技術を活用している。ホノルルでは、ホノルル市と郡の土地情報システム(HoLIS)を通じて、GIS マッピングとデータベースが利用できる。

「ホノルル(ホノルル市郡)では、購入能力に対応するため、土地利用条例(ゾーニング コード)の変更を検討し始めました」と、ホノルル市郡の GIS 管理者である Ken Schmidt 氏は語る。「GIS は、この問題がどのようにして発生したかを数値化し、対処方法を可視化するのに役立ちます」。

供給を上回る住宅需要

2015 年の報告書によると、2025 年までにハワイで 66,000 戸の住宅が需要を満たすために必要になり、そのうち 26,000 戸近くがホノルルで必要になるとされている。このような住宅不足を解消するために、いくつかのゾーニングの変更が提案されている。

提案ではモンスター ハウス(一戸建てとして許可を得た住宅地に建てられた規格外の家)対策として住宅の面積を制限すること、低層アパートの高さ制限を緩和し、従来の 3 階建てから 5 階建てのウォークアップ住宅(エレベーターのない住宅)を認めること、そして住宅の所有者が付属住戸を建てて貸すことを認めることなどが含められている。

ホノルル市計画許可局は、3D ビジュアライゼーション ツールを使用して、モイリイリ地区で提案されている低層アパートのゾーニング変更を調査して視覚化した。ホノルル市は Esri 社と連携し、最近のウェビナーで ArcGIS Urban と CityEngine の機能を試した。

「ゾーニング コードの変更が 3D でどのように見えるかをプランナーに示せるように取り組んでいます」と Schmidt 氏は語る。「ゾーニング コードの値をすばやく簡単に変更して、開発の違いを確認できることを知ったプランナーたちは、目を輝かせていました」。

トランジットによる住宅の見通しの改善

ホノルルの都市圏は、アメリカで 4 番目に人口密度が高い地域であり、交通は全米でも最悪と時に評されている。狭い海岸線、急な斜面、島をまたぐ峡谷などの島における制限がこの渋滞の原因となっている。

20 マイルに渡り、21 駅からなる「ホノルル高架鉄道プロジェクト」は、この地域に高架鉄道を導入することで、問題を改善することを目指している。現在建設中のこの鉄道は、1 時間に8,000人を運び、ホノルル市民に開発パターンを見直す機会を提供する。ホノルル市は、鉄道駅周辺の住宅、仕事、サービスの密度を高める戦略として、すでに交通指向型開発(TOD)を採用している。

「私たちは TOD 部門と共に、駅から 0.5 マイル以内の開発にインセンティブを与えるためのゾーニング法の変更を検討しています」と Schmidt 氏は語る。

Schmidt 氏のチームは政府、企業、コミュニティの利害関係者が TOD の再開発シナリオや再ゾーニング案を視覚化できる参加型の環境を構築した。

Honoluluホノルルでは、鉄道を利用して駅周辺を集中的に開発する
「トランジット・オリエンテッド・ディベロップメント」が行われている。

開発の促進

ホノルル市の新しい鉄道路線の建設とそれに伴う開発を開始するにあたり、役員は市の許可プロセスの改善を検討している。

「誰でも建築許可を得ようとすると、いくつかの課題を抱えることになります」と Schmidt 氏は語る。「年間 15,000 ~ 20,000 件の許可申請の量が主な原因です。プロセスを合理化するか、簡素化することは我々の大きな目標の 1 つです」。

市は迅速な許可制度の開発者で、HONLine と呼ばれるシステムでは、住宅所有者がフェンスやソーラーパネル、給湯器の交換など、住宅地のちょっとしたアップグレードの際に迅速に許可を得ることができる。

「GIS は HONLine において重要な役割を果たしています。というのも、その土地が洪水危険地域であるかどうか、海岸線沿いかどうか、またどのように区画されているかを確認しなければならないからです」と Schmidt 氏は語る。「許可システムと GIS の統合は、許可をオンラインで公開するための重要な役割を果たしました」。

次に Schmidt 氏のチームは、許可審査プロセスの一環として GIS にデジタル BIM(ビルディング インフォメーション モデル)を組み込むことで、新規開発のビジネス ワークフローの改善に取り組みたいと考えている。現在使われている紙の図面に代わり、デジタルの BIM ファイルが使われる。全てがデジタル化された新しいワークフローにより、建築基準法の評価を効率化し、いかなる矛盾点の検出と通知を自動化することができる。

ホノルルで現在行われている開発や再開発は、地域経済に著しい影響を与えているが、それを定量化する手段として GIS がある。

「データを見ると、建築許可件数の 0.2% が、建築許可総額の 10% 以上を占めていることがわかります」と Schmidt 氏は語る。「このわずかな許可件数は、昨年に建設された 33 件の新しい集合住宅を反映しています」。

新しいアパートが、手頃な価格の住宅の問題と市の経済全体の両方に影響を与えることは、最近提案されたウォークアップ アパートのゾーニング変更を市が採用した要因の 1 つである。州の住宅危機に対処するために、他にも多くのアイデアが出ている。

「様々な創造的で革新的な、そしてやや行き当たりばったりの提案がなされています」と Schmidt 氏は語る。「それぞれの提案は、GIS を使って分析し、潜在的な影響を確認してその結果を市民に伝える必要があります」。

ハワイの画像と標高サービス

ハワイ州は従来のベクター GIS データに加えて、画像や 3D 標高データの収集と共有に多大な投資を行っている。この取り組みにより、計画決定にこのデータを必要とするハワイ州の都市や企業の負担が軽減されている。

「最高品質の権威あるデータを、州全体の GIS ユーザーだけでなく、政府のパートナーや一般市民にも提供することは、このプログラムの最優先事項です」とハワイ州 GIS プログラム企画室のデータ マネージャーである Joan Delos Santos 氏は語る。

ハワイ州 GIS プログラムのスタッフは、LiDAR センサーからのデータを処理し、1999 年から 2017 年までにハワイで収集された既知の LiDAR データセットをすべてダウンロードできるアプリケーションを作成した。そして、1m 解像度のデジタル地形モデル、デジタル サーフェス モデル、標高サービスなど、多数の 3D データ製品を作成した。このサービスと、3D 建物モデルなどの派生レイヤーは、ArcGIS Urban などのアプリケーションやプログラムで利用することができ、3D コンテキストを提供して視覚化したり、より詳細な情報を追加したりすることができる。

ホノルル市では、このデータを活用して「見える化」に取り組んでいる。

ホノルル市郡の GIS 管理者である Ken Schmidt 氏は、「ハワイでは、州と郡の機関間で素晴らしいレベルの協力とデータ共有が行われています」と語る。「我々は州と積極的に情報を共有し、州は我々と情報を共有しています」。

 

※この事例は Esri のブログ記事「Honolulu Planners Visualize Housing Patterns with an Eye on Affordability」を参考に翻訳したものです。

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掲載日

  • 2021年4月20日