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都市プランナーが考案するサステナビリティを高めるための詳細なデジタルツイン

スウェーデン ウプサラ市

 

ウプサラ気候プロトコルは、プランナーが緑化計画を設計する際に使用した、開発における重要な決定事項の指針である。

重要なポイント

  • ウプサラ市のプランナーは、3D モデリング ツールを使ってシナリオを検討し、計画を共有している
  • 詳細な発展計画は、持続可能な住宅や交通機関の開発を数値化している
  • 樹木や地形などを含めた実態を捉えることで、プランナーは自然界に配慮した設計を行うことができる

スウェーデンは、他の多くの国と同様に住宅不足と購入能力の低さに悩まされている。スウェーデンがこのような危機に直面するのは今回が初めてではない。1960 年代、スウェーデン議会は「100 万戸プログラム」を可決し、ベビー ブーマーの成人化の波に対応するために、1965 年から 1974 年の間に 100 万戸の住宅を新たに建設した。同じような住宅を増やす緊急の動きが現在進行中である。

4 番目の大都市であるウプサラ市の都市プランナーは、2050 年までに 5 万人の新住民を受け入れるために、33,000 戸の新しい住宅を備えた新地区を設計することで役割を果たしている。現在、ウプサラ市の自治体には 23 万人の住民がいるが、2050 年には 35 万人に達すると予想されており、今後 30 年間で 50% 以上の増加となる。この拡大の多くはウプサラ市の総合計画に従って行われるが、250 市区に相当する地域が緑化計画のコンセプトに基づいて設計されている。

ウプサラ市の戦略的コミュニティー プランナーである Svante Guterstam 氏は、「通常は、数百戸の新しい住宅をあちこちに計画します」と語る。「今、私たちはまったく新しい地区を計画しています」。

Uppsala
ウプサラ大聖堂は、ウプサラ大学のユニバーシティ ホールとフィリス川に挟まれた町の中心部に位置している。

Uppsalaウプサラ大学は 1477 年に設立され、現在も運営されている北欧諸国の大学の中で最も古い大学である。

Uppsalaウプサラ市では、あらゆる年齢層の住民が自然に近い環境を楽しんでいる。

Uppsala市街地の北にある Gammla Uppsala は、スカンジナビアで最も古く、重要な場所のひとつである。
これらの古墳には、バイキング時代のスウェーデンの王様がいると言われている。

革新という使命に基づく行動

スウェーデンで最も急速に成長している都市であるウプサラ市は、研究センターとしての評判と、意欲的なサステナビリティ政策によって新しい住民を惹きつけている。例えば、1477 年にスウェーデン初の大学として設立されたウプサラ大学は、長年自然科学に焦点を当てた教育を行っており、モットーには「自然を通しての真実」というフレーズが使われている。同じくウプサラ市にあるスウェーデン農業科学大学は、最近サステナビリティを重視した企業を育成するためのウプサラ・グリーン・イノベーション・パークを設立し、都市開発プロジェクトを研究するために市と提携している。

2030 年までに化石燃料の使用を止めること、そして 2050 年までに気候変動に対応することを誓い、この 10 年間でウプサラ市の環境への取り組みは世界をリードするものとなった。ウプサラ気候プロトコルは、局所的なパリ協定のように機能しており、42 の地元企業、公共機関、団体、そして市内にある 2 つの大学を集結させて気候問題に取り組んでいる。これらの利害関係者の多くが、化石燃料を廃止するための具体的なガイドとなる「ウプサラ気候ロードマップ」の作成に携わっている。

このような背景から、都市プランナーが南東部の街づくりに着手した際、データやモデルを中心とした地理情報システム(GIS)を活用したジオデザインの手法を採用したのは当然のことであった。

Guterstam 氏は、「私たちは最先端の技術を試しており、より持続可能になるための新しいソリューションを見つけるために取り組んでいます」と語る。「ウプサラ市に 2 つ大学があるため、新しいアクターや気候変動の影響を小さくする方法など、創造的で革新的なアプローチを模索することができる学界との密接なつながりがあります」。

Uppsala
対話的な質点モデルは、プランナーの初期計画を提示して南東部都市の密度、レイアウト、環境を伝えている。
利害関係者がプランナーの立場として物事を見て理解するのに役立っている。

ウプサラ市のプランナーは、住民の生活の質を高め、生物多様性を損なわない、また環境を悪化させない、二酸化炭素排出量を削減する持続可能な都市モデルに注力している。ArcGIS Urban で作成された詳細なゾーニング計画と 3D モデルは、プランナーが新しい都市地区の計画を視覚化して提示するのに役立っている。

ウプサラ市の戦略的コミュニティー プランナーである Marie Nenzén 氏は、「私たちは作業プロセスの中でモデルを非常に重視しています。さまざまな結果をテストしたり、例えば政治家に、この方法でやればこのような結果になり、他の方法でやれば別の結果になることを示したりすることができるからです」と語る。「このモデルでは、成果が非常に明確で目に見えるものになります。」

ウプサラ市のグリーン アイデンティティの強化

スウェーデン政府は住宅の増加を促すために地区、さらには新都市の計画を推進している。ウプサラ市の成長に向けた取り組みに対して、州はストックホルムへの新しい線路、新しい駅、路面電車に投資する予定である。
新地区は、現在市が所有している森林地帯に建設される予定である。樹木の多くは緑の回廊として残され、大きな樹木が中庭を占め、その周りに住宅が建つようにブロックが設計されている。また、動植物の生息地を無傷のまま残すことに重点を置くほか、地下水の流れなど自然のシステムを維持することにも配慮している。

「都市の近く、また時に都市の中にある自然地域は、ウプサラ市の人々にとって非常に大切なものです」と Nenzén 氏は語る。「私たちは可能な限り未開発で手つかずの自然を残しつつ、住宅の需要にも対応したいと考えています。これは常にトレードオフのバランスをとることなのです」。

市とそのパートナーは、上下水道、交通、エネルギー システムなど、従来の都市インフラをより自然でエネルギー効率の高いものにアップデートする方法を模索している。「インフラに循環型システムを持たせるためには、完全に新しい作成方法を見つける必要があります」と Guterstam 氏は語る。

この新都市地区は歴史的なダウンタウンの南側に、持続可能な生活と新しい都市の中心地を作る予定だ。

「完成した際には、現在の都市と比べて劇的な変化となり、ウプサラ市のアイデンティティとコンセプトに影響を与えるでしょう」と Guterstam 氏は語る。「もうひとつの都心と南側の入口との間には、異なるバランスが生まれるでしょう」。

Uppsala手前には既存の森や、計画に組み込まれた物の面影も見える。

Uppsala空港とストックホルムを結ぶ高速鉄道のルートが上から下に向かって走っているのが見える。

Uppsala計画全体に緑の回廊があり、建物の中庭には成熟した樹木が残されている。

Uppsala都市部の住宅密集地の近くには、1 つの空間と手つかずの生態系が存在する。

Uppsalaこの駅は、高速鉄道と地域の路面電車との間のハブとなっている。

このような変化に対応し、情報を明確に伝える必要性があることから、詳細計画案は誰もが計画内容を確認できる対話的なモデルを採用している。

「対話的な 3D モデルは、書面や 2D の地図では得られない未来の地区の感覚や印象を与えてくれます」と Guterstam 氏は語る。「今では新しい都市の周りをズームしたり全体を空中から見たりして、今後の変化についてよく知ることができます」。

概念化と考察のためのモデリング

計画の初期段階で、計画チームはプロジェクト要件に関する表形式のデータの多さに悩んでいた。スプレッドシートの数とサイズが増え続け、市の複数の関係部署との連携が難しくなった。また、複雑な地区のマスター プランを概念化し、物理的に表現して共有することも困難であった。

「私たちはまず、このモデルをコミュニケーションのためのツールとして考えました」と Guterstam 氏は語る。「モデルを構築した後、モデルが都市計画をより理解しやすくシンプルな方法でシナリオを検討し、共有する方法を提供していることに気がつきました」。

南東部市街地の範囲は過去の計画範囲と、大多数のプロジェクトのプランナー、建築家、エンジニア、研究者の実務経験を超えたものだった。モデルはプロジェクトのスケールを確認し、自分の手で都市の形を作り、何が機能して何が機能しないのかを把握するのに役立つものとなっている。

「協定の範囲内で、どのような密度が適合するかを理解するための学習プロセスです」と Guterstam 氏は語る。「3D モデリングは、さまざまな建物やブロックのサイズを試し、どのようなスケール感で表現できるかを試すのに非常に有効です。マンハッタンに似ているのか、それともヨーロッパの歴史的都市に似ているのか?」

Uppsala高速鉄道を含む大量輸送交通機関は、ウプサラの緑化計画の重要な要素である。

3D モデルは、実際の地形を示すために Lidar スキャナーで撮影したデジタル標高モデルの上に構築されている。Lidar は既存の建物やすべての樹木も捉えている。リアルなモデルにより、現在の街における環境で、提案されている開発がどのように見えるかを誰もが確認することができる。このモデルは、計画チームがアプローチや構成をテストしたり、新しい地域を見たりしたりするのに役立ち、最終的には都市とその住民が情報に基づいた持続可能な意思決定を行うのに役立つ。

ウプサラ市のリーダーたちは、都市をより持続可能なものにするために様々な要素を検討している。例えば、スウェーデンでは森林が多く、木材が再生可能な資源であることから、木製の建築材料を義務付けるなどである。また、エネルギー、水、資源の消費に関する義務化も検討している。

「このスマート モデルにより、計画がどれだけ持続可能かという指標も得られます」と Guterstam 氏は語る。「2030 年と 2050 年の目標を達成するためには、私たちが計画していることが気候と持続可能性の意欲的な目標を達成するのに役立つかどうかを再構成して確認する必要があります。一旦地区が建設されてしまうと、持続可能なライフ スタイルを可能にするために都市システムを変更することは難しく、コストも掛かることから、私たちの計画が目標の達成に影響を与える可能性が非常に高いと考えています。私たちは、実際に目的地に到達するための解決策やテクニックを見極める必要があります。」

より高密度な拡張の実現

鉄道網と新しい路面電車が新しい市街地の背骨を形成し、交通指向型開発と呼ばれる都市計画のパターンに合致している。交通指向型開発は、公共交通機関を中心とした歩行者重視の高密度な都市の価値を高め、自転車接続との強いつながりを持つ。

南東部の都市地区が構想される以前から、ウプサラ市ではカーボン ニュートラルを目指す上で交通手段の確保が重要視されていた。ウプサラ市のバスは、再生可能エネルギーと地元の食品廃棄物から作られたバイオ燃料で動いている。また、鉄道駅の隣には新しい自転車レーンと 2 階建ての駐輪場が設置され、車を家に置いておくことを促進している。同市は 2019 年に「Climate Made Easy」キャンペーンを開始し、住民が個人的に責任を負う炭素排出量の削減を支援している。

「適切な都市計画によって、車に依存せず、公共交通機関を利用して車なしで生活できるような持続可能なライフ スタイルへの奨励をすることができます」と Guterstam 氏は語る。

進化に拍車をかける促進インプット

プランナーは、計画初期の段階からモデルの適切なレベルを明らかにすることついて細心の注意を払っていたが、このような詳細な計画を見慣れていない住民からの戸惑いを想定していた。

「公共の場でのコミュニケーションでは、この計画がまだ進行中であることを多くの人に理解してもらうのは難しいことです」と Nenzén 氏は語る。「現段階では答えられないような質問を受けることもあります。ですが、このモデルが多くの好奇心を駆り立て、人々がこのモデルを見たい、使いたいと思っていることを示しています」。

Uppsala対話的な 3D モデルは、利害関係者やプランナーに好評である。

実際にウプサラ市が 2050 年計画サイトにアップロードしたすべての要素の中で、モデルは最も多くアクセスされている。また、このモデルは計画に携わる多くの利害関係者の間でも人気がある。

「他のチームの人たちが、このモデルに興味を持ってくれたことを見るのは楽しかったです」と Guterstam 氏は語る。「私たちがどのようにモデルを使っているか、また自分たちのプロジェクトにも応用できないかと聞かれました。これまでの仕事のやり方とは異なります。外部の建設コンサルタントにモデルを作成してもらい、変更を依頼して数週間後に返ってくることもありましたが、私たちはモデルを完全にコントロールすることができます」。

市の職員にとって変更を素早く行い、代替デザインの影響を確認できることが、新しいワークフローの導入や新しいツールの使用を促進している。

「この計画の柔軟性を疑問視する声もありました」と Nenzén 氏は語る。「モデルの変更が簡単にできることを示すことで、ニーズが変わったときにモデルを変更できることを理解してもらいやすくなりました。例えば、独立した住宅を増やしたいという声があった場合、3D モデルを使って場所を特定して、他の集合住宅の高さや密度にどのような影響を与えるかを確認することができます」。

ウプサラ市の拡大合意にはタイムラインがあるため、早急なフィードバック ループは今の状況に適したものとなっている。国のインフラ投資を確保するためには、計画を策定し、2025 年までに年間 800 戸の住宅建設を開始しなければならない。市が建設を始める前に、多くの並行プロセスが必要となる。

計画法に基づき、プランナーや建築家がパブリック コンサルテーションを行っている。現在は提案段階で、2021 年の春には最初の詳細計画が行われるが、これにはまた厳密な修正が必要となる。この次の段階では、3D モデルをさらに改良して街並みの視覚化、建物の規模の決定、森や木の適切な組み合わせの検討、そして水道や雨水のプロセスの見直しなどが行われる。また、可視化することで建物やインフラを構築するための材料の決定にも役立つ。

「プロセスの過程においてより多くのデータと詳細を得ることで、このツールには多くの可能性があることが明らかになりました」と Nenzén 氏は語る。「例えば、日照や影の調査の結果をテストして確認したり、サステナビリティ計画との関連性を高めたりしたいと考えています」。

より分析的でパラメトリックなプロセスによる都市変革を実現するための詳細:https://www.esri.com/ja-jp/arcgis/products/arcgis-urban/features/specific-plans

カスタム プロシージャル モデリングによる継続的なシナリオの改良

新市街地マスター プランを伝えるための質点モデルの使用に加えて、ウプサラ市の都市プランナーは ArcGIS CityEngine を使用して作業を行った。ArcGIS CityEngine は、より詳細なカスタム プロシージャル ルールをデザインに適用できるようにすることで、シナリオ プランニングの手順的なアプローチを更に強化したものである。

CityEngine では、プランナーやデザイナーが CGA(Computer Generated Architecture)と呼ばれるスクリプト言語でルールを作成し、詳細な 3D 形状のモデリングを自動化することができる。デザイナーが最初から最後まで 3D モデルを作る様な多くの反復作業を行う代わりに、プログラムがステップバイステップのコマンド セットに基づき、モデル全体または窓やバルコニーなどの一部を作成する。大都市のモデルを素早く作成し、さまざまなシナリオを試す際にも簡単に対応できるという利点がある。

ウプサラ市の戦略的コミュニティー プランナーである Svante Guterstam 氏は、「魔法の杖のようなスクリプトを使って、同一ブロック内にさまざまな住宅を配置した都市ブロックを構築する所から CityEngine を使い始めました」と語る。「これにより、ブロックや建物の見積もりを非常に迅速に行い、住宅の目標を達成しているかどうかを確認するための大部分のプランを作成することができました」。

次に Guterstam 氏は、この作業内容を ArcGIS Urban にエクスポートして、さまざまな計画シナリオを視覚化した。

「非常に現実的なものになり、現在の状況の中で新しい開発がどのように見えるのかを実感することができます」と Guterstam 氏は語る。「もちろん、さまざまなシナリオを検討しながら、常に進化し続けています」。

これらのツールは持続可能性の目標に照らし合わせて計画を検討して比較するために、エンジニア企業によって使用されている。その中には、BIM と GIS を統合して、これらの複雑な設計が空間的な背景の中でどのように機能するかをより総合的に理解するための新しいアプローチを革新し続けているグローバル企業、Sweco Architects も含まれている。

「通りに面している物件、自然に面している物件、公園に面している物件など、さまざまなブロックや住宅の類型論に対応した環境ベースのルールを持つ、さまざまなスクリプトを CityEngine でライブラリ化することを思い描いています」と Guterstam 氏は語る。

 

※この事例は Esri のブログ記事「Uppsala Creates a Detailed Digital Twin to Enhance Sustainability」を参考に翻訳したものです。

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掲載日

  • 2021年4月20日