高齢化に伴って深刻化するフードデザート問題の現状をGISで可視化し、生鮮食料品小売店舗と対象人口の位置関係を明らかにする。
我が国では、高齢者が増加する一方で身近な食料品小売店の廃業が増えており、さらには公共交通機関の縮小や撤退から、いわゆる「フードデザート(食料砂漠)」「買い物難民」「買い物弱者」といわれる問題が顕在化しつつある。これらに該当する人口は、一説には600万人とも言われているが、これまで正確な実態や対策は明らかになっていない。
農林水産省農林水産政策研究所では、食料の安定供給の視点に立ち、日常的な食料品の買い物をする際の不便さや苦労がある状況を「食料品アクセス問題」と定義し、問題の実態把握と定量的推計を行っている。
具体的には、食料品の買い物をする際の不便さや苦労の要因とその地域間格差、生鮮食料品小売店舗(以下:小売店舗とする)までの物理的・地理的な距離比較などを明らかにしている。ここでは、住民と小売店までの近接性の実態を把握し、対象人口の推計と空間解析によって「食料品アクセス問題」の可視化を試みた。
徒歩による小売店舗への買い物は、概ね片道500m(直線距離)と仮定し、国勢調査及び商業統計メッシュデータ*から、人口分布と小売店舗位置の相対的関係について推計した。メッシュ内のどこに小売店舗や住民が存在するかは不明であるため、人口を有するメッシュを対象に、当該メッシュ及び周辺メッシュの店舗状況から、最も近い小売店舗までの距離が500m以上ある確率を算出している。この割合に、人口を乗じることによって、メッシュごとに小売店舗まで500m以上の人口を求めることが可能となる。
日本全国およそ48万ある2分の1地域メッシュについて、大規模高速処理が可能なベクトル型スーパーコンピュータによる推計を行った。またArcViewを使ったメッシュ分割と再集計から、自治体単位での対象人口の把握が可能になった。
* メッシュデータとは:地域を正方形に区切った区画(メッシュ)単位に整備したデータのこと。
徒歩での買い物を想定した、半径500m以内に生鮮食料品販売店舗*を持たない人口は、全国で4,400万人(34.7%)であり、うち65歳以上の高齢者は970万人(37.9%)であることが明らかとなった(表1)。
このうち、移動手段である自動車を持たない人口は、表1より全体で910万人(7.1%)であるが、高齢者では350万人(13.5%)とその割合が高くなっており、「食料品アクセス問題」が高齢者に集中していることがわかる。同時に、この問題は都市圏よりも、公共交通機関の衰退した地方圏において深刻化していることが示されている。
また全国をメッシュ単位でみた場合、店舗まで500m以上の人口割合が80%以上のメッシュが大多数を占めており、条件の良い20%未満のメッシュは大都市や県庁所在地に集中している(図1)。一方、実数では、これら人口が集中しているのは大都市周辺部となっている。
さらに、このメッシュデータを市区町村別に集計すると、店舗へのアクセス困難な住民を抱える自治体が、山間部や過疎地域に集中していることが分かる(図2)。
* 生鮮食料品販売店舗とは:食肉小売業、鮮魚小売業、果実・野菜小売業、百貨店、総合スーパー、食料品スーパーの合計を指す。
図1 生鮮食料品販売店舗まで500m以上の人口割合
図2 生鮮食料品販売店舗まで500m以上の人口割合 (市区町村別)
我が国の「食料品アクセス問題」の実態を具体的指標として提示するとともに、それらを電子地図として作成・公開することによって、「食料品アクセス問題」の範囲や性質の特定が可能となった。
自治体等の担当者が今後取り組むべき各種対策、あるいは国における施策立案に関して極めて有意義な材料が提供できた。
(さらに詳細を知りたい方は、農林水産政策研究所のホームページをご覧下さい。http://www.maff.go.jp/primaff/meeting/gaiyo/seika_hokoku/2011/110802_siryou.html、または検索条件:農林水産政策研、食料品アクセス)