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水質解析業務から見るGIS・GPS活用法

八千代エンジニヤリング株式会社 技術開発部

 

総合建設コンサルタント、そしてGISユーザである八千代エンジニヤリングのGIS活用術

八千代エンジニヤリングはGISツールを利用していかに高い成果を創出しているのか、水質解析業務フローを追いながら考察していく。

イントロダクション

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地下水の硝酸性窒素汚染機構

八千代エンジニヤリング株式会社は社内にArcView 30本とその他エクステンション製品を導入して多くの部署、業務においてGISを有効活用して成果をあげている。今回はある地域の水質解析業務における実際の作業フローを通して、GISの活用法および他の業務用ツールとの併用のノウハウを紹介する。

今回の業務の目的は、地下水の硝酸性窒素汚染に対する対策を立てることである。この地域の地下水は河川に流入するため、河川と地下水における硝酸性窒素濃度の分布を把握することにした。調査結果を単に線と数字だけのグラフで表す方法では、いつ、どこで水質が悪化・拡散しているのかを的確に把握し、汚染要因との関連を明確に示すことはできない。地理的にかつ時系列で表すことにより、汚染状況を面的・時間的に説明できるだけでなく、具体的な対策の検討が容易になる。この整理にArcGISを用いている。

 

現地調査での簡便なGIS・GPS利用

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対象地の水環境・地域概況を把握するには、現地調査が不可欠である。現地調査では、ハンディGPSとスマートフォンを活用した。はじめに、GPSで水質観測やサンプリング地点の位置情報(ウェイポイント)と移動軌跡(トラック)を取得し、詳細なデータの入力やテーブルデータの編集には、スマートフォンのExcel編集機能を使った。移動中の電車の中などで、現地調査の際に取得するデータ項目のテーブルシートを作成し、現地でスマートフォン上に入力することにより、効率的なデータ収集と、紙記録の電子化に費やしていた時間の大幅な短縮が可能となった。

 

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カシミール3DによるGPSトラックと現地写真の表示
(ベースマップ:電子国土)

現地で撮った写真を直接地図上に取り込むことはArcViewの標準機能ではできないため、代わりにカシミールやGoogle Earth等フリーツールにGPSで取得したトラックを読み込み、現地の写真を整理した。また、調査地点のウェイポイントを同ツールで読み込んでGPXファイルを作成後、フリーの変換ツール(GPX2SHP)でシェープファイルにすることで、ArcViewに調査地点を簡単にプロットすることができる。調査地点とスマートフォンで記録した現地調査結果をテーブル結合し、GISでのデータ整理と水質解析に利用している。

 

水質解析マップ

今回の水質解析で求める成果は、硝酸性窒素濃度の分布である。水質は直接目で見ることができないためイメージしにくい。ラスタデータを使うことで、河川の各地点での値を連続的な濃度変化に自然かつダイナミックに表現できるため、各ポイント値をもとに地下水と河川の水質ラスタデータを作成した。

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水質ラスタデータの作成は、共同研究機関である鹿児島県農業開発センター大隅支場の水質分析結果と、市から受領した約10年分のデータを基に作成した。具体的には、ArcGIS Spatial Analystの機能である内挿補間を適用する。内挿補間とは、既知の地点の値から未知の地点の値を各内挿法の理論に基づいて算出することを指す。

県・市合わせて350地点と膨大な数の調査地点があり、すでに緯度経度情報があるものと、住所情報のみのものがあった。後者はアドレスマッチングと地図での確認によりポイントを作成し、水質データとテーブル結合させることにより約10年・350地点分のデータをArcViewに追加した。地図上に追加した水質のポイントデータをラスタデータに変換するために内挿補間を行うのだが、ここでどの内挿法を採用するか判断する際にも担当者のノウハウが光った。適用する内挿法によって得られる結果が大きく異なってくるが、最も適切な成果図を得るために担当者はどのようにして一つの内挿法を選択しただろうか?それは、SpatialAnalystに備わっている全ての内挿法を試した上で、結果を他の水質観測項目や汚染要因の分布、地下水流動と検証し、適用した内挿法から得た結果の中で最も観測結果のイメージに近い水質ラスタデータを算出したものを選んだということだ。
自分では導けない結果の創出をGISに委ねるのではなく、調査や元データ、そして今までの業務で培ってきたノウハウから推測できる結果を論理的に証明するために、GISを利用することが技術者の力量なのだ。

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地下水と河川の硝酸性窒素濃度分布をイメージ図化

水質ラスタデータを作成したら、成果地図として納品する為に背景地図と重ね合わせる。今回背景図として使ったのは、10年程前に自治体から入手した白地図をスキャニングした画像(tiff)データである。このデータは位置情報を持っていないため、ネットの基盤地図情報配信サービスを基に位置的に対応する箇所を結びつけて重ね合わせた。こうして調査結果から解析したデータがより現実世界の事象として表現された水質解析マップが完成した。
こうして民間企業と県農業研究機関の密な連携により生まれた成果が、地域の水質の状況を誰にでもわかる形で表現することに成功した。

 

GISユーザ企業としての今後の展望

このように八千代エンジニヤリングでは業務の中でArcGISを有効活用して高い成果を収めている。もちろん今回紹介した事例はほんの一例に過ぎない。環境分野だけでなく、あらゆる分野でも同様にArcGISを活用し、業務の生産性を高めている。ArcGISが持つ固有の機能にとらわれずに他のツール、ノウハウを駆使して業務が行えるのは社内でArcGISをネットワークライセンスで管理し、社内の誰もがいつでもArcGISを操作できる環境が構築されているからだ。今後は、社内教育の充実とともに更なる普及・活用を目指している。

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掲載日

  • 2011年1月1日