課題
導入効果
平成 26 年 8 月豪雨、平成 30 年 7 月豪雨など、近年豪雨による土砂災害が頻発している中国地方。土砂災害が発生した際には、国土交通省(以下、本省)の司令の下、全国の地方整備局の職員等から編成される TEC-FORCE(緊急災害対策派遣隊)が現場に向かい、二次的な土砂災害の危険性を調査するための緊急点検を実施する。
中国地方整備局では緊急点検を安全かつ効率的に実施するため、2018 年度(平成 30 年度)に緊急点検ツール「SMART SABO」 のプロトタイプを開発した。2019 年度(令和元年度)のプロトタイプの全国的な試行を経て、2020 年度(令和 2 年度)から本システムの全国的な本格運用が開始された。
緊急点検の様子
以前の緊急点検では、カーナビと調査箇所が示された紙地図を頼りに現場へ向かい、現場で調査内容のメモや写真記録、位置情報の把握を行い、1 日の活動が終了したら活動基地に戻り、調査内容メモとデジカメで撮影した写真などとの紐付けの上、Excel 形式で報告書を作成していた。その課題として、山中では目印となる目標物が少ないため自身の現在地の把握が困難である他、本部が隊員の現在地や調査状況をリアルタイムに把握できない、そして 1 日に複数箇所を調査するため活動基地に戻った後の調査結果の整理に多大な時間と労力を費やしていたことが挙げられる。全国から派遣される隊員は当然現地の土地勘がなく、現在地の把握に関する課題は常につきまとった。
これらの課題を抱えながら各隊員の努力のもと活動を続けていた中で、全国的に ICT 活用の機運も高まったことを受け、2017 年(平成 29 年)に緊急点検の効率化について検討を開始した。
翌 2018 年度にプロトタイプの開発を予定していたが、そのような中、平成 30 年 7 月豪雨が発生した。災害対応も追い風となりツール化に向けての動きが加速し、同年 8 月末に中電技術コンサルタント株式会社がプロトタイプ開発を受注、11 月末に実証実験することになった。同社は当初スクラッチ開発を想定したが、3 か月しかない中で時間も予算も足りないとの結論に至り、既存のサービスから検討することにした。
複数のサービスを比較検討した結果、ESRI ジャパンのビジネスパートナーである同社はまず、ArcGIS Online と付属する現地調査アプリを活用したシステムを提案することにした。開発を担当した同社の山野氏は「一から開発しない、保守・維持管理のコストを削減できる点が決め手になりました」と語る。
SMART SABO ポータルサイト
システムの条件として 5 つの機能が求められた。
2 回の実証実験を経て、下図のシステム構成にて運用することにした。各アプリで利用している機能は以下のとおりである。
また、調査結果を報告用の Excel ファイルに出力するためのアドインを開発し、隊員が調査後に位置図・写真付きの帳票を簡単に出力できるようにした。
地図には過去に整備した砂防堰堤情報のレイヤーなども表示している。目標物の無い山中では貴重な情報だ。
さらに、調査を分かり易く始められるよう、隊員専用の SMART SABO ポータルサイトを構築し、現地調査の準備、出発 ~ 調査、報告の各段階で必要なアプリ操作手順を簡潔に示した。コロナ禍で講習会の開催が難しい状況ではあったが、令和 2 年 7 月豪雨では未経験者でも問題なく利用できたという。
点検表作成の効率化
ArcGIS の導入により点検結果がデジタル化され、また点検結果に写真と位置情報を紐づけることが可能になったため、基地に戻った後の報告書のとりまとめ作業が大幅に効率化された。
安全性の向上
隊員が自身の位置情報を確認しながら活動できるため、安全なルートを選びながら効率的に緊急点検が実施できるようになった。
また、隊員の位置情報がリアルタイムに GIS 上に反映されるため、どの班がどこで活動しているかが本部のダッシュボードで随時把握できるようになり、後方支援にも役立てることができるようになった。
全国展開へ
2019 年度に前年度の成果として本省に対してプロトタイプの作成を報告したところ、システムの有効性が認められ、全国で試行することになった。実際に令和元年 8 月九州北部豪雨や東日本台風の際に活用され、隊員に対するアンケートでの評判もよく、さらに改良も加え、2020 年 4 月に全国の地方整備局で本格運用するよう本省から通達が出された。
今回は災害時の緊急点検ツールとして開発したが、平時の業務効率化としても有効活用できると考えており、今後はその可能性を検討し平時および災害時でも活用できるツールとして整備していく予定である。
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