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事例

札幌市の新型コロナウイルス感染症への対応を ArcGIS Online で効率化

札幌医科大学

 

ArcGIS Survey123 を中心に、札幌市の感染症対応現場の作業負荷軽減と効率化に迅速に対応

概要

札幌医科大学では、札幌市が行う新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対応にかかる健康観察データ収集の効率化と現場対応業務の負荷軽減を図るため、ArcGIS Online に付属する現地調査アプリである ArcGIS Survey123 を中心とした仕組みを構築した。対応のための判定基準も流動的だった当時の状況下において、ArcGIS Online の Web アプリを活用して、手早くプロトタイプを構築してスモールテストを繰り返した。このようなサイクルで開発を進めたことにより、状況の変化に柔軟に対応しつつ、情報の収集から集約、関係者間での共有までを迅速に展開する仕組みを構築することができた。また、水平展開も容易で、対象となる施設が増えた際の準備にかかる時間も圧縮できた。

課題

COVID-19 の感染拡大に伴い、札幌市においても 2020 年(令和 2 年)4 月から医療提供体制の移行が行われ、軽症者については、入院から宿泊療養(ホテルでの経過観察)への移行が図られた。宿泊療養者(以下、入居者)に対しては毎日、常駐の看護師等が電話や訪問にて健康状態の聞き取り調査(アナログな健康観察)により、入院措置に移行すべき入居者の管理などを行っていた。しかし、入居者の増加に伴い、このアナログ作業が膨大な負荷となることが予期されていた。かつ集めたデータをデータベース化することも負担となっていた。また、閾値となる体温、状態を判定する基準の変更など、健康を把握するための基準設定が流動的であったため、適宜、基準の変更に柔軟に対応できるシステム開発が求められていた。
さらに、COVID-19 は急激に体調が変化する症例が散見されることがわかり、増加する入居者それぞれの状態を適切なリスク因子のもとに評価し、迅速かつ正確に把握することも同時に求められた。

仮想ベッドでのデータ表示
仮想ベッドでのデータ表示

ArcGIS 採用の理由

札幌医科大学では ArcGIS アカデミックパックを導入しており、ArcGIS プラットフォームを自由に使える環境にあった。また、担当した小山助教は、それまでにも講習会などに積極的に参加し、ArcGIS プラットフォームの機能について、ある程度の見通しを得ていた。特に ArcGIS Online については、機能的な Web アプリ構築が平易にできることから、スピーディーな展開が期待でき、プロトタイプを手早く作成しながら、関係者がインターネット上で協業して構築を進められることが採用の決め手となった。

課題解決手法

最初は、ArcGIS Survey123 を利用し、入居者自身が入力するスマートフォン向け調査票を作成することから開始した。調査票の作成自体は手早く完了したが、集約した情報の可視化に際して、個人情報保護の観点から、入居者の匿名性を保持しつつ、状況を総合的に把握できるように配慮する必要があった。
このため、「仮想ベッド」という概念を用いて、現実の場所ではなく、各ホテルの上空に入居者の状態が表示されるような構成とした。この仮想ベッドについては、ArcGIS ユーザー同士としてつながりがあった北海道科学大学の谷川琢海・准教授がマスターデータを作成し、小山助教が入居者データと部屋番号の紐付けを行った。これらに関する、ほぼすべての打ち合わせと作業は、メッセージングツール(Slack)を最大限活用しつつ、連日にわたるオンライン会議上で行われ、数日のうちに骨格が固まった。
この仕組みは、関係者のみならず、市民にも広く周知していくことが想定されていたため、並行してパッケージングにも注力した。
「COVID-19 から人々を守る」という学生からのモチーフをもとに、「こびまる」というキャラクターを作成し、入居者の健康状態によって色が変わるという設定まで行った。このキャラクターは、教員、さらには札幌市職員も協力の上、専門家がデザインして創造されたキャラクターであり、システム自体も「こびまる」と名付けた。

こびまる
こびまる設定資料
こびまる™2020 Sapporo Medical University.
(イラスト:Uzuki)

効果

2020 年 5 月初旬、新たな宿泊療養施設の運用を開始するのに合わせ、「こびまる」の運用を開始した。休みなく行っていた電話によるアナログな健康観察から、デジタル移行することで、健康観察の負荷は劇的に軽減した。また、関係者がインターネット上で入居者の状態をひと目で把握できることは、情報共有にかかる時間的コストの大幅な低減にもつながった。また、ArcGIS プラットフォームの Arcade 機能により、複雑な判定条件を処理して、色分けやシンボル設定を自動化できたことが、収集した情報の分かりやすい可視化に直結した。また、判定ロジックを Arcade でスクリプト化することにより、適宜変更される判定基準についても柔軟に対応することができた。
このような仕組みにより、Web マップ画面だけで、入居者のうち、入院措置に移行する対象者などがひと目で把握できるようになった。また、日々蓄積していくデータについてはタイムスライダー表示を活用することで、状況の変遷も分かりやすく可視化することができた。

これらの成果から、2020 年 11 月現在では対象とする施設を増やして「こびまる」を展開中である。また、市民に発熱外来を紹介するための内部ツールも新たに構築しており、「こびまる」以外にも ArcGIS の活用が広がっている。

設計の主導は札幌医科大学の小山助教が行い、北海道科学大学の谷川准教授が必要な助言をしつつ、札幌市の職員も手を動かしてデータのインポートやジオコーディング、Web マップの編集を手がけ始めている。これは、ArcGIS Online プラットフォームの柔軟でシンプルなアーキテクチャが、少ない学習コストでのアプリ構築を可能にしているためと言える。

複雑な判定処理を可能にしたArcade
複雑な判定処理を可能にした Arcade

今後の展望

健康観察を行うべき対象は、今のところ拡大の一途であり、終息の時期はいまだ不透明である。蓄積されるデータの肥大化に対応するため、今後のスケールアップが検討課題となっている。
また、この仕組み自体がワークフローとして機能することも視野に入れており、今後は ArcGIS Notebooks を活用し、さらに現場の負担を軽減するための仕組みとして発展させていく予定である。
加えて、今回の仕組みは ArcGIS Online を活用したものであるが、蓄積したデータを解析し、今後の感染拡大対策に資するべく、ArcGIS Pro を使った本格的な解析も行っていく予定である

プロフィール


札幌医科大学 公衆衛生学 兼 循環器・腎臓・
代謝内分泌内科学講座
助教 小山 雅之 氏



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掲載日

  • 2021年1月6日