課題
導入効果
日野市は、東京の東西ほぼ中心部に位置する約 18 万 5 千人が暮らす郊外都市である。市内に多摩川、浅川の一級河川が流れ、古くは水田が広がる田園地帯であった。その多くは都市化により姿を消したが、今でも延長 118km の用水がまちの特徴となっており、多摩丘陵など緑豊かな環境が広がっている。また市の北西部には高度経済成長時に造成された工業団地があり、企業の研究施設等が集積するなど、企業に隣接するベッドタウンとして発展してきた都市でもある。
SDGs未来都市選定証交付式
(日野市長 大坪 冬彦 氏:左から 4 人目)
現在、日野市はコンパクトな市域に、ベッドタウンの高齢化、産業の構造転換という 2 つの大きな課題を持ち合わせている。それらの課題を、SDGs(持続可能な開発目標)視点で変革を促し、暮らす人も働く人も高い QOL(クオリティ・オブ・ライフ)を享受できる「生活価値共創都市」の実現を目指している。2019 年(令和元年)には東京都内では初の「SDGs 未来都市」の選定を受けた。現状の課題をわかりやすく可視化するとともにその対策と推進に向けて、ArcGIS プラットフォームの活用を図っている。
市内で最も早く基盤整備が進んだ JR 中央線豊田駅に近接する団地(UR 多摩平の森)では、1997 年(平成 9 年)から「まちの魅力を次世代に引き継ぐコンパクトなまちづくり」をテーマに、現在または今後の都市需要に対応するまちへ、住民や UR、様々な 事業者とのパートナーシップで取り組みを行ってきた。その結果、多世代が居住する地域として賑わいが生まれ、今日では団地再生のモデルとして評価されている。
その一方で、市南部の丘陵部の住宅地は高齢化率が高く、起伏に富んだ地形から交通利便性も劣るため、買い物等の日常生活にも支障をきたす状況が生じている。高齢化が進む中で地域特性に応じた”わかりやすい”地域づくりがますます重要になってきている。ベッドタウンが直面する 2025 年問題は目前に迫っており、SDGs を通じてより多くの企業や市民、また組織内において共創の取り組みを浸透させ、スピードアップしていく事が求められている。
日野市においては、2012 年(平成 24 年)より ArcGIS 自治体サイトライセンス契約を結んでおり、GIS を十分に活用できる環境を構築している。この環境を活かし、17 ある SDGs のゴールの内、ゴール 11 とゴール 3 の取り組みから始めた。
SDGs 11「持続可能なまちづくり」での活用
都市計画課においては、GIS とまちづくり施策の連携を模索しており、生活に必要な都市機能の立地状況の把握や地域課題に関して GIS を活用した可視化を行っている。現在実施している「立地適正化計画」の可視化やモニタリング(経年変化) に GIS の活用を図りながら、業務フローと処理フローも可視化し、ModelBuilder の機能を用いて可能な限り操作を自動化することで利活用しやすくしている。
今後は「2030 年の区画整理の在り方」の検討の中でも同様に現状と課題の可視化を行っていきたいと考えている。本成果は SDGs の 12(消費)、15(陸)、16(平和)、17(パートナーシップ)にも貢献できると考えている。
SDGs 3「健康」の推進に向けた活用
在宅療養支援課では、地域医療体制の把握・検討において GIS を活用している。救急病院、診療所の位置を ArcGIS 上にマッピングし、 ArcGIS Network Analyst を活用した道路網に沿った到達圏分析を行う事で、医療機関が身近にない地域を把握し、地域課題の対応策等の検討資料としている。
また、介護保険事業計画の策定や市民意識調査を検討して行く上で、現状およびアンケート内容等の可視化にも GIS の活用を検討している。
独自指標の検討
SDGs に定められた 169 のターゲットと 232 の指標はグローバルな基準に基づき設定されたものであり、地域や市民視点で捉えることが難しいターゲットの設定もある。地域が SDGs に”自分ごと”として取り組むためには、既存のターゲットと指標に加え、地域の課題視点や資源特性から捉えた独自の指標も必要と考えている。そのために、GIS を活用した課題の把握が重要と考え、立地適正化計画、都市マスタープラン等のデータを活用し、課題の把握を行っている。
内閣府地方創生 SDGs 官民連携プラットフォームの分科会においても日野市をモデルに、GIS を活用した地域課題の可視化と独自指標の検討、また既存のターゲットと関連づけることによる、地域、市民レベルでの SDGs の理解と促進を図る取り組みを行っている。
SDGs の意図を深く理解し、地域での対話を推進するために「課題の見える化」は大変重要だと考えている。
日野市においては、第 5 次総合計画が 2020 年(令和 2 年)度で終了し、2020 年度から第 6 次総合計画 / 総合戦略を作成する予定である。SDGs を基本に据えた総合計画 / 総合戦略を作成していく(バックキャスト、7 つの柱)予定だ。次年度以降、日野市基本構想・基本計画への SDGs 視点の反映と課題共有、ローカライズ指標の設定に向けて、ArcGIS プラットフォームを活用した都市課題の可視化ツールの開発に取り組み、地域の住民や企業、団体等と課題を共有、基本計画や総合戦略の改定に向けた”対話”のツールとしての活用が期待されている。また、既存の SDGs のターゲット、指標に加え、地域独自の課題視点や地域資源を踏まえた独 自の指標(ローカライズ指標)を検討し、計画策定における指標(KPI)の設定、推進マネジメントにも GIS を活用していく予定である。
また、日野市がこれまで培ってきた市民・企業・行政の対話による様々なステークホルダーとの連携にも注力している。SDGs をテーマに開催された地域活動団体のイベント”市民まちづくりフェア”では、地元の大学や東京青年会議所との連携、都市課題をテーマに「シティラボ東京(京橋)」、SDGs を視点とした探求学習では都立日野台高等学校とのコラボにも取り組んでいる。引き続き、様々な社会課題の解決、地域価値の創出に取組む”諸力融合”の姿勢で共創(パートナーシップ)を重視した取り組みを、GIS を活用して進めていければと考えている。
左から
企画部企画経営課 中平 健二朗 氏
健康福祉部在宅療養支援課 長島 稔 氏
まちづくり部都市計画課 氏家 健太郎 氏