課題
導入効果
室蘭市は北海道南部に位置し、北海道と本州を結ぶ海陸交通の要衝として発展した歴史を持つ、人口約 84,000 人の市である。2018 年(平成 30 年)6 月に、北海道室蘭港と岩手県宮古港間を結ぶ「宮蘭航路」に定期便が就航した。2018 年 11 月には、「宮蘭航路フェリーハッカソン」が開催される等、市を挙げて新規就航したフェリーを盛り上げる取り組みを行っている。
室蘭市は、2013 年(平成 25 年)から全庁にて統合型 GIS を稼働させ、地理空間情報の活用を推進し続けている先進的な自治体である。ArcGIS Open Data を活用したポータルサイト「むろらんオープンデータライブラリ」の運用等、日本国内の自治体において先進的なオープンデータの取り組みが評価され、2017 年(平成 29 年)の米国 Esri ユーザー会にて「SAG 賞」を受賞している。
2018 年 10 月 14 日、室蘭市のランドマークである白鳥大橋の開通 20 周年を記念し、『白鳥大橋ハーフマラソン』が開催された。約 2,000 人のランナーが市内のランドマークである白鳥大橋を中心に、ハーフマラソン、7 ㎞、3 ㎞のコースを駆け抜ける。また、約 5,000 人が参加した『白鳥大橋ウォーク』も同時に開催された。
この大会で、室蘭市企画財政部 ICT 推進課や運営主体である教育委員会生涯学習課スポーツ振興、そして経済部観光課(以下 それぞれ、ICT 推進課、生涯学習課、観光課)が、運営に必要な情報の GIS 上での可視化を担当した。さらに現地調査アプリ Survey123 for ArcGIS を用いて、参加者が撮影した写真を投稿する仕組みを構築し、投稿された写真を公開することで広報媒体としても GIS を有効活用した。
『白鳥大橋ハーフマラソン・ウォーク』 は、白鳥大橋の開通を記念して 5 年に一度行われているマラソン大会である。
今回の開催に向けても、準備の初期段階においては、警察・警備員・立哨員(ボランティア)の人員配置、バリケード・看板などの設置場所や距離表示を紙地図へのシールの貼り付けや手書きで管理する等、5 年前の準備方法を引き継いでいた。しかし、配置・設置場所に訂正がある度に起こるシールの貼り直し作業や、一からの紙地図への書き直し作業、紙地図を運営の担当者分印刷し、運営スタッフが当日全コースの紙地図を持ち歩くという手間等が大きな課題となっていた。
GIS で管理することですべての問題を解決できると考えた ICT 推進課主事の川口氏は、運営に必要な情報を GIS 上で更新することで省力化を進め、タブレットなどを活用して紙地図の使用を極力減らし、元来生じていた手間の低減を目指した。
ICT 推進課と生涯学習課、観光課の職員は、マラソンコース沿いに看板・バリケード・通行止めの標識・距離表示や、警察官・警備員・立哨員(ボランティア)の人員配置を作図し、ArcGIS Online 上で可視化させた。
また、マラソン大会当日から終了後数日に渡り、ArcGIS Online が提供する現地調査アプリケーション Survey123 for ArcGIS を用いた写真投稿イベントを開催した。ボランティアや沿道で観覧している方々、参加者に写真を撮影してもらい、Web 上に公開したフォームから投稿してもらうことで、ランナー以外の人々も一緒にイベントに参加できる環境を整えた。
ICT 推進課と生涯学習課、観光課の職員は、マラソンコース沿いに看板・バリケード・通行止めの標識・距離表示や、警察官・警備員・立哨員(ボランティア)の人員配置を作図し、ArcGIS Online 上で可視化させた。運営で必要となる情報を ArcGIS Online 上で可視化させたことで、鳥瞰的な情報共有・確認が実現され、関係者間での確認・報告の手間を削減することにつながった。また、データの更新に係る手間を削減することができた。従来の紙地図での管理方法では、軽微な修正であっても紙地図 1 枚をすべて修正しなければならなかったが、ArcGIS Online を活用することで必要な箇所の修正のみで済むようになった。
また、閲覧においても、ArcGIS Online 上のデータをタブレット端末で確認し、検索機能で速やかに目的地の情報を探し出すことが可能になり、スタッフの負担軽減につながった。ArcGIS Online を利用し地図情報を管理することで、業務が効率化でき、さらにかさばってしまう紙地図を随時持ち歩く必要がなくなった。
写真投稿イベントは、多くの写真を得ることができるのではないかと考え、実験的な取り組みであったが、1 日で 226 枚もの写真が集まり、大会を盛り上げた。ランナーや運営者、観覧者の様子、景色等を捉えた魅力的な写真を集めることができ、その様子はストーリーマップ『白鳥大橋ハーフマラソ ンの写真を撮ろう!』に掲載された。収集された写真は、室蘭市および白鳥大橋ハーフマラソンの宣伝、広報で自由に使えるように外部共有され、ArcGIS Online やストーリーマップから、掲載写真を閲覧することができる。(2019 年(令和元年)10 月 1 日現在)
これら運営に関わるすべての情報を ArcGIS Online 上で可視化させ、Survey123 for ArcGIS を用いて写真を効率的に収集できたことで、同時に 5 年後の大会開催に向けての準備にも利用できるようになった。
ストーリーマップ「白鳥大橋ハーフマラソンの写真を撮ろう!」で写真を共有
(画像をクリックするとストーリー マップが開きます)
最後に、5 年後のマラソンイベントに向けて、今後の展望を川口氏に伺った。
「今回は整備期間が短かったこともあり、職員のみでの内部利用となりましたが、次回はボランティアなどにも公開し、各自が ArcGIS Online 上で警備する場所を確認するなど、利用を拡大したいと思っています」「さらには強風などで橋が通行止めとなった場合に、代替コースが用意されているのですが、その情報が十分に参加者に行き届いていない状況でした。事前に市民へ向けてもコースなどを ArcGIS Online で公開できるのではないでしょうか。また、通行止め情報なども公開していければ、より市民に情報をわかりやすく提供できるのではないかとも思っています」「今回 GIS データを整備したことで、次回の配置の検討をよりスムーズに行うことができると考えています。
5 年後の開催でも、今回整備したデータがその効果をより発揮してくれると思っています」と、この先の運営へ向け、期待を語った。
いち早く地域イベントの運営に GIS を活用させた室蘭市。5 年後の『白鳥大橋ハーフマラソン・ウォーク』では、どのような景色を見ることができるのだろうか。
GIS を通した客観的な状況認識、自治体と参加者のコミュニケーションの場を、ArcGIS を通して支援していきたい。