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タイ洞窟遭難事故 少年たちの救出に向けた 最善策の立案に GIS が貢献

タイ鉱業資源省 / Esri Thailand社

 

洞窟への水の流入箇所の特定、洞窟内部の構造、水位、酸素濃度、気象状況など、あらゆるデータを GIS で可視化し、救出の最善策を立案

概要

2018 年 6 月下旬にタイのタムルアン洞窟内部で発生した遭難事故では、少年たちが置かれた絶望的な状況と一連の救出劇が世界中の注目を集めた。世界各国から様々な支援の手が差しのべられる中、タイ政府と Esri Thailand社をはじめとする GIS チームは地図を使って、収集したデータを可視化・分析し、捜索・救助計画をサポートした。
GIS チームは、まず、地上の水が地下に流入している場所を示す 3D マップの作成を行った。流れる水の方向と量に注目して排水案を複数検討、モデル化し、水の排水作業が行われた。次に洞窟のデジタルツイン(現実世界を模したシミュレーション空間)が作成され、洞窟内部の通路の実際の大きさと各ポイント間の距離が割り出された。少年たちが発見されると、洞窟内部の水位、酸素濃度のデータが収集され、さらに気象データを監視し雨量を予測することで、活動計画の立案に利用された。
少年サッカーチームが洞窟に入ってから 18 日後となる 7 月 10 日、少年たちは無事に全員救出された。

ArcGIS 活用の経緯


Geohazard Operation Centerの対策室で地図を作成し戦略が検討された
Geohazard Operation Center の対策室で地図を作成し戦略が検討された

捜索救助任務においては、通常、地図を使って作戦を立て、道具や消耗品、人員を調整する。GIS で作成した地図を使うと、あらゆるタイプのデータを検索し、探索することができる。洞窟救助の場合は、地図を利用して地下と地上の世界を関連付けるのだ。

活用実績

排水作業

少年たちの行方不明のニュースが流れ、洞窟内に閉じ込められたことが判明したのち、タイ鉱業資源省(Thailand Department of Mineral Resources : DMR)は少年たちの居場所を特定するべく、さまざまな地図を作成するため、Esri Thailand社とGIS Company社の GIS とマッピングの専門家を招集した。
王立灌漑局のスタッフが電気抵抗率技術を用いて調査した地質データをマッピングの専門家が解釈し、地下へ水を送り込んでいる可能性のあるシンクホールを見つけ、地上の水が地下に流入している場所を示す 3D マップを作成した。ボランティアは地図をたどり、流れる水の方向と量に注目して、丘陵地を歩き回って調査を行った。専門家は GIS ベースのデータと分析技術を使用して、挙げられた排水案を複数検討しモデル化した。
「洞窟内に水が流入している場所を特定するため、水量や水の流れる方向および蓄積量、森林被覆の詳細をデジタル標高モデルと地質情報を用いて計算しました」とマッピングの専門家を統括するGIS Company社のシニア航空宇宙マッピングマネージャー Prasertburanakul 氏は語る。「その結果、洞窟の北部と南部から流れ込む 2 つの主要な水源が見つかりました」
王立灌漑局の技術者、国立公園野生動物植物保全省の専門家、王立軍の兵士達で構成されたチームが協力し、洞窟に流れ込む水をせき止めて他の場所へ移すダムを建設し、洞窟の北側のシンクホールから近くの水田までパイプラインを走らせて水を排出した結果、洞窟内の水位は低下し始めた。

少年たちの捜索

救助作戦室が地盤災害司令センターに設置された。過去の調査で得られた通路の断面のデータを GIS に取り込み、洞窟のデジタルツインが作成された。これにより通路の実際の大きさと各ポイント間の距離が明らかになり、活動計画の立案と調整が促進された。これは後日行われるダイビングチームによる探索ミッションの計画・実行の際にも利用される。全世界が注目する中、時間は過ぎ、雨は降り続け、洞窟内の酸素が減少し始めた。その間地上では、王立軍がタイ王立調査局の地形図と日本から提供された高解像度衛星写真を使用し、少年たちがいる場所の近くにつながる穴がないか、森の中を探索していた。エンジニアたちは、掘削可能な場所を探すため、3D 断面図を使い、複数の角度から洞窟の中心までの距離を計算した。捜索が始まってから 7 日後となる 7 月 2 日、英国の洞窟ダイビング専門家のチームは、洞穴の入り口から約 5 キロメートルの泥だらけの岩棚に少年たちが身を寄せあっているのを発見した。

救出計画

ミッションが捜索から救助段階に移り、マッピングチームは、洞窟入り口、300 メートル地点、1,500 メートル地点それぞれの水位と酸素濃度のセンサーデータを収集し地図を作成した。地図は一時間ごとに更新され、その時点の水位と酸素濃度を示し、救助チームに状況の変化を知らせた。また、マッピングチームは気象レーダーフィードを監視して雨量を予測した。
少年たちの発見から 6 日後、ダイバーは不可能に近い状況の下で救助活動を続けていた。地上から少年たちが取り残されている洞窟棚までの移動時間を短縮する方法を模索していた。一方、陸軍のチームとボランティアは、少年たちの居場所に近い洞窟の入り口を探し続けた。地面を掘削しエスケープシャフトを使う救助の可能性を探るため、3D 解析で洞窟の中心までの距離と角度の計算が行われた。水位と降水量も引き続き計測された。
その頃、少年サッカーチームの窮状と懸命な救助活動は大ニュースになっていた。多くの救出案を検討した後、フルフェイスの潜水マスクと担架を使用した救助方法が採用された。洞窟内部の 3D マップをもとに、各ポイントに人員と酸素ボンベなどの物資を配置するなど準備を整え、7 月 8 日に、まず少年 4 人が洞窟から救出された。


地上の水の流れの強さと方向を示し、地下の洞窟と重ね合わせた3Dマップにより、ダムと排水パイプの設置場所の選定が可能になり、水面の上昇を食い止めることができた
地上の水の流れの強さと方向を示し、地下の洞窟と重ね合わせた 3D マップにより、ダムと排水パイプの設置場所の選定が可能になり、水面の上昇を食い止めることができた

最後に

少年サッカーチームが洞窟に入ってから 18 日後となる 7 月 10 日、ダイビングチームは少年たちの最後のグループとコーチを救出し、ついに試練の時は終わりを迎えた。最後の少年たちが洞窟から出た直後、排水ポンプの一台が故障し、正に間一髪の状況だったことが明らかになった。
その夜、タイ海軍 SEAL の Facebook ページに新たな投稿があった。「これが奇跡によるものか科学の力かはわからない。イノシシ(チーム名)達は 13 頭、全員洞窟から脱出した」


補完されたデータを使いマッピングチームが作成した洞窟内部の地図
補完されたデータを使いマッピングチームが作成した洞窟内部の地図

 

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資料

掲載日

  • 2019年1月8日