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事例

豊かな「農・漁」を育む森林の活性化

福岡県 糸島市 農林水産課

 

持続可能な森林経営の実現

概要

「はろ展望台」から見た二丈岳の眺望
「はろ展望台」から見た二丈岳の眺望

糸島市(以下、本市)は、福岡市という大都市に隣接するアクセスの良さと、海と山に囲まれた自然の豊かさが人気を集め、観光地、移住したい町として注目を集めている。森林でろ過された山水の養分が田園から海に流れ込み、豊かな漁場を育むとの考えから、林業の活性化に力を入れている。
しかし、林業従事者の減少により、必要な整備が行われていない人工林が増えており、持続可能な森林経営、森林の有する多面的機能の発揮、林業・木材産業の健全な発展が課題であった。
そのため、本市では ArcGIS を用いて市全域の詳細な森林データの解析、ゾーニング作業を行い、森林の伐採計画や木材を運ぶ林道などの路網計画などを含む「糸島市森林・林業マスタープラン」(以下「マスタープラン」)を策定した。
汎用型 GIS である ArcGIS を用いたことにより、大量かつ多様なデータを集約でき、業務の効率化・高度化を実現した。

課題

本市の森林面積は約 9,800ha ある。2013 年当時、スギやヒノキの人工林を含めて全体の 8 割以上が樹齢 40 年を超え、伐採・利用の時期を迎えていた。しかし、国産の木材価格の長期低迷による収益性の悪化、林業従事者の減少により、間伐など必要な整備が行われず荒廃する人工林の増加が課題であった。
また、本市における持続可能な森林経営、森林が有する多面的機能の発揮、林業・木材産業の健全な発展を実現するためには、本市が講じる様々な施策の全体調和と個別有効性を確保する必要があった。

ArcGIS 活用の経緯

本市の全体的な施策の方針を定めるマスタープランの策定にあたり、森林に関する基礎データとして広域かつ大量の GIS データを効率的に取り扱う必要があった。また、森林情報だけでなく、そのほかの多種多様なデータの利用も必要だったため、森林情報の取り扱いに特化した専用の森林 GIS ではなく、汎用型の GIS が求められた。
本市では、ArcGIS を採用した全庁利用の汎用型 GIS である「糸島 GIS」が導入されている。そのため、林務部門でもこの「糸島 GIS」を利用することで、市域の森林・林業に関連する様々な森林情報や、多種多様なデータを集約することができ、業務の効率化を実現できると考えた。

課題解決手法

2015 年度と 2016 年度に、森林の計画的な循環利用を目指すマスタープランを作成した。本市が講じる様々な施策の全体調和と個別有効性を確保するため、常に施策の効果測定を行い、その結果をマスタープランに反映する継続的な取り組みが重要となる。
マスタープランの策定においては、その基礎データとして、市全域で実施した最新の航空レーザー計測の解析を行うことで、樹種別の詳細な森林の状況を把握し、伐採計画や木材を運ぶ林道等の路網計画を作成した。これらの解析や計画作成には、専門のソフトを用いたが、その結果を ArcGIS の空間解析機能で集計、データベース化した。

林相区分図
林相区分図

路網設計支援ソフト「FRD」
路網設計支援ソフト「FRD」

さらにマスタープランの根幹をなす本市独自のゾーニング作業においては、ArcGIS 3D Analyst を活用して解析を行い、各林分の成長力や道からの距離、環境配慮への必要性等の条件からその林分の施業方針(森林の取扱方法)を定めた。

ゾーニング結果
ゾーニング結果

これらの森林資源情報や路網情報、ゾーニング結果を基に、Excel と ArcGIS とのテーブル結合機能を用いて計画の確認・調整を行った上で、マスタープランの最終成果として伐採計画や路網計画を立案した。

伐採計画図
伐採計画図

また、「糸島 GIS」に市域の森林・林業に関連する様々な森林情報を集約することで、「糸島市森林情報システム」として、業務の効率化・高度化を実現した。
さらに、産出した木材をどう使うかを考える「木材需要創出ワーキンググループ(現 糸島産材活用協議会)」を設置し、森林組合、製材所、工務店などの代表者が参加し、本市で産出された木材を市内で流通・加工・販売する木材の「地産地消型」とそれ以外の「地産他消型」の二本柱で糸島版木材サプライチェーン構築事業を進めていくことを決めた。

効果

天然乾燥材「伊都国のスギ」
天然乾燥材「伊都国のスギ」

今回のマスタープランは、一部のモデル地区ではなく本市全域の詳細な森林データの解析により作成したものであり、これは広域かつ大量の GIS データを効率的に取り扱うことが可能である ArcGIS を有効活用することにより実現できたものである。
森林情報の取り扱いに特化した専用の森林 GIS ではなく汎用型の ArcGIS を活用したことにより、多種多様なデータのオーバーレイ機能等を駆使するゾーニング作業を円滑に進めることが可能となった。また、糸島版木材サプライチェーン構築事業においては、「地産地消型」では建築用の糸島産材を作り、実際に人工乾燥 5 棟、天然乾燥 1 棟の販売に至った。

今後の展望

マスタープランにおけるゾーニングや伐採計画・路網計画については、今後、森林所有者の意向調査や森林組合等の林業事業体による集約化の結果を基に、随時修正を行う必要がある。
森林資源情報についても、森林の成長や間伐等の施業結果を反映させる必要があり、これらのデータの修正作業については、テーブル内の数値データの修正が必要であるが、エクスポートしたテーブルデータの数値を一括で修正できる新たに構築した数値系の「森林資源量解析システム」と ArcGIS による「糸島市森林情報システム」を連携して行っていく。
また本市では、マスタープラン策定時の検討組織「山づくりワーキンググループ」を発展させた「糸島山づくり協議会」を設立しているが、この協議会のメンバーである森林組合や素材生産事業体等の林業事業体に対し、今後得られた森林情報の提供を予定している。提供方法として、ArcGIS Online を活用することも視野に入れており、各林業事業体がダウンロードした詳細な森林資源情報や地形情報を基に専用のソフトを用いて路網設計を効率化する実証も開始している。
本市としては、今後も「糸島市森林情報システム」と各種森林情報をフル活用し、市域の森林整備と林業振興を推進していきたいと考えている。

プロフィール


糸島産材活用協議会メンバー

糸島市

関連業種

関連製品

導入協力企業

組織名住友林業株式会社
住所東京都千代田区大手町1-3-2

組織名株式会社フォテク
住所北海道札幌市東区北36条東26-2-37


資料

掲載日

  • 2019年1月8日