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事例

平成 30 年 7 月豪雨災害被災地における GIS 活用

広島大学 大学院工学研究科 建築学専攻 都市・建築計画学研究室

 

災害ボランティアセンターにおける地図の活用

概要

田中教授は広島県内のさまざまな地域で、住民の方々や研究室の学生と共に地域の計画づくりを推進している。広島県三原市の高坂地区から地域の計画づくりの要望があり、準備を進めていた矢先、西日本を中心に豪雨災害が発生した。三原市でも被害が発生し、発災直後に三原市災害ボランティアセンター(以下、ボランティアセンター)が立ち上がった。
ボランティアセンターでは、地域全体の俯瞰、支援先までのアクセス、対応状況の把握、ローラー調査の状況把握など、時々刻々と変化するニーズに対応する地図をタイムリーに作成する必要があり、田中教授の研究室は地図作成を通した支援活動を行った。
この活動により、地図作成時間の短縮や関係者間での現況認識の共有がスムーズにできるようになった。

課題

ボランティアセンターには、支援者と要請者をマッチングする役割がある。多いときには 1 日 300 人以上の支援者が活動を行った。また、住宅被害のあった世帯からは、電話等により、土砂出し、家具移動といったニーズが寄せられ、それらの受け付けを行う必要があった。これらの運営の中で、現場では以下のような場面で地図に対するニーズが多くなっていった。

そこで、ボランティアセンター立ち上げの 2 日後には、田中教授の研究室による地図班が結成された。

ArcGIS 活用の経緯

田中教授の研究室では以前より、ArcGIS 製品を活用していた。今回は、被災地支援用途に無償で利用可能な「災害対応プログラム」を活用し、併せて PC やプリンターを準備し、ボランティアセンターでの GIS 活用を開始した。

課題解決手法

1.対象地域全域の地図を見たい

作成した全域図、配布した紙地図
作成した全域図、配布した紙地図

ボランティアセンターには、対象地全域がカバーされている大判地図がなかった。そのため、土地勘の無い外部支援者が場所を認識しにくいという課題があった。そこで地図班は、基盤地図情報のデータを活用し、2,500 分の 1 の精度で地図を作成した後、これを大判印刷し掲示するとともに、縮小版(A3 版)も紙地図として支援者へ配布した。

2.支援先までの紙地図を作りたい

まず支援ニーズの受付班が作成したヒアリング票が地図班に渡る。次に、地図班が GIS を用いてヒアリング票に記載された住所から支援先を特定し、その周辺エリアの詳細な地図を作成する。作業フローは図 1 のとおり。

図 1 支援先までの地図作成フロー
図 1 支援先までの地図作成フロー

地図班、支援者へ紙地図配布
地図班、支援者へ紙地図配布

3.対応状況の全体像を把握したい

図 2 完了報告後の地図作成フロー
図 2 完了報告後の地図作成フロー

1 日の活動終了後に、支援先のニーズの完了状況の報告を受ける。その情報をもとに、GIS 上で情報を更新すると同時に、Excel で進捗管理用のテーブル作成を行った。
この作業により、全域の現況マップが毎日更新され、以降の支援先の選定等に活用された。また、この現況マップを都度掲示することで、認識共有を図ることができた。

全域のニーズ分布
全域のニーズ分布

全域のニーズ対応分布
全域のニーズ対応分布

船木地区のニーズ対応分布
船木地区のニーズ対応分布

4. ローラー調査を行うための地図が欲しい

発災から 1 か月後には支援ニーズが落ち着き、次のフェーズとして支援が届いてない住宅を確認するためローラー調査を行うこととなった。その際に、建物名称がわかる地図が必要となり、一般社団法人 G-motty より提供を受けた住宅地図を利用し、ローラー調査のための地図作成を行った。具体的には、図 3 のように情報を整理し、住宅地図にある建物を色分けすることで、支援完了後も見守りが必要な住宅や、新たな支援が必要な住宅を把握することができた。

図 3 地図中の建物の色分けの基準
図 3 地図中の建物の色分けの基準

効果

土地勘の無い支援者でも紙地図を活用することで、支援先までスムーズに移動することができた。また、ボランティアセンターとしても、支援先や支援状況の把握・共有に GIS が役立った。
現場では GIS による複雑な解析は必要なく、現場の要望に応じた分かりやすい紙地図を短時間で作成することが重要である。またフェーズにより必要とされる地図は変化したが、GIS を用いることでこれらに対応することができた。

今後の展望

見守りが必要な人に対しての生活再建支援として、ボランティアセンターの活動を引き継ぐ形で、今後、地域支え合いセンターが運営される。これからは、このセンターの見守り活動のための地図作成支援が行われる。また、市で管理する建物被害判定の結果とボランティアセンターで作成したデータをあわせて利用することで、より精度の高い支援のための地図作成を行う予定である。田中教授の研究室による、地図作成を通した支援活動は今後も続いていく。

プロフィール


工学研究科 建築学専攻
教授 田中 貴宏 氏(前列左から3番目)
田中研究室の皆さん

広島大学

関連業種

関連製品

資料

掲載日

  • 2019年1月8日