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事例

地元建設コンサルタント企業の災害対応における GIS の活用

中電技術コンサルタント株式会社

 

行政からの災害情報を素早く正確に ArcGIS 上に可視化!

概要

中電技術コンサルタント本社ビル
中電技術コンサルタント本社ビル

中電技術コンサルタント株式会社(以下、「同社」という)は、広島市内に本社を置き、河川、道路、港湾、建築、電気通信、情報など幅広いフィールドで総合建設コンサルタントとして活躍する企業である。
近年、頻発する豪雨が引き起こす洪水・土砂災害の広域化・甚大化に備えるため、社会インフラ整備を基本とした被害軽減対策や危機管理対策に係る業務に注力している。
ここでは「平成 30 年 7 月豪雨」において、行政機関が素早く状況を把握し、迅速かつ的確な意思決定を行うための支援として、同社が広島県等いくつかの行政機関より要請を受け、ArcGIS を用いて災害対応のための各種マップを作成した取り組みについて一例を紹介する。

課題

平成 30 年(2018 年)6 月 28 日から 7 月 8 日にかけ、西日本を中心に記録的な大雨を観測した「平成 30 年 7 月豪雨」は、1 府 10 県に大雨特別警報が発表され、この豪雨の影響により河川の氾濫、浸水害、土砂災害等が各地で発生し、死者、行方不明者が 200 名を超える甚大な災害となった。
広島県においても 100 名を超える死者、行方不明者、多くの住家被害や施設被害をもたらしたほか、道路、鉄道、水道、電気等の各種ライフラインにも深刻な被害を与え、断水、停電や鉄道の運休、道路の通行止めなどの交通障害が発生する事態となった。
各行政機関より、「災害の発生状況と被災した箇所を直ぐに可視化したい」という要望を受けた同社は、作業に取り掛かった。ただ、災害情報の迅速な可視化が求められる一方で、行政機関より提供されるデータのほとんどは文字ベースの一覧表が多く、この文字情報を速やかに GIS データに変換する必要があった。さらに、災害時に可視化が必要な情報は、災害種別や状況に応じて異なることから、汎用的に扱える GIS ソフトと技術者の柔軟な対応が求められた。

ArcGIS 採用の理由

災害対応における各種マップの作成にあたっては、ArcGIS Desktop を使用して作業を行った。GIS ソフトの選定においては、GIS 上で作成した複数のマップを様々な形式で公開することを念頭に行われ、以下の理由から ArcGIS Desktop が採用された。本作業においては、オープンデータをはじめ、数多くの外部データを取り込む必要があったが、同製品は、容易に外部データを取り込む(インポート)ことができ、さらには出力(エクスポート)できるファイル形式も充実していたことが採用の理由の一つとして上げられる。また、作業を所管した同社情報事業部が以前より ArcGIS Desktop のライセンスを複数有していたことで、操作に慣れている社員が多かったことと作業データの共有が簡便であったこともあげられた。

課題解決手法

1)データ収集整理

各種マップの作成にあたっては、ベースとなる背景図の収集が必要であった。同社では、データ変換ツールを用いて、国土数値情報(国土交通省)や、基盤地図情報(国土地理院)、町丁・字等別境界データ(統計局)などのオープンデータを ArcGIS Desktop 上に取り込んだ。
また、広島県が公開(ホームページ上からダウンロードが可能)する土砂災害警戒区域等や土砂災害危険箇所等の GIS データも収集し、同じく ArcGIS Desktop 上に取り込んだ。

2)XRAIN との重ね合わせ図作成

国土交通省が公開する 250m メッシュの降雨情報「XRAIN(川の防災情報)」と被災箇所の重ね合わせ図を作成した。時系列で観測された降雨情報と実際に災害が起こった箇所を重ね合わせることで、降雨量と災害状況の相関を分析するための資料として活用された。

XRAIN と被災箇所の重ね図(1)
XRAIN と被災箇所の重ね図(1)

XRAIN と被災箇所の重ね図(2)
XRAIN と被災箇所の重ね図(2)

3)等雨量線図の作成

広島県内各所に設置された雨量観測所の観測情報を基に等雨量線図を作成した。等雨量線図は、点(ポイント)情報として点在する観測雨量情報を面(ポリゴン)情報化し、降雨状況を可視化するために作成された。

等雨量線図
等雨量線図

4)被害概要図の作成

被害概要図の作成にあたっては、まず行政機関より提供された被災建物の住所情報を基に位置情報に変換(ジオコーディング)し、地図上にポイントデータとしてプロットした。次に土砂災害警戒区域や土砂災害危険箇所のポリゴンデータを地図上に取り込み(インポート)、空間検索を行うことで、区域情報と被災箇所を空間的に紐づけた。これにより、被災要因がどの警戒区域、危険箇所によるものなのかを確認した。

効果

ArcGIS Desktop 上で、行政機関が保有しているデータと外部より入手できるデータを重ね合わせ、可視化することにより、被害の状況把握が迅速に行われた。また、災害の要因となっている事象や次に警戒すべき個所を特定することで、行政機関が災害対応を行う上での意思決定を支援することができた。

今後の展望

今回の業務において、現地調査作業での Collector for ArcGIS の活用を検討したが、時間的に余裕がなく、同製品を使うことができなかった。今後、同社では、今回のような災害が発生した場合、Collector for ArcGIS による現地調査作業と、調査結果を ArcGIS Online 上にアップし、Operations Dashboard for ArcGIS により被害状況をリアルタイムで可視化するなど、新たな仕組みを構築したいと考えている。
「災害状況の可視化に、地図は非常に有効な手段である。災害発生時に地図による情報提供サイトを迅速かつ簡単に構築できることが、ArcGIS Online の最大の魅力であり、今後、社内でも積極的に ArcGIS Online を活用していきたい」と曽我部氏は語った。

災害概要図(ホームページ)より
災害概要図(ホームページ)より

プロフィール


情報事業部
曽我部 貴史 氏 ・ 川村 彩織 氏

中電技術コンサルタント株式会社

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資料

掲載日

  • 2019年1月8日