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事例

地域防災マップ「あがらマップ」のシステム構築

和歌山大学 システム工学部

 

投稿機能を備えた、新しい自分たちの防災地図

概要

和歌山大学は、平成 16 年に自治体などと連携しながら地域の防災力を向上・推進するプロジェクトをスタートした。現在は災害科学教育研究センターという組織が地域防災の窓口となり、その土地に根差した防災教育などの活動を担っている。 同センターが持つ地域防災力を向上するための課題について、和歌山大学のシステム工学部システム工学科 コミュニケーションデザイン研究室の吉野教授および江種教授らのグループ は「あがらマップ」を構築した。(「あがら」とは、和歌山県の方言で「わたしたちの」という意味合い)「あがらマップ」の活用により、防災マップの作成からその利用までを一貫して実施できるようになった。その取り組みについて紹介する。

課題

まち歩きの様子
まち歩きの様子

住民自ら防災問題を考え、気づきを得ることを目的に、自主防災組織などが主体となり地域防災力の向上のため、いくつかの地域でまち歩きのワークショップを開催して防災マップを作っている。以前までは A2 サイズの紙地図を用意し、危険箇所・公衆電話・公衆便所など、防災に関する情報を各々が手書きで記入していた。しかし、ワークショップの時間内に、それら全ての手書き情報をデータベース化するには時間が足りず、せっかく集めた情報も活用できずにいた。そのため参加者はワークショップでの成果を十分に持ち帰ることができず、結果、地域住民へ防災に対するモチベーションを維持させるには課題が残った。

ArcGIS 採用の理由

そこで吉野教授らのグループは、新たにインターネット経由で地図上に情報を集約・共有が可能になる「あがらマップ」を構築することになった。 「あがらマップ」の開発に際しては、作成した防災マップの印刷の必要があった。しかし、他のオンライン地図システムでは、利用規約や地図上の建物情報などのデータ量の少なさに問題があり、利用できず行き詰まってしまった。一方で、研究室の大学院生である榎田氏は、参加した防災関係のイベントで ArcGIS のことを知り、可能性を感じた。吉野教授は以前から Google Map や他システムを利用していたが、ArcGIS の活用はしていなかった。 ArcGIS は、ArcGIS Online から配信される背景地図をすぐに利用でき、印刷時にも著作権の問題がない利便性があった。また、ArcGIS API for JavaScript は Web ブラウザー向けのアプリケーションや Web サイトに GIS 機能を組み込むための豊富な API が揃っており、榎田氏は ArcGIS 採用後、約 1 ヶ月いう短期間でシステムを構築した。「コードを書いていくのは大変だったが、API の仕様書を参考にして、初めてでも独自で開発を進めていくことができた」と榎田氏は語る。

課題解決手法

「あがらマップ」はユーザーがスマートフォンやタブレット端末を通して、ブラウザーから防災情報を入力できるシステムだ。

登録できる防災情報
登録できる防災情報

すでに登録されている公園・医療機関・公衆電話・ AED など 17 種類のアイコンから選んだり、避難経路などの情報をラインで入力したり、危険なエリアを囲って登録することができる。防災マップの開発にあたってはユーザーが使いやすい編集機能にこだわり、操作性の向上にもつながった。 以下に「あがらマップ」の機能の一例を紹介する。

[主な機能]

・防災情報の登録 ・⼝コミの追加 ・現在地の表示 ・ハザードマップの重ね合わせ など

口コミの追加
口コミの追加

効果

ワークショップの様子
ワークショップの様子

紙地図を持ち歩いてメモを取っていたワークショップは、「あがらマップ」導入後、現場で直接情報を入力し、短時間で多くの情報を収集・集計が可能になった。入力されたデータは、背景地図を航空写真に切り替えて本当にその場所にあったのか確認することもできる。また、グループ発表では PC をプロジェクターに接続して、大画面で表示させ、地図を動的に動かすことで理解の促進にもつながった。加えて、グループワークではディスカッションに長く時間を割くことができるようになり、参加者同士の意見交換が活発に行われるようになった。 ワークショップ全体を通して、自分の地域について知ることや、参加者とコミュニケーションをとることが、地域防災力の意識の向上につながるといった効果がみられた。また、まち歩きで入力した情報に名前を記録したり、撮影した写真を残したりすることで、「我が事」という意識が芽生え、自分たちのマップになることが、モチベーションの向上にもつながったという。

ハザードマップの重ね合わせと防災情報の編集機能
ハザードマップの重ね合わせと防災情報の編集機能

今後の展望

本実証実験を踏まえ、今後ワークショップを自主防災組織に対しても実施していくことになっている。地元に詳しい方にも参加してもらうことで、より多くの情報が得られ、地域での「自助・共助」の促進につながればと考えている。作成した防災マップは、今後は各自でアクセスできるようにする予定だ。 少子高齢化にあたり、自治体も人手不足が心配されている。自治体としても、地域の力を借りて「自助・共助」を強化したいと考えている。このようなワークショップやツールの活用が、地域住民にとっても、自治体にとっても防災意識を高める有効な手段となるだろう。 本システムを通して、地域住民が既存の防災マップに縛られない、投稿機能を活用した柔軟な、新しい防災地図を手に入れられるようになることを期待している。

プロフィール


システム工学科
コミュニケーションデザイン研究室
教授 吉野 孝 氏 (前列、左)
大学院生 榎田 宗丈 氏 (後列、中央)

災害科学教育研究センター
教授 江種 伸之 氏 (前列、右)
特任助教 杉本 賢二 氏 (後列、右)
研究支援員 平井 千津子 氏 (後列、左)



関連業種

関連製品

資料

掲載日

  • 2018年2月21日