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多摩地域のシンクタンクとして広域的な視点で多摩地域を分析

多摩信用金庫

 

外部の受託調査から内部の経営戦略立案支援まで経営分析と地域の活性化に ArcGIS Business Analyst を活用

概要

多摩信用金庫は、東京都の人口の約 1/3 を占める多摩地域に根差した金融機関で「たましん」として親しまれている。その内部組織である地域経済研究所は、多摩地域を対象とした景況調査や経済データの収集、分析を行うシンクタンクの役割を担い、地域の活性化に寄与している。また、同金庫の経営施策立案のための各種分析や市場調査なども行っている。 多摩地域の経済活性化や同金庫の経営戦略の立案には、複数の行政区域を越えた広域的な視点での調査、分析が必要である。そこで、より効果的な分析を行うために同金庫では、ArcGIS Business Analyst を導入した。その結果、経営分析や受託調査での資料作成の効率化において効果を上げている。 今後は、GIS を活用して航空写真とディープラーニングを用いた分析を市場調査や出店のポテンシャル分析に利用できないかと考えている。

課題

多摩地域は、東京都の中で 23 区と島しょ部を除く 30 の市町村を含む地域である。全国では 2000 年代半ばをピークに平成の大合併が進められたが、多摩地域では現在でも小規模な自治体が多い。そのため、多摩地域の経済活性化には、広域的な視点で地域を俯瞰することが重要である。例えば、近隣の政令指定都市である川崎市やさいたま市では、市の面積や抱える人口規模が大きく、より戦略的かつ効率的な経済活性化策を実施することができる。しかし、個々の自治体規模が小さい多摩地域では、広域的な観点からの施策の実現が難しいだけでなく、同様の施策を各自治体が重複して実施するなど、人、モノ、カネなどのリソースが非効率に使われているという課題がある。 さらに、地域の課題や強みを知り、同金庫の経営戦略に活かしていくためにも、東京都をはじめ千葉県、埼玉県、神奈川県などの周辺自治体を含めて俯瞰的に物事を可視化し、調査、分析を行う必要があった。

ArcGIS 採用の理由


多摩信用金庫では、これまでフリーの GIS ソフトウェアを利用していた。しかし、マッピングの効率性と表現の精度を高めるという観点から、広域的な視点で多摩地域を分析する新たなツールが必要であった。同金庫の中西氏は「多摩地域の活性化のためには、広域連携を図っていかなければいけないという課題を強く感じています。GIS を活用し、多摩地域全体を俯瞰した地域デザインを提示することで、自治体の広域連携を促すことを目指しています」と語った。

課題解決手法

多摩信用金庫では、自治体などから受託した事業の調査結果を GIS で分析、可視化し提供している。広域的な視点での分析が重要であるとの観点から、分析結果を表した地図は多摩地域周辺の自治体を含めた内容になっている。以下に実際の例を紹介する。

ポテンシャル分析

ある自治体からの依頼で、駅前にオフィスビルを誘致した場合のポテンシャル分析を行った。以下の地図は調査の一環として作成したものである。 図 1 の地図は、東京都、千葉県、埼玉県、神奈川県を走行する鉄道路線沿いのオフィス従業者数を駅別に色分けしたものである。調査の際には、大宮、柏など都心からの距離や、企業、人の集積が多摩地域と似ている地域(市)を比較対象に含めることで、依頼元の地域の特徴を分析している。

図 1 鉄道駅別オフィス従業者数
図 1 鉄道駅別オフィス従業者数

インバウンドアンケート調査

外国人観光客の「爆買い」による経済効果が話題となっていた2015年秋に、多摩地域の経済への影響について調査を行った。 図 2 の地図は、地域の企業の協力を得て「街で見かける外国人観光客が増加していると感じるか」についてアンケートを行った結果である。 井の頭恩賜公園や、三鷹の森ジブリ美術館のある吉祥寺エリア、ショッピングセンターの開業が続いた立川エリア、手軽な登山が人気の高尾山周辺では、外国人観光客が増加傾向にあることが伺える。しかし、多摩地域全体で見ると局所的な影響に留まっていることがわかる。

図 2 多摩地域におけるインバウンド調査
図 2 多摩地域におけるインバウンド調査

導入効果

このように、ArcGIS Business Analyst で作成した地図は、受託調査における調査内容の可視化や分析、地域の経済団体や経営者の会合での講演資料として利用している。地図を織り交ぜることで広域的な観点から課題や現状を伝えることに役立っている。 経営戦略の立案支援においては、新規出店や市場調査、競合分析に活用している。 図 3 は、多摩地域に拠点を置く企業がどの金融機関をメインバンクとしているか多摩地域の市町村界と重ね合わせて可視化したものである。 同金庫と他の金融機関のシェア状況を可視化、分析し、各営業店に還元することで営業戦略に活かしている。 新規出店を検討する場合は、競合となる金融機関と見込まれるシェアがどの位になるのか分析、検討を行う際に ArcGIS Business Analyst を活用している。

図 3 町丁字別企業メインバンク率 1 位の金融機関
図 3 町丁字別企業メインバンク率 1 位の金融機関

今後の展望

航空写真とディープラーニングの活用に着目している。従来から使用している統計データに加え、画像解析の手法を適用することで、地域のポテンシャルとなる指標を推計できるのではないかと期待している。

プロフィール


多摩信用金庫 ガバナンス本部
経営戦略室 地域経済研究所 調査役
中西 英一郎 氏



関連業種

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資料

掲載日

  • 2018年2月13日