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事例

環境と調和した地域・都市づくり支援のためのマップ作り

広島大学 大学院工学研究科

 

GIS を活用した、地域特性や環境に配慮した地域・都市計画

概要

中国地方における GIS コミュニティの創出と拡大を目的とし、2013 年より毎年「GIS Day in 中国」を広島大学 田中教授が主催し、産官学より多くの参加者が集う交流イベントとなっている。田中教授の研究室は、建築学の中でも地域都市計画・都市環境といった分野を専門としている。具体的には ① 都市高温化緩和のための都市環境気候図作成、② コンパクトシティの計画支援を目的とした CO2 排出特性マップ作成、③ 中山間地域における地域資源情報のマップ化・共有化、といった研究課題に取り組んでおり、これらの研究を進める上で GIS が必要不可欠となっている。

課題

① 地球温暖化および都市ヒートアイランド現象により都市の気温は上昇しており、生活者や環境に様々な影響が及んでいる。都市高温化を緩和する方法として緑化や風の道の創出等の対策があるが、有効な対策は同じ都市内でも異なることから、適材適所の対策をゾーン毎に示す「都市環境気候図(クリマアトラス)」の作成が必要であった。

② 現在多くの地方都市では人口減少が進んでいる一方、スプロール現象も見られ市街地の低密度化が進んでいる。このような都市では公共交通の成立が困難であり、自動車利用が増加し、インフラの整備・維持管理効率も低下する。結果として CO2 排出が増え、また、より多くの都市インフラコストが掛かるといった弊害が生じている。このような状況の中、集約型都市構造(コンパクトシティ)の必要性が指摘されている。

③ 広島大学が包括連携協定を結んでいる広島県世羅町の伊尾小谷地区では、人口減少や住民の高齢化により様々な課題が生じている。そこで、学生主体のシャレットワークショップを開催し、学生と地域の人々が話し合い、それをもとに課題の抽出や地域づくりの提案を行った。その中のひとつとして、高齢者の外出頻度の減少という課題を受け、ウォーキングマップの作成が提案された。

ArcGIS 活用の経緯

① 都市環境気候図作成には、気候環境の分析(小学校に設置された百葉箱を利用した気温測定データと各種 GIS データの重ね合わせ、都市気候シミュレーション等) に基づき対象地のゾーニングを行う必要があり、GIS の活用が必要であった。ここでは横浜市を対象地として、風環境を 5 ゾーン、緑環境を 4 ゾーンにそれぞれ区分した。

② 2014 年に立地適正化計画制度が創設され、コンパクトシティの実現に向けた動きが国内で進んでいる。このコンパクトシティの計画に際し、「将来的な市街地をどこに設定するのか?」を決める必要があり、その設定に GIS が必要であった。具体的には、まず 2040 年時点の将来人口分布図を作成し、それに基づき 2040 年時点の広島県の各地域における CO2 排出特性を示したゾーニングマップを ArcGIS を利用して作成した。

③ 広島大学、近畿大学等の教員と学生が伊尾小谷地区で、合計 4 日間の合宿を行い、対象地の調査と分析を行った。その結果、高齢者の孤立を防ぎ住民相互の交流を促すための方策として、ウォーキングのきっかけとなるマップづくりが地域にとって必要と考えた。そこで、地域資源を見て回ることのできる 3 つのウォーキングルートが提案され、ArcGIS を使った地図作成が行われた。

課題解決手法

① 横浜市内の気温分布を見ると、平均気温と夜の最低気温は市内で 2 度程度の差があり、昼の最高気温は 3 度程度の差がそれぞれ見られた。


風況 気温
(全て 8 月 7 日 11 時)

海風到達時間
海風到達時間

緑地と気温の関係を調べたところ、緑が多い場所で夜の気温低下は見られたが、昼の気温低下はあまり見られなかった。そこで、次に海風に着目した。南の海岸からの距離と気温の関連を調べると、昼間に海岸から離れている地域の気温が高い傾向が見られた一方、海岸部では海風が吹くことで、気温が低くなる傾向が見られた。

② 広島県は広島市等の中核都市を有するが、農村地域も多い。人口分布予測では人口増減の要因分析を行い、人口増加には土地利用や標高等が、人口減少には DID (人口集中地区)や駅までの距離等がそれぞれ関連していることを明らかにした。そこで、それらのレイヤーを重ね合わせて人口増減ポテンシャルマップを作成した。


広島県の人口増減ポテンシャルマップ

結果として広島市と福山市の中心部は人口増加傾向となったが、その他エリアは人口減少となりスプロール現象とは逆の傾向がみられた。
次に CO2 排出特性によるゾーニングが行われた。具体的にはパーソントリップ調査の結果をもとに、日常的な人々の移動(車で移動した場合の排出量)、住宅での冷暖房利用、住宅建設、建替、解体、道路や公共施設等の都市施設による CO2 排出量を推定し、どの地域で排出量が多いのかを示すマップを作成した。その結果、CO2 排出総量は広島市や福山市などの中心部で高くなったが、1 人あたりの CO2 排出量は低いことがわかった。

③ 伊尾小谷地区の人々とのワークショップを通じ、景色の良い場所やお寺などの地域情報収集を行い、それらの地域資源を集約し、ウォーキングマップに掲載した。

効果

YOKOHAMA KLIMAATLAS 2010
YOKOHAMA KLIMAATLAS 2010

① 都市環境気候図により、昼は「海風効果活用推進ゾーン」、「日陰創出推進ゾーン」など、夜は「緑化推進ゾーン」などの対策をそれぞれ示した。これら研究成果については、横浜市の「新たな『横浜市環境管理計画』」にも掲載されている。

② CO2 排出総量と 1 人あたりの CO2 排出量を重ね合わせ、CO2 排出特性による地域ゾーニングマップを作成した。この地図により、市街地緑辺部に位置する黄色ゾーンは CO2 排出量と、1 人あたりの CO2 排出量が共に大きいことが分かった。人口があまり集中していないエリアにも関わらず CO2 排出総量が大きいため、場合によっては市街地の撤退的管理により縮小を図ることも必要と考えられる。

CO2排出特性による地域ゾーニング
CO2 排出特性による地域ゾーニング

③ ウォーキングマップを作成したところ、地区内の鉄道駅に看板として設置され、メディアから取材を受けるなど反響が大きかった。また、ワークショップで抽出されたニーズのひとつであるマップ作成を行ったことで地域主体のウォーキングイベントが開催され、その他イベント開催にも繋がった。地域づくりのための地域資源情報共有には、デジタル化の必要性もある一方、紙や看板といった触れることのできる媒体の地図も有用と考えられる。

備後三川案内マップ
備後三川案内マップ

今後の展望

今後、田中研究室は都市高温化対策としての緑化や風の道創出に向け、よりミクロなレベルでの熱環境の視覚化に取り組んでいくつもりだ。また、コンパクトシティ研究は対象範囲を県レベルから、よりミクロな市町村(広島市、竹原市、東広島市) レベルに移す検討が現在進んでいる。田中研究室が展開する GIS を活用したまちづくり手法は、人口減少時代の日本において地域特性や環境に配慮した地域・都市計画を進める上で、今後もますます重要性が高まっていくだろう。

プロフィール


工学研究科 建築学専攻 
教授 田中 貴宏 氏(前列中央)
田中研究室の皆さん



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資料

掲載日

  • 2018年2月2日

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