課題
導入効果
平成 28 年熊本地震において熊本市は甚大な被害を受けた。地震からの復旧・復興において、まず初めに実施されるのは、地震に伴って発生した大量の震災廃棄物の処理業務である。熊本市を拠点とする環境・開発プロジェクトの総合コンサルタントである「株式会社 環境と開発」は、東日本大震災での経験と、最新の GIS ・ドローン技術を用いて、迅速かつ精度の高い廃棄物処理業務を実施した。
平成 28 年 4 月 14 日に発生した大地震により、熊本市内の多くの建物が倒壊し、瓦礫や使用不能になった財道具などが町中から廃棄され、大量の片付けゴミが各地の「仮置場」に集積された。
この仮置場はすぐに片付けゴミで満杯になったが、7 月 18 日より開始された公費解体による廃棄物の受入れも必要となり、熊本県全体の昨年のゴミ排出量の約 3.5 倍に相当する 195 万トンを2年以内に処理する能力とスピードが求められた。
このような「片付けゴミ処分業務」においては、処分出来高を正確に把握することが重要であるが、大量の廃棄物の体積を計量器を使わずに計測することで、効率的に処理を進めることが可能になる。そこで(株)環境と開発では、近年急速に普及し、比較的安価に導入が可能になっていたドローンに着目した。ドローンで仮置場を定期的に空撮すれば、仮置場の瓦礫の状態をモニタリングできるのはもちろん、点群やオルソ画像、数値表層モデル(DSM)などの GISデータとすることで、以前の状態と比較して時系列的な変化も把握できる。ちょうどその頃、Esri社が Drone2Map for ArcGIS をベータ公開していることを知り、「これならドローンで空撮した写真データの処理から ArcGIS 上での解析、成果図作成まで一貫してでき、今回の業務にぴったりはまると確信した」と前田氏は言う。
しかしながら、ドローンを使った調査は同社にとっても未経験の業務であり、安全の確保やフィルターの使用、自立航行による撮影など、実際に飛ばすことで得られたノウハウも多いと言う。
特に自立航行については、当初は手動で操縦し、撮影ボタンを連打していたが、中盤より Android タブレット上で利用できるアプリ Pix4Dcapture を見つけ、これを使用した撮影に移行することで、非常に楽に撮影を行えるようになり、今では会社の若手従業員にも任せられるようになった。
Drone2Map for ArcGIS については、撮影した写真を読み込んで Start ボタンを押すだけで必要な点、DSM、陰影図、オルソ画像等の GISデータが一括で作成でき、非常に簡単で強力!と絶賛する。同社は定期的に仮置場に通ってドローンによる空撮を行い、以下のような、解析やマップ作成の基となるデータを作成した。
廃棄物の体積マップ
Drone2Map for ArcGIS 上に表示されたフライトパス
廃棄物の体積を求める解析は、本来であれば廃棄物がある状態とない状態の 2 時期の DSM の差分を計算することで実現可能であるが、今回のケースでは廃棄物がない状態での撮影データが無いことが問題となった。
そこで、ArcGIS 3D Analyst の機能を使用して点群データを編集に適した TIN に変換し、廃棄物を取り去った状態を作成、元の TIN との「サーフェス差分」により体積を計算した。この計算処理フローはすべてジオプロセシングツールで行うことができ、このフローをモデルとして保存しておくことで同社のノウハウの蓄積にもつながっている。また、廃棄物の山ごとに計算された体積の値をマップ上に表示した分かりやすい成果図も ArcGIS Pro で作成し、関係者との情報共有に使用された。
最初の試行段階で使用された Drone2Map for ArcGIS のベータ版ではドローン搭載の GPS の位置情報のみを基に処理を行うため、GPS の受信状態が悪い場合にはデータの精度も悪くなってしまうという問題があった。製品版の Drone2Map for ArcGIS では地上基準点(GCP)を利用できるようになり、この点は大きく改善された。基準点を取得することで、5cm ほどの精度は実証済みとのことである。
ドローンと ArcGIS 製品を用いて、震災廃棄物仮置場の空撮からマップ作成、廃棄物の体積計算、成果図作成まで一貫した業務フローを構築することができた。
このような解析においては、位置精度が非常に重要である。今回使用した PHANTOM4 に搭載されている GPS の精度は決して高いとは言えないため、次のステップとして、高精度の GPS と近赤外線カメラを搭載した産業用ドローンを導入し、さらに効率的な測量を実施することを目指している。