課題
導入効果
院庄林業がある岡山県津山市は、岡山県の県北に位置し、津山盆地とその周辺から成り、美作ヒノキの産地となるヒノキの人工林が広く分布する地区である。その津山市の久米工業団地内にある院庄林業 製材事業部の製材工場では、美作ヒノキを主な原木とした看板商品のひとつであるJAS認定無垢材の「匠乾太郎(ヒノキ柱・土台)」を生産し、木造住宅の主な部材として全国に出荷している。「匠乾太郎」はJASで強度を担保し、乾燥工法を工夫することにより、形状変化を抑えた部材である。製材事業部では「匠乾太郎」を含め、月間で原木消費量が約6,000立方メートル、また北欧材と国産ヒノキ材を主な原材料として使用する集成材を生産するインノショウフォレストリー事業部では、工場生産量として約13,000立方メートルを出荷している。
院庄林業は、前記の「製材事業部」、「インノショウフォレストリー事業部」のほかに、戸建て住宅や公共施設の建築効率化のために部材の加工を行う「プレカット部」、資材を販売する「建材センター」、木造住宅の建築・販売を行う「院庄林業住宅㈱(関連会社)」など木造住宅に関連するグループ会社も含む、川上から川下まで請負うことのできる企業である。
ここでは、製材事業部がArcGISを中心とするシステムを活用して山林状況を把握し、森林所有者へ明確な説明を行うことで効果的な立木の購入を実現した事例について紹介する。
院庄林業では、3年前から製材工場で消費する原木の仕入れコストの削減や安定的な単価での原木調達のために、山林事業(森林所有者から直接立木を購入する事業)を始めた。事業を進める中で、森林所有者との協議のスピード化、境界確認の正確さ、確認行為の重要性、伐採業者との情報共有の重要性が認識され、GISを中心としたシステムの構築が進められることになった。
森林所有者から立木を購入する場合、森林所有者の土地がどの範囲であるかを明確にする必要がある。土地の境界をすぐに明示できるシステムがこれまで社内になく、境界を確定するために測量を依頼すると費用が掛かりすぎるという課題があった。そのため、購入したい立木のある山林の地番情報を森林所有者に確認し、該当する山林の地籍情報を関係機関(自治体、法務局等)から入手することとした。
入手できる地籍情報は、山林を所在する市町村によって異なっており、ベクターデータで提供されるものもあれば、紙地図で提供されるものもあった。そのため境界データを作成する上で、まず地籍情報をArcMapに取り込む必要があった。
ベクターデータは主に「SIMAフォーマット」で提供されるので、変換ツール(国内データ)を使用し、ArcMapに取り込む。紙地図は、画像データとして一度ArcMapに取り込みジオリファレンスを使用して地籍図(集成図)の位置を確定し、ArcScanで自動ベクトル化することで、ArcMap上で利用できるデータを作成した。
作成した境界データをKML等に出力し、Google Earth等によりインターネットで公開されている衛星画像に重ね合わせ、対象地の植生状況を見ることで、目的のヒノキが数多く育っている山林かどうかを確認することとした。
インターネットで公開されている衛星画像では、撮影の時期などにより、正確な情報を入手できない場合があることから、立木の購入の契約が具体的になった山林については、ドローンを飛ばし、より詳細な画像を撮影した。
森林所有者と契約し、伐採を行った後に伐採済みの対象地を再度ドローンで撮影した。その後、境界データと重ね合わせた現地図面を作成し、森林所有者に対する説明を行った。
対象地を伐採する際には、関係機関に対し伐採届等の手続きを行う必要があり、ArcGISを使用し関係機関に提出する書類の添付図面を作成した。
境界データと航空写真を重ね合わせ、境界確認用図面を作成することで、社内での初期調査の段階でわざわざ現地に赴くことなく、図面上での判断が可能となり、初期調査の時間を大幅に短縮することができた。
広範な面積の山林を伐採する際、長期の作業期間を要するが、ドローンで上空からの画像を撮影し、ArcMapで画像を確認することにより、作業進捗率を的確に把握することができるようになった。
境界が明示された図面を利用して森林所有者と交渉に当たることで、現況の説明の際に共通の認識を持ち、納得感を持って交渉を進めることができるようになった。
伐採前後の航空写真を比較して森林所有者に提示することで、伐り残しや誤伐が無いことを説明できるようになった。これにより、信頼感を持って森林所有者と対話できるようになった。
対象地に植えられているヒノキの面積は現状の方法で分かるが、樹高や幹の太さ、害虫による被害、曲がりなどは把握できないという課題がある。今後はレーザー測量等の技術についても検討し、スピード化と精度の向上を図っていく。
また、境界の精度にまだ誤差があることから、精度を上げるためにより高性能なGPSを活用した新たな取り組み等にも挑戦する予定だ。さらに、森林・林業・材木業の持続のためにこれらの技術を利用し、山師のイメージが変わるような、森林所有者から信頼される林業事業者を目指していく。