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事例

3次元データの解析ツールとArcGISを組み合わせた高度な森林情報の管理

千葉大学 園芸学部 緑地環境学科

 

森林域での3次元データ取得方法や解析手法を紹介し、3次元データを活かした森林管理方法を提案。レーザーデータやUAV(ドローン)を用いた最新の森林計測技術を紹介

概要

千葉大学 園芸学部 緑地環境学科は環境造園、緑地科学、環境健康の3分野で緑地の研究を行っている。加藤氏の所属する緑地科学領域 再生生態学研究室は、景観生態学や再生生態学の分野での研究を進めており、リモートセンシングやGISといった技術を用いて緑地を計測する技術や解析手法を開発している。
近年、森林分野での3次元データの活用が大変注目され、2次元データを用いて把握してきた「緑の量」としての緑地分布の把握から、3次元データを用いた「緑の質」としての緑地を評価する手法の開発を行っている。

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森林資源量の正確な把握には、森林域における3次元データの利用が最も有効な手法である。3次元データを普及させるには、「取得方法」の改善と「解析技術」の発展が必要であった。森林域で3次元データを取得する方法は、これまで航空機レーザーしか有効な手法がなかったが、近年は様々なデータ取得方法が利用できるようになった。例えば、地上レーザーやSf M(Structure from Motion)を用いた連続写真からの3次元データの作成である。写真画像から3次元データを作成する手法は安価で容易であるため、身近に3次元データが利用できる環境が急速に整い始めている。ここでは、森林域における最新の3次元データの取得方法から、得られたデータの解析方法までを紹介する。簡単な紹介であるため、「3次元データの取得方法やデータ解析にお困りの方は、お気軽に加藤までご連絡をいただきたい」とのことだ。

背景

3次元データの取得方法としては、航空機レーザーや地上レーザーといったレーザーセンサーによるデータ取得方法がある。航空機レーザーは広域を効率良くデータ取得できるため、県や国単位での広域データの取得に向いている。地上レーザーは持ち運びができるセンサーで、森林内にセンサーを持ち込み、3次元データを取得する。樹木を近距離からレーザー照射し、3次元データを取得するため、詳細な樹木形状のデータが得られる。

近年では、レーザーを用いずに写真画像から3次元データを作成する方法(SfMと呼ばれる手法)が注目を集めている。その代表的なソフトがPhotoScan (Agisoft Inc.)である。連続で撮影された写真画像をこのソフトに入れるだけで、3次元点群データが作成できる。SfMは写真測量の技術を応用し、従来マニュアルで行っていた作業をすべて自動化した技術である。写真画像から作成される3次元データは、画像上に陰があるとデータを作成できないという欠点がある。一方、レーザーは陰の有無に関係なく確実に3次元データを取得できるため、林内の暗い森林現場での地上レーザーによる3次元データ取得が確実な方法である。しかし、UAV(ドローン)にカメラを搭載し、上空から写真撮影をすれば、安い費用で航空機レーザーよりも詳細な3次元データを取得できるため、近年大変注目を集めている。

解析手法

3次元データ解析として、ArcGISの役割は大きい。3次元データから得られた結果を2次元のレイヤーで整備できれば、ArcToolBoxにある様々な解析ツールを利用することができる。3次元データの解析と言っても、ユーザーが必要とする情報は既存のデータと比較できる2次元データで表示されることが多い。さらに、3次元データの表示にArcSceneを利用することで、データの状態を確認することができる。

3次元データを扱う際は、LASという共通フォーマットを用いる。ArcGISではLASをそのまま「データの追加」で表示することができない。LASデータをArcGIS上で扱えるフォーマットに変換するために、「LASデータセットの作成(データの管理)」というArcToolBoxにあるツールからlasをlasdという拡張子へ変換する。作成できたlasdレイヤーは、データ追加後何も表示されていないように見えるが、拡大するとデータが表示される。ArcSceneでは、3次元データの配色などの細かい設定が簡単にできる。データ量が大きい場合は、ArcSceneでの表示が難しいため、無料ソフトでのデータ表示をお勧めする。3次元データを解析するお勧めの無料ソフトを以下で紹介する。無料ソフトの開発が近年非常に活発であり、今後もさらに良いソフトが出てくる可能性もある。

LAStools

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http://www.cs.unc.edu/~isenburg/lastools/

LASファイルでのデータ管理・解析に向いているソフトである。様々な地表面データ(DSM, DTM, 様々なパーセンタイル値)を点群から自動で作成できる。ArcCatalogにツールを追加し、ArcGISのGUI上で操作できるため、ArcGISユーザーにとっては非常に使いやすい無料ツールである。

Cloud Compare

http://www.danielgm.net/cc/

3次元データを高速で表示、データのマッチングや合成、必要な場所の切り出しがマニュアルで可能。マニュアルでデータ処理を行う人にお勧めのツールである。

FUSION

http://forsys.cfr.washington.edu/fusion/fusionlatest.html

加藤氏がワシントン大学に所属していた際、当時の上司が作成したソフトである。3次元データを高速で表示、レーザーデータからソフト上で単木単位の樹木計測を簡単にできる。大量の3次元データから自動で地形図を作成、地形データを点群データと一緒に表示し、マニュアルで樹木計測ができる。

rLiDAR

https://cran.r-project.org/web/packages/rLiDAR/rLiDAR.pdf

無料の統計ソフトであるR言語を使用したレーザー解析ソフトである。Watershed法による自動の樹冠形状抽出(樹冠投影図の作成)やα-shapeによる3次元樹冠形状モデル作成がプログラムのパッケージとして利用可能である。

WebLiDAR

Web上で3次元データを解析できるようにしたツールである。Web上で解析可能であるが、データ容量に制限がある。rLiDARと同じ開発者が作成しているため、大容量のデータ処理はRで解析することをお勧めする。

3次元データの導入

これまでの森林管理は、2次元画像から解析していたため、2次元平面上での森林の増減しか把握できなかった。本来、森林管理に必要な情報は樹木成長等の3次元での増減である。3次元データを解析できる無料ソフトでデータ解析し、得られた結果をArcGISで保存することが高度な森林管理で望まれる。3次元解析ソフトの開発は非常に早く、今後もさらに良い無料ソフトが公開されると思われる。LAStoolsのようにArcGISをプラットフォームとして、ツールをArcToolBoxに組み込み、解析できるようなソフトが増えることを期待したい。

今後の展望

Esri CityEngineにより、3次元の都市景観モデルが容易に作成できるようになった。今後は、都市景観モデルと実際の3次元データとを重ね合わせることで、現実を反映した景観モデルを作成できる。これまでの「見る」データ利用から「使える」データ利用へと3次元データを普及させるためには、3次元データを解析し、「使える」3次元データとして整備する必要がある。今後もデータ取得方法や解析手法の改良に努めていく予定である。

プロフィール


園芸学研究科 助教 加藤顕氏
森林内で地上レーザーを用いて3次元データを取得している様子

千葉大学

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資料

掲載日

  • 2016年2月29日