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事例

GISを活用した大規模災害対応訓練の成果とは

茅ヶ崎市 市民安全部 防災対策課

 

クラウドGIS、独自開発ゼロ方針、アジャイル戦略により短期間・低コスト導入に成功

課題

導入効果

 

概要

災害対策本部運営訓練の様子
災害対策本部運営訓練の様子

茅ヶ崎市では、大規模災害に備え、災害対策本部運営訓練を実施し、2014年の今年で4年目になる。訓練統制部から予告無しに付与される状況に訓練参加者(今年は職員約240名が参加)が適切に対応できるかが試される本番さながらのロールプレイング型訓練である。市では、IT(GIS)による状況認識の統一を実現すべく、ArcGIS OnlineによるクラウドGISを短期間・低コストにて導入することに成功し、本年度の訓練において大きな成果をあげた。

導入経緯

防災対策課では、4年目の訓練を計画するにあたり、IT(GIS)を活用した状況認識の統一を実現しようと考えた。そこで、低コストかつ短期間で導入が可能で、かつ部局間の情報共有に適したArcGIS Onlineを利用することにした。市では、別業務においてArcGIS for Desktopを既に導入しており、ArcGIS Onlineの無償ライセンスを追加する権利があったことも導入の決め手となった。

 

システム構成

システム構成概要
システム構成概要

導入したシステムの構成は極めてシンプルである。クラウド上のArcGIS Onlineに組織サイトを設定し、訓練に必要なデータモデルをフィーチャやマップとして実装し、付属する標準アプリのみを利用して各グループからアクセスする構成とした。

 

導入効果

1.低コスト、短期間導入

茅ヶ崎市災害対応マップポータル
茅ヶ崎市災害対応マップポータル

組織間連携を伴う災害対応訓練ということで、業務ニーズは高度で複雑なものであったが、今回のシステムは数週間程度の短期間で低コストに導入することができた。クラウドを利用したことにより環境構築期間・費用が大幅に削減されたことは言うまでもないが、ArcGISの豊富な標準機能群と柔軟な構成変更能力をフルに活用し、独自開発ゼロ方針で進めたことが最も大きな成功要因であった。また、要件定義や基本設計などをドキュメント形式で進める従来の手法は時間がかかる上、関係者間の理解にギャップが生じやすい。

本プロジェクトではアジャイル戦略を採用し、スプリントと呼ばれる短期間実装サイクルを数回繰り返すことで、実際に動作するソフトウェアを見ながら短期間で欲しい物に近付けて行くことができた。

 

2.総括情報班データ入力用Webマップ

情報入力用Webマップ
情報入力用Webマップ

訓練が始まり災害対策本部に集まってくる災害情報は、総括情報班により集約・整理される。当班の2名の職員をGIS入力担当とし、入力用のWebマップ上で状況データの更新が行われた。入力担当者は、特別なトレーニングなしに半日のリハーサル入力を経て本番に臨んだが、矢継ぎ早に報告される情報を落ち着いて処理することができた。

3.避難所管理者用スマホアプリ

避難所管理者用スマホアプリ
避難所管理者用スマホアプリ

刻一刻と変化する各避難所の状況は、管理者から電話やFAXなどで本部に連絡されるが、来るべき災害に備え、自宅から直行した職員が自分のスマホやタブレットをBYOD(Bring Your Own Device)として入力する方法のテストも行った。Collector for ArcGIS を利用し、スムーズな情報更新が可能なことが確認され、本部側で入力の手間も省けることから今後の選択肢として検討していく予定である。

4.本部員会議ダッシュボード

訓練中には災害対策本部の活動方針を決定する本部員会議も開かれた。ここでは災害対策本部の本部員が被害や応急対応の最新の状況を概観し、迅速で適切な判断が求められるため、マップに加え集計情報をグラフ形式などで可視化するのに適したOperations Dashboard for ArcGISを使って効果的な情報共有が実現された。

 

5.世界最大のGISユーザコミュニティから公開される豊富なコンテンツ

津波浸水深推定(青)と土砂災害危険箇所(ピンク)およびリアルタイム気象情報のマッシュアップ
津波浸水深推定(青)と土砂災害危険箇所(ピンク)
およびリアルタイム気象情報のマッシュアップ

ArcGIS Onlineのもう一つの魅力は、世界最大のGISユーザコミュニティから公開されている膨大なコンテンツ群である。下図は、被害マップ上に国土交通省から公開されている土砂災害危険箇所(ピンク)、内閣府から公開されている南海トラフ巨大地震の津波浸水深推定(青)、およびリアルタイム気象情報(天気、風向、風速)を重ねている。こうしたオープンデータのマッシュアップは、災害時の意思決定に強力な武器となる。本訓練においても、塩素ガス漏れによる避難指示エリアを決める際、ArcGIS Online上に公開されているリアルタイム気象情報から現時点の風向と風速を重ねることで、風下のガスの拡散エリアを分析・議論することができた。

 

今後の展望

今回、GISの利用は訓練参加者の一部に留まった。来年からGISを訓練の業務フローに本格的に組み込み、より広範囲で状況認識の統一ができるようにしたい。また、訓練利用や大災害時のみでなく、市で毎年発生する風水害における活用も検討していく予定である。

 

プロフィール


市民安全部 防災対策課
課長補佐 橋村 和雄 氏(左)
     小松 浩幸 氏(右)



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資料

掲載日

  • 2015年3月4日