フロリダ州パームビーチ郡学区では、GISは設備管理や人口統計分析、生徒数の推定、境界割り当て、そして送迎バスの計画などの業務レベルで長年使われていました。しかし2007年、この学区のGISコーディネーター兼プランニング・ディレクターであるドナ・ゴールドスタイン博士は、補助教材としてのGISの強力な可能性に気付き、同時にGISの圧倒的な市場性を知り、GISを授業のカリキュラムに組み込む可能性を探り始めました。博士は、研究でGISを授業に組み込むのは有益だと示唆されていることは分かっていましたが、学校のテストの点数を上げると確実に証明している研究はどこにもないということも知っていたため、自分自身でそれを確かめてみようと決心したのです。
生徒達が作成した世界の火山と地震の地図
パームビーチ郡学区はアメリカ国内で12番目に大きい校区です。一般的なイメージと違い、この郡の人口は主に中流家庭と貧困家庭で構成され、生徒の人種も様々です。17万人いる生徒は英語以外の149もの異なる言語や方言を話し、50%以上が昼食代の全額や一部免除の対象となっています。今回のプロジェクトのためにパームビーチ郡校区を利用することの重要性は、その人種の多様性にありました。校区はまるで国家の縮図のように、ヒスパニック系およびアフリカ系アメリカ人の増加という全国的な流れを反映していたのです。
しかしながら、教師たちと事務方の両方が直面した問題の一つは、GISのような革新的なアプリケーションの教育における有用性を証明することでした。標準テストの点数とクラスの成績が一般的に重要視されているため、カリキュラムにGISを組み込むよう計画立案者を説得することは難しいことだったのです。
したがって、校区の決裁権者を納得させるには、すでに満杯のカリキュラムにGISを組み込むことにより、客観的に考える力や分析力、コミュニケーション能力が向上し、ひいては最終目標である学力向上を手助けすることになる、と証明することが必要でした。現在の教育改善における地域の権限では、既存のカリキュラムからあまり逸脱したことはできません。しかしながら、GISは科学や社会科などの既存のカリキュラムに組み込むことが可能です。そこでGISコーディネーターであるゴールドスタイン博士は、教師たちにGISを教えると申し出ました。彼らは小中高教育に対する予算が減少し続けていることを常に感じていたので、Esri社の低コストなサイトライセンスを校区全体で導入することにより、決裁権者の経済的な懸念を払しょくすることができました。
幅広い参加者を募ってGISの教室での活用を始めるにあたり、共同チームを作り上げるため、ビジネスモデルの取り組みが行われました。2007年には、GIS導入委員会が作られました。会には職業教育機関、カリキュラム計画、教育指導、情報技術、施設管理、そして学校警察のメンバーが含まれました。最初の会合では、委員達は認可を受けたプロジェクトの概要、およびGISを既存のカリキュラムに組み込むことによる校区の最終目標と目的について説明を受けました。続いて話し合いが行われ、主要な段階目標が確認され、そしてメンバー毎に役割と責任を与えられました。
メンバーである教師のため、校区は中学校と高校用にGISのレッスン計画本を購入しました。「Mapping Our World: ArcGIS Desktop Edition, GIS Lessons for Educators (Malone, L., A. M. Palmer, C. L. Voight, E. Napoleon, and L. Feaster 2005)」です。社会科のカリキュラム立案者は「ArcGIS Desktopのレッスンを国家、州レベルの学習基準に結びつけることはとても有益になるだろう」と記述しています。本に記載されているレッスンプランにはデータセットが付属していて、題材の研究にArcGISを使うにあたってステップごとの説明がされていました。また分析ツールもついていました。これらの書籍は教師のトレーニングに使われ、その後教室で生徒に対して利用されました。この方法によってスムーズな知識の移行が可能になり、教師たちは問題無く新しい技術を使えるようになりました。
スーザン・オイヤー先生と生徒達。
学校区の小中高でのGIS導入の試みには、地域のビジネスコミュニティ内のGISユーザも参加しました。南フロリダ水道管理地区とパームビーチ郡政府のGISユーザ達は、教師がGISを習得する手助けをし、生徒に対してはプレゼンテーションを行いました。生徒達はこれらGISプロフェッショナルたちからGISが実世界でどのように使われているかを学び、貴重な洞察力を得ることができました。このコミュニティで築き上げた協力体制を基に、Esri社は2009年にGeoMentor(ジオメンター)プログラムを発表し、GISプロフェッショナルによる教師の手助けを行うことになりました。
GISを学校区全体に導入する機会を得る努力の中で、GISを授業に組み込んだ生徒とそうでない生徒の統一テストの点数比較を含め、様々なテスト結果が分析されました。加えて、GISを習った生徒達は、GISを学ぶことが学力向上やプログラムへの認識向上に結び付いたと思うかどうかのアンケートに回答しました。生徒達はクラスでArcGISを使いGISの手ほどきを受けていました。
テストの点数の結果は、GISをカリキュラムに組み込むことが実際にモチベーションを上げて学習に没頭させて学力を向上させたという生徒達の認識を支持するものでした。最も興味深いことには、GISを学んだすべての生徒に読解力の統一テストでの点数向上が見られたのです。それが最も顕著だったのは、英語を第二言語として話す生徒達でした。なぜ読解力テストの点数が上がったのかと尋ねると、教師は言いました。「生徒達は課題を何が何でも達成して、成果物となるマップを作成したかったのです。それが何度も読み返して教材と授業を理解しようとするモチベーションとなったのでしょう。」また、科学と社会科の成績にも向上がみられました。アメリカの未来のために科学は年々重要になってきています。 これらの結果が小中高カリキュラムへのGIS組み入れの継続を後押しすることになりました。
GISを小中高カリキュラムに組み入れることの利益は教室の外にまで広がります。若い世代に、成長し続けるグローバルな市場で競争できる技術力を与えるのです。GISはほぼすべての業界で利用され始めているので、GISの経験がある生徒たちは将来のキャリアや職業選択を無限に広げる装備を備えることになります。実際、米国労働省は2009年、「GISは非常に広範囲にわたって利用されており、市場では年35%、市場の二次セクションでは年100%も成長している。」と述べています。米国政府がGISの急激な成長を認知し、技術力を持った人材育成の必要性を理解していることは明らかです。将来の経済的、ビジネス的な必要条件として、グローバルなレベルで競争できる能力を保障できるようにするため、教育の改革が行われる可能性があります。米国は変わり続ける社会のニーズを満たすために邁進しており、その改革方法の1つとして教育システムにGISを組み入れることになるかもしれません。
ドナ・ゴールドスタイン博士は、エンジニアリング、設計、都市計画、建築など様々な業界で働き、30年のGISの経験があります。 彼女は2001年からパームビーチ郡学区のGISコーディネーターとして働いています。 また、教育指導の博士号、経営学の学士号を取得しています。 博士はGISを既存の小中高カリキュラムに組み込むために尽力しています。