カリフォルニア州は再生可能資源エネルギーの将来に期待している。ロサンゼルス郡は豊富な日射量を誇っており、太陽光発電システムを設置して太陽光エネルギーを活用するよう市民に呼びかけている。太陽光システムがどれくらいの電気エネルギーを生み出すかは、設置するソーラーパネルのサイズと数、そしてパネルにどれくらい太陽光が当たるかにかかっている。郡は2009年以来、オンラインマップサービスである「ロサンゼルス郡太陽光マップ」を一般に提供しており、郡内の商業ビルや住宅建築物の所有者が太陽光システム設置の可否を決定するための様々な価値分析情報を得られるようにしている。
ロサンゼルスの建物の屋上で行われているソーラーパネル設置作業。
2011年4月のアースデイ(4月22日:地球環境について考える日として提案された記念日。別名地球の日。) にリニューアルされた 「ロサンゼルス郡太陽光マップ」は、シンプルで簡潔な、郡内すべての建物の屋上に当たる太陽光を計算するマップサービスである。太陽光発電の利用可能性を調べる詳細なモデルがあり、ロサンゼルス地域航空写真取得コンソーシアム(Regional Imagery Acquisition Consortium)所有の航空写真やデータを表示することもできる。オンラインマップのインタフェース経由で、誰でも興味のある場所を選び、屋上の航空写真とその上に表示された沢山の点の色の違いから、各地点における太陽光の照射量を知ることができるだけでなく、太陽光システム設置の決断に必要な分析をすることができる。このポータルは誰でも利用することができ、現在一日50から100のアクセスがあるが、太陽光エネルギーの需要の増加を見越し、より多くの人がアクセスしても対応可能な処理能力を持たせている。
ロサンゼルス郡の地理情報官Mark Greninger氏が太陽光マッピングに興味を持つようになったのは、自宅の屋根へのソーラーパネル設置を思いたったのがきっかけだった。彼はまず、ソーラーパネル設置のメリット・デメリットや投資収益率について詳しく調べる必要があると考えた。簡単に調べる方法があるに違いないと思い、他の都市はどうやってこの問題を解決しているのか調べ始めた。そこで「サンフランシスコ太陽光マップ」にたどり着き、氏はロサンゼルス郡でも同じようなアプリケーションを開発できないか調べ始めた。
太陽光マッププロジェクトの信頼性を確認しているうちに、Greninger氏はロサンゼルス郡内部サービス局(Internal Service Department: ISD)サステナビリティ課がエネルギーの効率性と太陽光システムの設置をサポートするプログラムを開発中であることを知った。氏はISDとパートナー協定を結び、プロジェクトを実施するため、郡の情報技術基金に申し込んだ。情報戦略統括室は専門家を派遣し、ISDサステナビリティ課は郡のサポートと方針策定の調整を行った。
郡がプロジェクトの助成金を得られることが決まったあと、Greninger氏は「サンフランシスコ市太陽光マップ」を開発したEsriプラチナパートナー企業のCritigen社と連絡を取り、社のGISコンサルタントと共に当時としては最高水準の太陽光マップサービスをBing Mapsプラットフォーム上に開発することに乗り出した。2009年のアースデイに、ロサンゼルス郡はホームページ上およびCritigen社のSolarMap.org上にサービスを立ち上げた。太陽光マップサービスはシンプルなJavaScriptベースのインタフェースで、土地の区画や情報、区画ごとの太陽光の利用可能性が表示された。太陽電池の設置に最適な場所を表示する機能に制限はあったが、このサービスは大きな成功を修め、公開初日には5,000件ものアクセスがあった。
その後の技術の進歩に伴い、2010年の終わり頃、Greninger氏とCritigen社は技術の進歩に伴い、見やすく動作が速い強固な次世代サービスの開発に着手した。Greninger氏はマップをシンプルでより直感的な操作、さらなる処理の高速化、屋上の利用可能性や効率よく太陽光を集められるパネル設置個所の可視化、あらゆる数値的な質問へのすばやい回答、などの高い要求に沿うものにアップデートしたいと思っていた。
「ロサンゼルス郡太陽光マップ」は5,700平方キロメートル以上をカバーし、郡内にある88市すべて及びどこの市にも属さない地域が含まれていた。このような広大な地域の詳細な太陽光モデルには大規模なデータベースが必須であり、旧来のプラットフォームでの解析は現実的でないばかりか、表示さえ不可能だったのだ。
太陽光マップでは屋上の個々のポイントにおけるソーラーパネル設置の推奨度と電気・ガスの年間節約量を表示することができる。各ポイントの赤色は「最適」、青色は「非推奨」を表す。
郡は新しいサイト運営のためにEsriのArcGIS Server 10を採用し、巨大なデータベースを管理し複数のマップサービスをサイトが提供するコンテンツに統合できるようにした。すべてのデータはArcGISジオデータベースに集約され、それにより郡全体の既存の太陽システム設置データや太陽熱利用データを使うことが可能になった。ArcGIS Server 10のキャッシュ機能を利用するだけでなく、太陽光予測発電量のデータサイズを建物の屋上のサイズに制限することにより、素早くデータにアクセスできるようになり、反応も素早くなった。ArcGIS API for Flexで開発したWebアプリケーションにより、高品質な表示が可能になった。
太陽光マッピングの進化の一つとして、「ロサンゼルス郡太陽光マップ」はロサンゼルス郡内の建物屋上の予測発電量検索のために1億以上のポイントを用意し、1.5mごとに日照量を計算している。データベースには木々による影、屋根の形状、屋根の勾配、付近の建物、そして山などの影響を反映した2億5千万の個々の計測データが含まれている。個々のグリッド(格子状の区分け)はドット(点)に変換され、約2.3平方メートル毎の日照量を参照することができるようになった。ユーザが住所を入力すると、すぐさまその建物の航空写真が表示され、画像とドットの色により、その屋根のどの辺りが最も太陽の光を受けているかが、また同じくらい重要な情報として、どこが一番太陽の光が当たらないかが一目でわかる。このモデルは英語-スペイン語間のスムーズな言語の切り替えも可能である。ユーザは選択した建物についての詳細なレポートをPDF形式で印刷することができる。郡が所有する施設は15cmの高解像度で表示され、3Dのソーラーモデルとして表示することができる。またウェブサイトからは太陽光発電を導入した際の公共料金割引きや税金控除、太陽光発電と電力購入を比較したコスト分析、太陽光発電を導入した際のその他の利点についての情報を得ることが出来る。
次世代のモデルでは、洗練された太陽光計算機能が組み込まれる予定である。それらによりユーザは屋根の上の太陽電池設置場所を決めることができ、地域の奨励金、公共料金、そして断熱データを使い、予想される発電量と様々な財政的利益を計算することができる。
このポータルサイトの分析機能によって最も直接的な利益を得ることができるのは、太陽光発電システムの設置業者である。設置コストが減ることにより収益率があがるからである。わずかなコストでデータベース全体の評価情報を購入し、市場調査に使うことが出来るのである。予想発電量、人口統計、所有年数、設置による節約効果 そして現在の太陽光システム設置データの関係を見ることで、これらの事業者は訪問販売に最適な場所を探すことが可能になる。また、太陽光電池やモジュールの製造会社および販売会社はモデルを使い、重要を予測することができるのである。市当局はこのモデルを参照し、担当エリアの太陽エネルギーの見込みを調べるために使っている。
その上、現在建物のエネルギー効率性計算ツールをマップに追加して建物の所有者や管理者がエネルギー効率性の可能性だけでなく太陽光エネルギーの可能性についての完全な建物情報を得ることができるようにするためにシステムを構築中である。
「ロサンゼルス郡太陽光マップ」の正確性はカリフォルニア大学ロサンゼルス校でテストされ、誤差は4%程度だということが確認された。米国エネルギー省は、発電量のモニタリング機能を一通りテストして分析性能を独自に検証し、その正確性を確認した。これらの結果により太陽光マップ作成当局への信頼性が増し、奨励金やローンの申込み、科学的分析、太陽光システムの設置における有効な参照元として利用されるようになったのである。