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河川・高潮からの洪水リスクへの意識を高める

北アイルランド河川局

 

洪水は、その原因が河川、高潮、大雨であろうと、地域に壊滅的な被害を与える。近年、北アイルランドでは深刻な洪水被害が頻発し、企業や地域住民に大きな損害与えている。

2011年12月、ゲリラ豪雨による洪水をマッピングした洪水対策マップが更新された

自然災害への対策として北アイルランド河川局は洪水対策マップサービスを立ち上げ、洪水リスクマネジメントへの積極的な取組みを進めている。河川局が進める取組みであるこのオンラインサービスは、公共団体やインフラプロバイダー、一般企業、市民向けの洪水情報を、より利用し易くするというものだ。

河川局は、農業地方開発局内の執行機関として法定流域と洪水防止を管轄している。その主な目的は、河川や高潮を起因とした財産・人命へのリスクの軽減と持続可能な洪水リスクマネジメントである。

2008年、豪雨がアイルランド第3の都市を襲い、広域に及ぶ洪水で数千人もが被害を受けた。河川局は、将来の洪水リスクは必ずしも高くはないが、気候変動の側面から将来的に洪水が増えると予測した。

これにともない河川局は、洪水に対処するための新しくかつ戦略的取組みとして、洪水マップサービスを構築した。「今までの私たちの洪水対策アプローチは、主に対処に重きをおいてきた。すなわち、洪水発生後から対応を開始していたのだ」と河川局 開発責任者のデビット・ポーター氏は言う。「新たなテクノロジによりかなりの精度で氾濫原の特定が可能となり、また実際の洪水に対処する性能を保持しつつ積極的な取組みを行うことができるようになった。」

河川局は洪水リスクマネジメント戦略の一環として、幅広い手法を導入することにした。この広範囲に及ぶアプローチは、欧州連合法の洪水令の要件と一致する予防、防備、備えを要旨としている。まず、予防とは洪水リスクの高い地域での不適切な開発を行わないようにすることであり、防備とは水が人々や資産にまで及ぶのを阻止するために堤防等の建設を行うことである。また、備えとは潜在的リスクを市民に意識してもらい、家屋やビジネスを守るための計画立案をいう。

伝統的に、河川局は防備を中心に対策を講じてきた。しかし現在では、予防と備えへの体制強化も重要であると考えている。これを成功に導くには、市民、取引先、出資者が洪水リスク情報を簡単に入手できることだ。そのため、過去や未来の洪水リスクに関する情報の閲覧ができるオンラインマップビューアの開発が決定されたのだ。

「洪水の潜在的リスクに関する情報伝達が可能であり、かつ個人、企業、地方行政が簡単に氾濫原のマップにアクセスできるようにする必要があった」とポーター氏は言う。「どの地域に洪水リスクが存在するかを知ることは重要であり、それが事前の備えや適切な対応につながっていく。」

【ソリューションと機能性を提供】
河川局はプロジェクト全体を監督するコンサルタントとして、RPS Group plc(RPSグループ公開有限責任会社)のベルファストオフィスを任命したEsriディストリビューターであるEsriアイルランドは、GISソリューションと専門技術者を提供するためにこのプロジェクトに招かれた。Esriアイルランドスタッフは、組織の要求をヒアリングし資料を作成、オンラインマップビューアのプロトタイプを構築した。技術系および非技術系のスタッフから成る巨大なユーザグループに、このプロトタイプを利用できるようにし、使い勝手のテストを行った。

2011年10月、ティローン州オーマの洪水では堤防が街を守った

「開発段階でのユーザ参加は、誰もが使えるマップビューアの構築を確かなものにした」と河川局のマッピング・モデリングユニットのマルコム・カルバート氏は述べている。「市民が使うシステムに使い勝手の良さは不可欠だからだ」

ArcGISテクノロジで開発されたオンラインマップは、画面移動と拡大縮小ツール、ロケーションサーチからなり、利用者が簡単に検索・閲覧し、地元の情報を読み取れることを特徴としている。また当初の計画と開発に加え、Esriアイルランドはダブリンのデータセンターからのソリューションをホストすることとなった。

現在、オンラインマップビューアでは、洪水対策マップを構成する5つの異なるデータセットを表示している。市民をはじめ、公共・民間団体の人々は、河川局のウェブサイトからマップビューアで以下内容を閲覧できる:

・歴史マップ    過去に洪水被害のあった地域の航空写真を組み込み掲載
・洪水防備マップ 現存の防壁、堤防とその他の防備、またそれらにより保護されている地域を掲載
・洪水予測マップ 現代、気候変動期、その他以下を含む様々な洪水の原因に対する予測マップを掲載
   – 河川の氾濫
   – 高潮
   – ゲリラ豪雨による洪水

洪水対策マップは、2008年11月に北アイルランド議会で洪水リスクマネジメントと土地利用計画を担う大臣により立ち上げられた。今日、ArcGIS ソフトウェアをベースとしたマップビューアは、一週間あたり300名以上のの企業・団体関係者により閲覧されている。

多くの市民・団体が洪水リスク情報に簡単にアクセスできることで、河川局は先回りした対応を促すことができる。また、資産家、企業、サービス業者が一様に各所在地の潜在的リスク情報を閲覧できることで、さらなる備えを講じることも可能となるのだ。

2008年にレーガン川が氾濫した際、8月としては1914年以来となる降水量を記録し、北アイルランドおよびアイルランド広域が大混乱に陥った

「以前に比べると、現在では洪水リスクに対する意識が高まっている」とポーター氏は言う。「洪水が発生した場合でも、住民や企業、地方自治体は、以前より洪水への備えができているといえるだろう。」

河川局の洪水対策マップは、欧州連合法を順守するとともに、主要出資者への洪水リスク情報の有用性を高めている。

また、マップビューアは信頼性があり、使用が難しいといった苦情はほとんどない。「洪水を完全に防ぐことは不可能だが、企業団体・市民と共に取り組むことで、人命、財産、環境への影響を軽減することができる」とポーター氏は述べる。

【今後】
河川局は、データレイヤの追加や詳細な情報取得のための大縮尺機能をユーザに提供するなど、数年の間に洪水マップサービスによる情報発信をさらに発展させる予定である。

例えば、河川局は最近、大雨による洪水マッピングの掲載を開始したとともに、まもなく貯水池氾濫(reservoir inundation)による洪水リスク情報も公開する予定だ。

現在、洪水対策マップは、中程度の洪水リスクについて掲載している。将来的には、リスクが高いものや低いものについても掲載していく計画だ。度々発生する洪水と、稀に起こる大規模な洪水の相違について認識を促すことで、それに応じた対策を立てることが可能となるからだ。


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掲載日

  • 2012年6月20日