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事例

「シームレス地質図」の整備と情報公開の取り組み

産業技術総合研究所 地質調査総合センター

 

地質情報研究部門の入る産総研つくば第7事業所
地質情報研究部門の入る
産総研つくば第7事業所

ソフトウェア購入コスト削減と利活用拡大を両立

課題

導入効果

 

概要

産業技術総合研究所 地質調査総合センターは、日本国内の地質データを整備し利活用を促進するというミッションを持っている。地質データは、土木、建設、防災、資源開発、観光資源、環境対策などの分野で利用され、利用者は建設コンサルタント、自治体、不動産業を営む企業など幅広い。

シームレス地質図
シームレス地質図

同センターは、これらの利用者のニーズに応えるため、地質情報研究部門で研究開発された「シームレス地質図」をオンラインやDVD形式で提供している。この「シームレス地質図」を含む様々な地質データの分析、整備のために ArcGIS for Desktop が活用されてきた。しかし、増大するソフトウェア購入コストと煩雑な購入手続きが課題となっていた。そこで、同センターは平成22年(2010年)に研究機関向け ArcGIS サイトライセンスを導入し、同センターに属する3研究ユニット、地質情報センター、地質標本館においてソフトウェア購入コストを約半分に圧縮し、購入手続きの大幅な簡略化にも成功した。今後は、同サイトライセンスに含まれる ArcGIS Online を活用した情報共有も視野に入れつつ利用者の拡大に努めていく。

 

導入経緯

地質データの利用者には大手建設コンサルタント、中小建設コンサルタント、自治体、不動産業者などの民間企業、大学、研究機関、さらに学生や一般の方々などと幅広い。同センターはこれら幅広い利用者のニーズに対応するために提供データフォーマットや提供方法に細心の注意を払っている。「我々は利用者の皆様の利便性を最優先に考えています。 データのフォーマットは利用者がすぐに使えるものでなければいけないし、サービスを永続的に提供するために信頼のおけるソフトウェアを使う必要があります。」と地質情報研究部門シームレス地質情報研究グループの斎藤グループ長は語る。「つまり、データフォーマットはデファクトスタンダードであるシェープファイルが望ましいし、サービスの永続性や国内での GIS ソフトウェア利用度を考えると最大手で信用があり、多くの利用者を持つEsri社製品を選択するのが妥当だったんです。デファクトという意味では USGS(米国地質調査所)で全面的に採用されていたり、世界的に広く利用されているので追従する形になったのも事実です。」

部門内通路に貼られたシームレス地質図
部門内通路に貼られたシームレス地質図

「実は、地質図のデータだけは TNTmips で整備され、そのまま提供することも可能で、DVDではそのデータも公開していますが、より広いユーザを考えてEsri社が提唱し、ArcGIS で利用できるシェープ形式で提供する必要があると考えました。この辺りも ArcGIS 導入の大きな理由の1つですね。」と、同部門の内藤主任研究員が続けた。 「我々は言ってみれば情報元売り業者のようなものです。建設コンサルタントなどが情報の小売業者のような位置付けだとすると、我々が小売業者の扱いやすいデータを提供し、小売業者が自分の保有しているデータや、解析結果と共に自治体や不動産業者などに提供する。こんな構図ではないでしょうか。」と斎藤グループ長が結んだ。

 

システム構成

同センターでは、研究員、契約職員を含む約100名程度が約150の ArcGIS for Desktop ライセンスを利用している。ラスターデータを扱う解析処理などのニーズにより、エクステンション製品である Spatial Analyst、3D Analystと併用されるケースも多い。これらエクステンション製品はサイトライセンスに含まれるため追加の購入は必要ない。これらの利用者は定期的に部門内で行われる講習会等でトレーニングを受け、また部門独自のサポート体制もESRIジャパンによる支援の下に確立しておりスムーズな利用環境が整えられている。

 

導入効果

最大の課題であったソフトウェア購入費用の削減は、サイトライセンスの導入により購入費用が約半分になり大幅な改善となった。また、導入以前は購入手続きが定期的に都度発生していたが、現在は一括して行われるため大幅な事務作業削減にも繋がった。しかし、導入効果はこれらコスト面だけにとどまらない。「利用者の間でノウハウの交換が行われるようになりましたね。今まで使ったことのないような人も講習会などに参加してから使い始めるようになったし、利用は拡大していると思います。」と、斎藤グループ長は振り返る。「実はエクステンションをいろいろ試せるというところも大きいんです。サイトライセンス以前は使いこなせるかわからないエクステンションを取りあえず買わざるを得なかったわけですが、今はちょっとお試しのような感覚で手を出して使えそうなら使うということができるのでそれもあって利用が拡大している面もあると思います。」と内藤主任研究員が加えた。

 

今後の展望

シームレス地質図編集作業風景
シームレス地質図編集作業風景

シームレス地質図の利用促進に関し今後の課題や展望をお聞きした。「標準化の問題がありますね。Esri製品はOGCにもちろん対応していますが、OGCに地質に対応したハッチ(色付け)の標準がないんですね。だから我々は色のないポリゴンでできた枠だけを提供するしかなく、利用者は属性に応じて自分でそれらしく見える色をつけるしかない。これが改善されるとユーザの利便性はかなり向上すると思いますね。」「人の問題もありますね。まだまだ様々な研究領域で、専門知識をもちつつGISも使えるという人材が不足している。社会に出ていく人達がGISを知っている、大学の先生方もGISを知っているという環境が必要ではないかと思います。」国内の大学でGISの利用は進んではいるものの、ESRIジャパンとしてもまだまだ啓発活動が足りていないようだ。引き続き大学、教育機関向けの活動を強化していきたい。

最後に、サイトライセンスに付属する ArcGIS Onlineの可能性についてお尋ねした。「とても興味がありますね。もし、つくばの研究者が自由にデータを出し入れできるポータルサイトがあったらうちのデータを是非アップして使ってもらいたいです。」「つくばの研究機関でいえば、 防災科研、土木研、森林総研、農環研、地理院のみなさんはGISをお使いでしょうし、うちのデータが必要になる場面もあると思います。みなさんが集えるポータルサイトがあるといいですね。」世界中の政府系組織で利用が進むArcGIS Online はつくばの研究機関を含む政府系機関でも将来的に利用が進むだろう。それにより多くの研究者が参加するコミュニティの醸成にもきっと役立つに違いない。ESRIジャパンも研究者の皆様のお役に立つべく、より一層支援していきたい。

プロフィール


地質情報研究部門
シームレス地質情報研究グループ
グループ長 斎藤 眞 氏(左)
同主任研究員 内藤 一樹 氏(右)



関連業種

関連製品

資料

掲載日

  • 2014年8月18日