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自然豊かなまま次の世代に引き継ぐ

福島県鳥獣保護センター

 

福島県鳥獣保護センターでは、GISによって人と野生動物の共生を図る取組みが行われている。

変通事故や転落事故などによって保護センターに運ばれてくるタヌキやキツネなと、森に住む野生動物たち。傷ついた彼らを治療するだけではなく、原因究明と根本的な解決策をGISによって導き出すチャレンジを続ける野生動物専門の獣医がいる。

獣医・溝口俊夫

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福島県鳥獣保護センターと
野生動物専用救急車

福島県安達太良山に位置する福島県鳥獣保護センターは、野生動物専門の県立動物病院として、年間約400頭羽の野生動物の治療や救護活動を行っている。運ばれてくる野生動物は、タヌキ、キツネ、アナグマ、ツキノワグマ、フクロウ、オオタ力など約60~70種類に及び、原因は交通事故、ダムからの転落、営巣林の伐採、建造物への衝突、違法狩猟や感染症などの人聞の活動が全体の9割以上の原因を占めていることが分かっている。センターでは、獣医師とリハビリテータと呼ばれる専門スタッフによって治療と介護、そして野生に戻すためのリハビリテーションが行われている。

2006年5月、保護センターに衰弱した仔グマが運ばれてきた。傷付いて道路側溝で見つかった仔グマは治療を受け、よくミルクを飲み、その後順調に回復したが、野生に戻したところで母グマと出会う可能性はとても低く、一方救護によって人慣れしたクマを野生に戻すことはできないという野生復帰の問題に直面する。

所長の溝口獣医は、子グマが発見された場所に行って現場検証を行った。仔グマが見つかった道路側溝周辺の森に入り、動物の足跡などの生息痕や餌場など誘引となる事物を調査し、なぜこの場所で仔グマが置き去りになったのか、根拠となる材料を探した。

その夜、収集したデータを自宅に持ち帰り、GISに取り込んで、周辺状況を解析して原因を究明し、予防策を提言するための計画を練る。このような活動を10年以上も前から行っている。溝口獣医は言う。「現場では、いつもこんな風にして、問題が発生し、解決を迫られます。」

タヌキの目線に立って

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現地調査の様子

現在の道路交通網が拡大した車社会において、都市部では猫や犬など、農村部ではタヌキやキツネなどの野生動物が道路上で車両に轢かれる「ロードキル問題」が問題視されている。「ロードキル問題」は、これまで運転者の立場から道路交通の円滑な運用や安全確保の視点を主眼において解決策が模索されてきたが、自然環境保全の視点から見ると身近な野生動物においても生態系に与える影響が問題点として指摘され、発生件数を減らすための方策が行政の土木事業で有効に活用されている。

「タヌキの目線に立って」。これは、タヌキの交通事故現場で現場検証を行う際の溝口獣医の基本姿勢を表す言葉である。夜間に交通事故にあって死亡したタヌキが発見された現場で、タヌキの剥製を使ってタヌキの目線で見た路上では、どんな障害物が潜んでいるかを丹念に探る。

NPOふくしまワイルドライフ市民&科学者フォーラム

特定非営利活動法人ふくしまワイルドライフ市民&科学者フォーラムは、福島県鳥獣保護センターの管理運営を支援している。本NPOでは、「野生動物鑑識課チーム」や「ワイルドライフ・レスキュー・サポーターチーム」など6つのチームで構成され、傷ついた動物の原因調査や環境教育などを行っている。それぞれの活動は、市民のボランティアが中心だが、専門性の高い分野については「市民&科学者フォーラム」の名前が示すとおり、大学や専門機関などからも参加があり、国内でも先進的な活動として、各種マスメディアでも取り上げられている。

GISによる地域の環境構造解析

福島県では、今年になりクマが生息していないとされていた地域で多数目撃されている。また本来の生息圏ではない地域の人里などに、線路や高速道路を越えて出没している。クマの臆病な性格と移動範囲では考えられない行動となっている。これらのクマの出没には複数の要因が重なり、クマが生きるためにとった行動と考えられる。一般的な要因として自然林の現象や人的な開発や伐採などが考えられ、福島県においても本来の生息地の環境がかなり変化し、深刻な状況になっていると考えられる。

県内での有害捕獲や狩猟に関わる情報は県で管理しているか、目撃、出没情報については一元管理されておら式データ化されていない。そのため各地での出没問題が表面化されていなかった。福島県鳥獣保護センターでは地域のNPOなどと協力して、従来の生態学的な調査に加えてGISによる地理的なアプローチによってクマの保護管理に取り組んでいる。

溝口獣医はArcViewとSpatial Analystを用いてクマの出没、有害捕獲、土地利用データなどのベクトルデータと人工衛星写真や国土数値情報などのラスタデータを重ね合わせ、地域別に環境構造の違いを数量的に表現するアプローチを行っている。これらの調査でクマの分布や行動圏、繁殖などの生息状況だけではなく、森林環境の変化などによる影響が科学的に証明できれば、生息地のメカニズムだけではなく、クマの生息環境の安定を図るため広域的な環境整備と環境開発へのアドバイスができるようになり、クマと人と森との安定した共生が可能になる。

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今後の取組み

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西日本ではツキノワグマは絶滅の危機にあり、東日本が重要な生息地となっている。特に、野生動物の移動ルートとして白神山地から吾妻・安達太良山系にいたる「緑の回廊(コリドー)」(林野庁による保護林をネットワーク化する事業)も計画されており、将来のためにも詳細な広域調査の実施とそれらデータを位置情報をもとに統合的に取りまとめ、科学的な解析結果に基づく保護管理計画が必要とされている。

溝口獣医は言う。「命を救う文化が確実に福島県に育ってきています。たった1頭のクマの命でも、皆で救おうと真剣に考えていると、そのクマを通して背景にある大きな環境問題が見えてきます」。今、その環境問題に対して、福島県、宮城県、山形県の三県が連携して問題解決へのアプローチを始めようとしている。

プロフィール


福島県鳥獣保護センター
溝口俊夫 所長



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掲載日

  • 2007年1月1日

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