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ミナミマグロの行動・回遊をGISとセンサー技術で解明

独立行政法人水産総合研究センター遠洋水産研究所

 

科学的根拠に基づく漁獲量管理ヘ向けた基礎研究に活用されるGISとセンサー技術

持続可能な漁業資源利用のためには、未だ不明な点が多いマグロの行動・回遊の理解が不可欠である。そのための基礎技術としてセンサー、リモートセンシング、GISが活用されている。

高級魚ミナミマグロ

ミナミマグロ(別名インドマグロ)は、クロマグロと並び寿司屋などで食される高級魚である。日本は全世界の年間消費量の約3分の1を消費するマグロ消費大国である。しかしながら、消費者には、この魚に関する以下
の事実はあまりまり知られていない。

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TACの設定に関しては、資源状態に関する見解が加盟国間で異なってきたため、TACに正式合意できない状況が続いてきた。過去には資源状態の解釈に端を発して、調査漁獲の是非が国際裁判で争われたこともある。その一因として、ミナミマグロの詳細な生態や行動などが不明であった点が挙げられる。このため将来の資源回復などにおける不確実性の評価や見方に差が生じてしまうのだ。

このような背景の中、静岡市清水区にある遠洋水産研究所では、ミナミマグロの行動を科学的に把握するための研究が進められている。アーカイバルタグ、リモートセンシング、GISの3つの技術を組合せることで、新しい事実が明らかにされてきている。

アーカイバルタグによるデータ取得

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タグ回収を呼びかけるちらし

マグロの行動を探る試みは従来から行われきた。非常にシンプルな方法として、マグロに標識(プラスチック製タグ)を装着する方法がある。背中に標識を付けて海に戻したマグロが再び漁獲されれば、2点間の移動や成長が分かる。この方法は標識を用意するコストがあまりかからない反面、中間の移動経路は把握できないという制約もある。

当研究所では、2001年から新しいデータ取得方法として、アーカイバルタグを導入した。アーカイバルタグとは、センサーと計測データの記憶装置がセットになった電子装置である。捕獲したマグロの腹腔内に、このタグを装着し海に戻すのである。センサーで計測した各種データは5年間以上記録(アーカイブ)できる。日時、水温、照度、水圧(=水深)、体温の5つを計測し、記録するのである。

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アーカイバルタグに記録された日の出、日の入の時刻からミナミマグロの位置を推定できる。しかしながらこの位置はおおまかな推定にとどまり、経度方向に1度、緯度方向lこ3度程度の誤差を含む。これは、光の強さが天候、遊泳深度、海水の透明度などの各種要因に左右されるからである。さらに、昼夜の長さに地域差が小さい春分、秋分の時期に緯度推定誤差が大きくなるという特性がある。

リモートセンシングによる位置補正

この位置精度を向上させる方法として、リモートセンシングデータを利用した位置補正手法が開発された。気象衛星NOAA(米国海洋大気圏局が運用)の表面水温(Sea Surface Temperature: SST)データを利用し、タグにアーカイブされた表面水温と統計的手法によりマッチングを行う。衛星の表面水温と同じ水温が観測される確率が最大になると仮定して位置補正を行うのだ。下図は位置補正の一例である。表面水温による補正前の位置データ(白点)と補正後のデータ(赤点)を比較しているが、南北方向に広く分布する補正前データがこの処理によって互いに近い位置に補正されていることが確認できる。

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衛星の表面水温とのマッチングによる位置補正のデータ処理は、ArcGISのModelBuiliderでモデル化されている。

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GISの有用性と今後の展開

アー力イバルタグで取得されたデータから今まで不明だったミナミマグロの行動が明らかにされてきている。「例えば、ミナミマグロが水深600mまで潜ることや、回遊域が当初予想していた領域とは違っていたことなどは、アーカイバルタグによりはじめて分かったことです」と黒田研究員らはその有用性を指摘する。「これまでは成果を作図ソフトウェアで地図としてまとめてきたが、GISで別の関連データと重ねて検討することにあまり注目してこなかった。今後は別のデータを重ねて、関係性を解釈するなど、GISが得意とする方向での利用も期待できる」と境研究員は語る。海底地形、漁場、気象などの各種データを重ね、時系列や3次元的な解釈を行い、ミナミマグロの行動についてより理解を深められればとのことである。

プロフィール


(独)水産総合研究センター 遠洋水産研究所
左から 伊藤智幸主任研究員/黒田啓行研究員/境磨研究員



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掲載日

  • 2007年1月1日