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小中一貫教育体制の整備にGISを活用

宇治市 教育委員会教育革新推進室

 

校区毎の将来児童数をGISでシミュレーション、校区の編成、校舎施設の整備計画に活用する

GIS活用業務の背景-小中一貫教育をめざして

宇治市では、平成19年11月に小中一貫教育と学校規模等適正化の方向を示す計画が作成されている。この計画に基づき平成24年度から市内全ての市立小・中学校で小中一貫教育を実施するべく、現在学校規模等適正化など、その体制を整備する取り組みを進めている。

ここでは、前項で紹介した宇治市建設部における道路管理業務へのGISの活用に引き続き、宇治市役所小中一貫教育課での小中一貫教育体制の整備においてGISを活用した取り組みについて紹介したい。

GIS活用形態の分類

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前項の建設部でのGIS活用が「宇治市におけるGISの活用形態の分類(前項を参照)」では、「1.台帳+XY」に位置づけられるのに対して、ここで紹介するGIS活用事例は、「3.シミュレーション」として位置づけることができる、つまり「事業運営におけるシナリオ設定とシミュレーションに地図を活用する」という取り組みである。また、前項の事例がWebGISの活用事例であるのに対して、ここで紹介する事例は、「凡用型GIS」、つまりカスタマイズ等開発が加えられていないArcGISデスクトップ製品(ArcVeiw)の活用事例である。

児童・生徒及び校区についての課題

宇治市内にある各小・中学校の現在の校区(児童や生徒の通学区域)は、長い間、特に変更されることなく利用されている。

校区が長年にわたり変更されていない一方で、児童数や生徒数は年々推移し、これに伴い児童・生徒数に対する学校規模の見直し、分散進学(一つの小学校の卒業生が異なる複数の中学校に通う)の是正などが市の課題となっている。

こういった点から、小中一貫教育の体制の整備において検討されるべき課題の一つとして校区の再編成が挙げられている。

また、校舎施設の耐震性や老朽化への対応、児童・生徒数の増加に対応した校舎施設の増築など、今後の校舎施設の工事に関する点も課題の一つとなっている。

以上に挙げた課題に対して、これまでは不明確であった「校区毎の児童・生徒数の変化の把握」がとても重要となっている。課では、「校区毎の児童・生徒数の変化の把握」を行うために、以下の2点を実施した。

1.校区毎の児童・生徒及び就学前児童数のGISデータ化
2.GISでの将来の校区毎児童・生徒数推移シミュレーション

GISの活用 1

就学前児童数及び児童・生徒数のGISデータ化

適正な校区の編成には、現在の校区に児童・生徒がどれだけいるかだけではなく、既存の校区内のどこに住んで、いるかといった地理的な情報が必要となる。

しかし、これまで、就学前児童(0~5歳)・小学生・中学生がどこに住んでいるかを知ることはできても、各校区、町内会や自治会など各行政区での分布状況を視覚的に把握することはできなかった。また、住宅建設などの新規開発地域については将来的に児童・生徒数の推移に影響を与えるものとなるが、入居状況の把握には膨大な時間を費やしていた。

そこで、課では、児童・生徒数をGISデータ化(税務課が管理する地番データを利用し、児童・生徒の住所データにXY座標値を付与、地図上に表示→左図「1.台帳+XY」)、また同様に、就学前児童についてもGISデータ化を行った。これにより、各校区内のどこにどれだけの児童や生徒が住んでいるかを一目で把握できるようになった。

GISの活用 2

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就学前児童、小学生、中学生の分布状況と新規開発地域

GIS活用以前、各学校における将来的な児童数や生徒数の推移の把握は、過去の実績から得た変化率を全校区一律に適用していたため、校区別の状況を加味できなかった。また、新規開発地域においても校区の変化率同様、開発規模等を加味せず一律の変化率を適用していた。

しかし、学校規模の適正化に係る学校施設の増築等は、大きな予算が必要となることから、より正確に児童数や生徒数の推移を把握することが重要な課題である。とりわけ、新規開発地域については住宅の形態(マンションや戸建の別)や規模によって入居世帯の傾向が異なるため、特に正確な数値の把握が必要となる。

以上のことを踏まえ、小中一貫教育課では、前章の①で作成したGISデータを使い、各校区の将来の児童・生徒数のシミュレーションを行った(各校区別の過去の児童・生徒数の変化や開発規模別の変化率を加味して将来の児童・生徒数を推計)。以下がシミュレーションに使われるサンプルデータである。

就学前児童、小学生、中学生を点で示し、さらに色分けすることにより、それぞれの分布状況が把握できる。また、新規開発地域を色分けすることで(図ではピンク色)、入居状況が把握できるとともに、就学前児童が多く分布している場合などは、今後数年の聞に小学生数が大きく増加することなどが予想できる。

GIS活用の課題

GISの利用課題として、小中一貫教育課では、特に「操作方法の習得」を挙げている。

担当者は、ここで紹介したGIS活用以前、GISを利用した経験がなかったため、操作を覚える上で特に以下の点で苦労したという。

  1. 実践的な操作マニュアルを入手することができず、ソフトウェアの膨大なヘルプ資料から、必要な情報を探し出すこと、またヘルプ見てわからないことを毎回IT推進課に連絡して聞くこと
  2. 一度操作方法を習得しても、次のGIS利用まで時聞が空くと再度以前に行った操作を思い出すまで時聞かかること

これらの諜題から、担当者は、より実践的でかつ簡易に操作方法についての情報を検索できるようなマニュアル等が必要だと実感したという。

まとめ-シミュレーション資料の活用と今後

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小中一環教育課では、今後の小中一貫教育ヘ向けた体制の整備として、地域毎の児童・生徒数が不明確であった以前に比べ、
①様々な課題(前項参照)に対してより有効的で無理のない校区の再編成の検討
②将来の児童・生徒数の増加に伴う校舎施設の増築や改築に対して、より早い時期からより綿密な計画への着手、

などの点でシミュレーション資料が活用され、業務の質の向上及び効率化が期待されている。

プロフィール


久保 氏



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掲載日

  • 2009年1月1日