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東京の森の再生を目指して

東京都産業労働局農林水産部森林課

 

本来の持つ役割だけでなく、産業、レクレーション計画などにも役立つツールとして「東京都森林GIS」は活用されている。

概要

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森林は木材生産機能のほか、水源かん養、土砂の流出防止、二酸化炭素の固定による温暖化の防止、野生動植物生息環境の提供など多様な役割を担っている。

日本の首都である東京都でも、東部は都心部となっているが、西部、離島は森林が広がっている。日本の森林は4割程度が人工林であり、東京都多摩地域では6割が人工林である。人工林は、成長に応じて間引き、枝打ちなと手入れを行なう必要があり、東京都ではこの管理ツールにGISが用いられている。

森林GISの歴史

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東京都の森林GISは、1998年から始まった。2000、2001年に航空写真撮影、2001年にデジタルオルソ化、2002年には、大型汎用機で稼動していた森林データベースからPCへのダウンサイジングとシステム整備を完了させ、ArcView3.2で稼働開始された。

当初の導入時は、ArcView3をカスタマイズして使用しており、操作、運用については当時導入した企業がサポートを行い、業務専用GISとして使用していた。東京都の森林は、面積のわりに小班数が多いのが特徴であるが、GISデータ化したときに図形デー夕、属性データ余りが発生した。微小ポリゴンや面ダブりをトポロジチェックなどで修正を行い、現在では、ほぼ不具合はなくなっている。

その後、ArcView3からArcGIS8ヘ移行したことに伴い、東京都森林課では、豊富な機能を搭載している汎用GISソフトとしてArcGIS8製品をカスタマイズ無しで利用し始めた。

東京都森林課の方針として、データ整備、加工、操作など、自分たちで作業可能であるところは自力で行い、外部に頼らなければならない箇所は委託で行なう事としていた。そのような状況であったため、森林GISを運用、管理していくため、管理者が講習会を受講し、その他のユーザには管理者が教える形をとった。

東京都森林課は、GISを使用する条件としては、比較的集約されていた。「自力で作業を行なうことによりGISの知識、ArcGISの操作方法等のノウハウが蓄積できました。」と佐藤さんは語った。運用が軌道に乗るまで2年程度を要したそうで、その聞の苦労は今となっては糧となっているとも語られた。

その後、ArcGIS9製品にアップグレードされても、引き続き汎用GISソフトウェアとして使用されおり、現在では、将来の運用も見据えて、ArcGIS Server製品も導入された。

現在の取り組み、問題

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東京都では、2004年4月に「森づくり推進プラン」が策定された。《東京の豊かな森づくりと「森林産業」創出への挑戦》を副題とし、東京の財産としての豊かな森づくりを進め、時代が要請する「森林産業」を創出する施策を5年計画で推進するとした。現在はその5年自にあたり、盛り込まれた計画が実施されているが、時代の変化、要求によりその内容が変化しようとしている。

そのため、当初整備したデータに加えて、2004~2006年にデジタルオルソ画像の作成、2007年に衛星画像データ作成を行い、最新の森林状況の把握に努め、施策・事業の実施状況や効果を常に監視し、施策にフィードバックしており、今後についてもこの取り組みは継続してゆく。

具体的に例示すると、花粉対策、また、地球温暖化対策における森林地域でのCO2吸収量の算定など、さまざまな事柄が要求されている。花粉対策の場合、アスファルト、コンクリー卜で覆われた東京では、4人に1人の割合で花粉症の症状が現れる。また、地球温暖化については、気温上昇、海面上昇、ヒートアイランド現象、降水量の増加など、地球的規模での取り組みが必要になってくる。今後、このような対策についても盛り込まれ、東京都森林に対する要求事項はより高いものになっていくことが予想される。

そのような状況の中、現在の取り組みとして、GPS付モバイル端末+ArcPad7.0を用いての現地調査が進められている。業務上、それほど精度を必要としない位置情報入力を想定すれば、現地作業時間、事務所作業での転記ミス、消費時間を考えると非常に効率的である。更にはデスクトップGISと連携させることにより、データのチェックイン、チェックアウトが簡単に実現でき、屋外調査が飛躍的に効率化される。

このシステムを応用すれば、シ力、クマなどの野生動物にも利用可能で、GPSで移動ログを取って軌跡調査を行ない、その習性を解析することで、鳥獣被害を防ぐことも可能となる。

東京都森林課の無限の可能性を秘めた取り組みが行なわれる一方、いくつかの問題も生じている。担当者により、検索条件や処理条件などの細かい設定がちがうことで、出てくる結果が少しだけ異なる場合がある。そのような個人による差異を解決させるため、今後、モデルビルダーなどで処理フローを統一化し、正確な情報を算出するようなことも考えている。

GISはデータ整備、活用を目的として導入されるものである。同時に運用、管理していくリソースも確保できるかも問題である。これが出来なければ森林GISはうまく運用できなくなると佐藤氏は危倶されている。

今後の展開

「以前は、庁外向けにWebで、の公開を考えていましたが、都庁内のセキュリティが厳しく、困難です。またデータの精度がバラバラであるので、正確なものは公開してもかまわないが、精度の悪いものについては公開できない。さまざまな問題があるが、公開自体を行なう場合は、専用回線などを利用して行なうなども1つの方法と考えている。」と語っておられたが、既にArcGIS Serverを購入して、その準備は整っている。

後は、庁内での編集や閲覧を行なったり、庁外への公開を行なう計画が承認され、かつ庁内LANが整備、活用承認が下りるなどの手続きが必須となる。庁外公開の場合も同様であるが、GIS製品の利用方法は無限大である。

まとめ

「GISはツールとして非常に有効であり、さまざまなGISデータを重ね合わせることが可能なことが長所です。あちらこちらで、さまざまな調査を行なっていても、データさえ整理しておけば、さまざまなシーンで重ね合わせを行ない使用できる。このことで、いろいろな結果がわかってくるのが良い。」GISを有効なツールとして非常によく認識されている佐藤氏ならではの言葉だと感じ、このことが東京都森林GISで有効的かつ効率的に使用されている基となっていると感じた。

プロフィール


東京都産業労働局農林水産部森林課 佐藤 功佐 氏


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資料

掲載日

  • 2009年1月1日