子どもの安全は地域で守る。WebGISを用いた安全への取組み。
「行ってきます。」
大きく元気な声で家を出て、小学校ヘ向かう子どもたち。
今、そんな子どもたちの元気な姿とは裏腹に、通学路は多くの危険と背中合わせである。
スクールゾーンであっても、車が激しく行きかったり、見通しが悪かったり、ガードレールが無かったりと、そういう環境の中を小学生が通学することも珍しくなく、いつ・どんな事故が起きてもおかしくはない。
また、昨今の社会情勢の変化から、突通安全だけではなく、児童を狙った犯罪を未然に防ぐ、そして万が一何か起こった場合でも迅速な対応を行うという別の役割が社会に必要になってきた。小学生に関わらず、未成年の子を持つ親としては、安心して通学してもらいたいと思うのは当然のことだろう。しかし、四六時中子どもと一緒にいるわけにもいかず、どうやって我が子の安全を守ったらよいのかと考え頭を抱えてしまう。
そんな中、地域で子どもを持つ親たちが集まって、何か効果的な方法はないのかと様々な方法を試行錯誤する自主活動が始まりつつある。例えば、その代表として、マップ作りがある。多くの小学校で、近所の危ないと予想される駐車場や電燈の少ない暗い夜道などを記載した地図を作成しているが、地図を作成したことに満足してしまったり、上手に共有すべき方法をもっていなかったりと、それらを継続的に活用するに至っているケースは少なくない。
横浜国立大学 安心・安全の科学研究教育センターでは、安心・安全な市民社会を構築すべく、WebGISを利用し、地域を見守る活動に参加している人たちのパソコンや携帯電話へ地図情報の配信を行っている。このような活動を通して、地域全体で子どもたちの安全確保、特に通学路での安全確保を第一優先に果すのが目的だ。
横浜市立篠原小学校では、事件・事故や不審者目撃等の緊急な連絡といえば、従来式の連絡網に頼らざるをえなく、機を逸してしまうこともあった。また、PTA及び地域の子ども110番の家からの協力のもと、小学校低学年が住む家屋や各種危険箇所の情報をはじめ、児童セン夕ー、幼稚園などの子どもが集まる施設の位置が篠原地域全体の住宅地図を張り合わせた紙地図ヘ収集されていた。そして、この地図は作成後ほとんど人の自に触れることなく会議室の片隅に大事に掲示されていた。
まず、PTA会長を通じてこの状況を知り、お互いの持つリソースの価値の認識と、それらを組み合わせた際の付加価値について説明を行った。次に、小学校が収集したデータをデジタル化することによって、より具体的なイメージを校長先生らと共有しながら、最終形態としてWebGISを用いた情報共有のあり方について検討を進めていった。
どの地域にも学校区を取り巻く地域住民の組織としては比較的若い世代で構成されるPTAだけではなく、比較的構成年齢の高い町内会や自治会も存在している。それらを支援する自治体も含めて、各々の活動範囲は必ずしも一致するわけではなく、一部は重なり、一部は境界線をまたぐため、同じ問題意識を持ちながらも実際の協働は難しい場面もある。しかし、地域の安心・安全を確保するために、共通の地図を媒体とした日頃の様々活動とそこから生まれる知見やコミュニケーションは有効に機能するであろう。また、こうした地図を、大人の視点だけで作るのではなく、子どもの視点からも作成し、世代を越えた共通認識を持つことも重要である。
今後は
を分析し、地域の安全性の向上を目指している。
地域住民自身が空間情報を活用することで、地域の環境や生活をより安全で安心できるものにしていこうと共通認識を育んでいく効果も期待したい。
横浜国立大学では、昭和42年に全国初の「安全工学科』、昭和48年に全国初の「環境科学研究センター」を設置して以来、長年にわたり事故等の分析・評価を防止技術、化学物質の安全管理、環境の評価と保全等についての多くの研究成果と多数の専門家を育成してきた。これらの全国の先駆けとなる研究・教育実績を活用し、2004年6月に設置された安心・安全センターでは、さらに人文社会科学系と自然科学系とを統合した、「安心と安全の科学」分野の研究教育に重点的に取り組むための拠点として次のような活動を行っている。
安心・安全の科学研究教育センター 高度リスクマネジメント技術者育成ユニット特任教員(講師)の古屋氏は空間情報を基にして大学と地域との連携をつなげながら、それらを担当するGISの講義や演習に実学として役立てていきたいと語る。