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市民との協働による里川の環境保全に向けて

神奈川県環境科学センター

 

「子供が遊べる川にしたい!」という市民の想いと、「地域を支援していきたい!」という行政の使命を橋渡しする、情報支援ツールとしてのGIS。

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次世代への財産とするために環境保全を掲げる神奈川県環境科学センター。その取組みは金目川の水質についての調査、公開で、地元を愛する県民の心と同センターの専門知識が融合されて進められている。

金目川は、丹沢山地を源流とし、相模湾に注ぐ流域面積約180k㎡の河川である。その中下流部は市街地を流下していることから、河川環境に対する市民の関心も高く、市民団体による環境保全活動が行われている。地域での環境保全活動を行う市民団体が自主的な活動目標を設定する際、その具体的な目標の設定に当たっては、活動地域の現況を把握する必要がある。しかし、河川の水質や生物の分布といった情報源は多岐にわたり、その収集にも専門的な知識が必要とされる場合がある。

  

GISデータベースの活用方法

このような環境保全活動に対する情報源や、その成果が利用されやすくするため、GISデータベースを構築する。さらに、そのツールを活用し、市民・行政の協働による環境保全活動を助ける目的で使用する。

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GISデータベースは、ESRIジャパン(株)の提供する自治体GIS支援プログラムを利用し整備した。データベース構築に当たっては、表に示すような情報を収集し入力した。情報源としては、行政界や河川といった基盤情報については、市販の数値地図等を使用し、自然環境情報については、既存の文献を使用した。これらを、Arcview9.1を用いて読み込み、GISデータを作成した。構築したGISデー夕べスは、金目川の環境を捉えるためのツールとして有効であったが、調査地点数が少ないなど、文献などから収集した情報のみでは十分なものとはいえなかった。

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そこで、上記GISデータベースに新たな調査結果を加え、GISデータベース情報の更新を行った。調査は、環境保全団体の金目川水系流域ネットワーク(流域市民が参加している地域グループで水質調査などを行っている)と、環境科学センターで分担した。さらに、整備した情報を市民に公開するために、ArcGIS Publisher 9.1により変換したファイルを市民団体に情報提供した。市民団体はフリーソフトウェアArcReader9.1により閲覧することが可能となった。

GISの効果

GISは、地域の状況を把握し市民が活動を行う際の課題の設定、解決に役立つ。下記は、市民と行政の情報共有を行った一例である。

流域の土地利用における、水田の分布と生物調査によるアユの生息状況と農業用取水堰の分布図である。アユの分布は金目川本川に多いが、その理由としては農業用の取水堰の分布にある。農業用水は河川から多く取水されているが、このような河川利用は、河川流量減少による河川水温上昇を引き起こしている可能性も懸念される。

それ以外にも、近年普及してきた下水道の放流水温が高い事、水田で使用される農薬等の化学物質の影響を受けている事等、人為的な要因による河川環境の変動が、アユの生息に影響を与えている可能性がGISより推測される。

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以上の協働で実施した調査結果は、市民団体の活動の成果となるとともに、GISデータベースの更新情報としても利用することができた。また、この事業で行った水質調査により、金目川の水質実態を把握することができ、今後の対策を立てる指標となった。まとめたものについては、住民に対してのNewsとして、環境科学センターより情報発信を行っている。

  

おわりに

本取り組みは、今後、一層の発展が望まれる。GISデータベースを利用して、河川環境の推移解析、それによる生態系の変化解析、結果を利用しての今後の対策や意思決定に使用されることが考えられる。住民と行政の協働プ口ジェク卜は、将来への財産を残すことにつながる、かけがえのない活動である。

このような状況の現在、「河川だけでなく、神奈川県全体の環境保全活動の際に、市民の意見のとりまとめ、行政の課題の抽出、活動成果の集約、などGISを用いて情報基盤を充実させていきたい。」と大塚研究員は語った。

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掲載日

  • 2008年1月1日