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野外調査実習授業でのモバイルGISの活用

徳島文理大学

 

学生達が、屋外調査支援システム(POS)を活用した六甲植物公園での野外調査を体験。

モバイルGISを活用した野外調査の実践を通して、新しい野外調査の方法と、GISによる情報処理のフローについて学ぶ。

概要

徳島文理大学文学部文化財学科では、幅広い基礎知識の修得から専門性の追求をめざす。その研究は歴史学・考古学・美術史学・建築史学・地理学といったさまざまな分野から成り立つ。諸分野を広く理解しつつ、歴史・文化・風土・地理の学びを通じて、感性豊かな真の実力を持った人材の育成をめざしている。また、尾道市西國寺所蔵文化財調査など、教員と学生が一体となった学外調査を実施し、文化財の記録、保護にも貢献している。

文化財学科におけるGIS学習

GISに関連して、2年次では専門知識・技術を身につける実践的なトレーニングの場として、地形測量など野外調査の基礎技術を学ぶ。必修授業として6ヶ月間で30コマある授業の1~2コマをGISの基礎的な知識と技術の習得のための授業にあてている。

2年次の環境文化実習I・IIでは、データ収集の準備、データ処理の方法、収集した資料の分析や保存法、野外調査、地図化の作業などの演習を通してGISについて総合的に学ぶ機会を設けている。

また、環境と生活について理解を深めるため、週末や休暇中などを活用して学外巡検を行う。自然と人間のかかわりについて、地形と気候・植生環境を手がかりに地理学的に空間システムを解明する手法について実習を通して学ぶ。この授業を担当する古田先生(自然地理学専攻)は、「野外調査では、調査地点を正確に記録することが求められる。そのための測量はなかなか手間のかかる作業であったが、最近ではGPSが普及してきた。道祖神の位置記録など、文化財調査の場でもこの方法を利用している。環境文化実習では、天然記念物など自然環境とのかかわりを視野に、さまざまな分野の調査に役立つこうした新しい方法について学んでいる」という。その新しい手法の一つとして、古田先生は、2006年8月に立命館大学で開催されたGIS Day in 関西の中のGIS実習「モバイルGIS」への参加を通して、屋外調査支援システム(通称POS)を援用できることを確信した。

屋外調査支援システム(POS)の概要

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屋外調査支援システム、通称POSは、平成16年10月23日に発生した新潟県中越地震におけるGISを活用した被災地の復旧・復興支援活動を通して得られた治験に基づき、屋外調査高度化研究会が今後の危機対応に効果的に活用できるツールとして開発したものである。

POSは、GISの技術をベースに(ArcView+ArcPad)、フィールドで調査記入用紙や紙地図の代わりにPDAなどの電子機器を使用するケースをサポートする。
POSでは、屋外での作業を極力減らすために、調査項目の入力を単純化できるほか、調査項目の設定などを初心者でも簡単に行うことができる。また後処理で発生する調査結果と現地写真の整理と帳票の作成について自動化できるなどの特徴を備えている。

POSを活用した野外調査の実践

GIS Day In 関西での自らのPOSの利用経験を通して、古田先生は、早速、POSによる野外調査を大学での授業に取り入れようと、ESRIジャパン提供の「大学支援プログラム」によってGISソフトウェアの提供を受け、またPDAなどのハードウェアについては、大学内の「特色ある教育研究助成金」を活用し、学外授業において、POSによる野外調査を実践するための準備を進めた。

六甲森林植物園 POS野外調査授業

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「六甲森林植物園」野外調査作業の様子

平成18年12月9日(土)から10日(日)にかけて、2・3年生を対象とした「環境文化実習II」「専門文化財演習I・II」の授業の一部として、GIS・GPSによる野外調査実習が行われた。自然と人間活動の関わりによって育まれてきた様々な地理的事象を体感するとともに、従来の紙ベースの調査とは異なるGISによる調査記録法を現地で学び、また調査後に発生する後処理の手法についても、学生達自ら体験するという貴重な学外実習の機会として巡検に組み込んで実施された。
調査では、GISやGPS機器にほとんどふれたことのない学生達が、森林の中を歩き、樹種や樹高、幹周りなどについて、PDA上(ArcPad)にデータ入力を行っていった。

PDAを活用した野外調査では、通常、PDA自体の操作感(画面の小ささや画面上でのペンタッチによる操作など)への慣れに時間がかかる場合が多いが、普段携帯電話の操作に習熟している学生達は、PDAへの慣れも非常に早かったと古田先生は言う。また、PDAを持った学生達が園内を調査していると、多くの通りかかるハイカー達がものめずらしそうに近づいてくる。学生達は、覚えたてのPDAやGPSの技術についてハイカー達に説明し、多くの人たちとの交流を楽しみながら調査を進めていた。

  

POSによる野外調査授業の有用性

この実習を通して学生達は、PDAを使った新しい調査の方法だけでなく、POSを活用した野外調査の準備としてのGISによる前処理と、調査後の結果のまとめとしての後処理までを体験した。前処理では、データの準備、PCからPDAへのGIS地図の切り出しと転送、後処理では、調査で取得したデータのGISへの取り込みから、調査結果による地図作成までを行った。
これらの経験を通して学生達は、GISアプリケーション、PDAというソフトウェアの麺からもハードウェアの面からも、始めて触れる機器を使用した野外調査の方法について学んだ。
また、POSとGISによる前処理と後処理の作業を通して、調査項目の準備、実際のデータの入力、取得されたデータの処理、そして地図作成による調査結果の可視化という一連の作業フローを通してGISにおける一般的な情報処理のフローについても学習した。

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「六甲森林植物園」野外調査作業の様子

今後の展開

ハードウェアに依存するデータ精度の検証、バッテリー消耗時やエラー発生時の対処方法をマニュアル化するなど、初心者単独での調査に向けた工夫を今後重ねていきたい。
今年度の現地調査は、六甲のほか熊野古道巡検時のルートマップ作成、西國寺の野仏調査などを実施し、目下データ分析中である。また、今後も野外調査に必携のツールとして各種調査で活用していく予定である。

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掲載日

  • 2008年1月1日