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海底地形データの提供で海洋科学のさらなる発展を支援

財団法人日本水路協会海洋情報研究センター

 

海洋データをシェープファイルで提供

海の基本図は、海洋における科学的基礎資料とすることを前提に作製された、海洋GISを進める上で必要不可欠な地図データである。

財団法人日本水路協会は、日本の水路業務が創始された1871年(明治4年)から数えて100年目にあたる1971年(昭和46年)に設立された。

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日本近海海底地形俯瞰図

当時の日本周辺海域では、外航船舶の増大・大型化、マリンレジャーの普及に伴う遊漁船・プレジャーボートの登場など、海上交通の安全の観点から海図・水路書誌のほか、多種多様な図誌類の刊行が望まれた。また、海洋開発と海洋環境の保全とが新たな国家的課題とされ、これに必要な海洋に関する科学的・基礎的資料の整備とその解析・提供が急務となった。更に水路測量・海洋調査等の事業を行う民間企業においても技術水準の向上が望まれる状況にあった。

海洋情報研究センター(MIRC)は、本協会における業務の中で、特に海上保安庁 海洋情報部 日本海洋データセンター(JODC)が扱うデータを、より高度に活用できるように品質管理手法の研究開発を行い、その成果を一般に広く提供することをミッションとして1997年(平成9年)に設立された。

海図

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航海用電子参考図(PEC)

一般に「海の地図=海図」と思われているが、海の地図が全て海図というわけではない。

海図とは、船舶の安全航行を目的として作製されている地図に他ならず、正式には「航海用海図」という。

航海用海図は、「総図」「航洋図」「航海図」「海岸図」「港泊図」からなっており、船舶の外洋航海用、沿岸航海用、港湾への出入港用など目的に応じて使い分けられている。また、一定の船舶にあたっては、IMO(The International Maritime Organaization)のSOLAS条約及び国内法規である船舶安全法の規定によりこれを備え置くべきものと義務付けられている。

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ヨット・モーターボート用参考図

従来、海図は紙であったが情報技術の発展により、1994年(平成6年)、海上保安庁海洋情報部では航海用電子海図(ENC:Electric Navigational Chart)の作製を開始した。航海用電子海図は、国際水路機関(International Hydrographic Organization:IHO)によって定義されたS57フォーマットによって作製されており、SOLAS条約によりバックアップ機能を備えることを条件に紙海図と同等の地位を与えられることとなった。

財団法人日本水路協会では、これら海図の印刷・供給及び複製頒布業務を行っている。さらにPEC(PC用航海参考図)を開発してプレジャーボート向けに航海に必要な主要情報も提供している。

海岸線・海底地形データ

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海図が航海を前提として作製されている地図であるのに対し、海の基本図は、日本の領海基線の決定、大陸棚限界の画定および海洋の利用・開発・環境保全・自然災害防止などの科学的基礎資料とすることを前提に作製されている。

詳細には、海底の地形、海底の地質構造、海面での地磁気・重力に関する科学的調査に基づいて、その使用目的、調査範囲に応じて作成されたもので日本周辺の沿岸海域、大陸棚海域などの図を刊行している。

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日本近海200m間隔等深線データ

紙で刊行されている沿岸の海の基本図の等深線をデジタイズし、ArcViewや他のコンピュータ・ソフトウェアで容易に利用できるように、アスキーファイルとシェープファイルで提供している。

また、日本近海30秒グリッド水深データ(JTOPO30)を元に、日本周辺海域における200m間隔の等深線データもアスキーファイルとシェープファイルで提供している。

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アオウミガメの回遊経路図
上図は、アオウミガメの回遊経路データ
(提供:東京大学海洋研究所
佐藤 克文 助教授)を、MIRCが提供する
JTOPO30および黒潮流軸データと
重ね合せて作成したものである

「大学在学中は東京湾の数値シミュレーションに関する研究を、現職では海洋データの品質管理に関する研究を行っています。水深データは海潮流や水質などの環境予測シミュレーションを実施する上で必須の情報で、わずかな水深の違いで計算結果がかなり異なったり、計算不能になったりする場合もあります。私自身、大学在学中には研究対象海域の水深データを作成する際に、海図の読み取りなどにかなりの労力と時間を費やしました。その時、「なぜすぐに利用できる水深データがないのだろう。」と思ったものです。水深データに限らず、水温や塩分などの様々な海洋情報も含めてGIS化して共通基盤として整備することが、海洋学の発展や地球温暖化などの地球環境問題の解明につながると信じています。」と語るのは研究開発部 鈴木亨部長。

おわりに

「地球規模の環境問題を解決する上で、今後は、これまでよりも活発に海外諸国と海洋データを共有・交換する必要があります。例えば地球統物理学の分野では、netCDFが事実上標準のデータ交換フォーマットとして広く採用されています。当センターでは、より円滑にデータを共有できるような製品の開発加工に取り組んでいきたいと考えています。」と最後に鈴木部長は語った。

プロフィール


開発研究部
鈴木 亨 部長



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資料

掲載日

  • 2006年1月1日