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IT機器を使った森林文化の伝承

岐阜県立森林文化アカデミー

 

多様な中山間地域の文化を継承し次世代に伝えるため、GIS/GPS/RS によるビジネスモデルを探求!

今、日本の人工林は間伐を必要としている。間伐の停滞は森林資源のポテンシャルを下げる。こうした森林の疲弊により、いにしえから息づく日本の多様な中山間地域の文化は、無味乾燥で全国画一的な都市文化に呑み込まれつつある。緑豊かなこの国の地域文化を継承し次世代に伝えるため、いまGIS/GPS/RS の使い手である都市住人になにができるか?それは、IT技術を活用し森林境界明確化を地域住民と行うことではないだろうか。

アカデミー外観
アカデミー外観

長良川の中流に位置する美濃市は、古くから和紙の産地として知られている。2001年4月、この地に岐阜県立森林文化アカデミーは設立された。岐阜県は豊かな森林資源に恵まれ、すぐれた「ものづくり(匠)」と「木造建築」の伝統がある。本アカデミーは、この岐阜県において自由で実践的な高等教育の拠点として自然と人との新しい関わり方を探り、持続可能な循環社会の形成に寄与できる人材を育成することを目標としている。

健全で活力ある森林育成のためにすべきこと

日本は国土の65%、2,500万haが森林である。そのうち1,000万haが人工林、そしてその60%が間伐期を迎えていると言われている。

「間伐」とは、成長過程で過密となった森林に対して、本数を減らすために抜き切ることで、健全な森林をつくるために欠かせない作業である。

手入れが滞った人工林は災害に弱い
手入れが滞った人工林は災害に弱い

間伐を施さないと森林は過密になり、林床に光が届かないばかりか限られた光を隣接する樹木同士で奪い合い樹木の成長が抑制され、ひ弱な森林になってしまう。そして森林は良質の木材を産出できなくなるだけでなく、災害の防止、水資源の涵養や土砂の流出防止など公益的機能を十分に発揮できなくなり疲弊する

ところで、わが国は温暖多雨な気候のもと豊かな森林資源に恵まれ、それを活用した日本独自の文化を醸成してきた。そして急峻な山地によって地域と地域が分断されているため、独自文化の形成は加速し、今にそのカタチを伝える。移り変わる四季に応じた地域固有の伝統行事・・・。なぜこのような地域の特性が長い間維持されてきたのだろう。理由は難しくない。そこで人々が営々と自給自足の生活をすることができたから。ところが、全国津々浦々すべての人里が貨幣経済に組み込まれ生活のために現金が必要となった。そのため雇用のない土地では人は生活を維持できなくなり過疎化が進んだ。結果、地域独自の文化は一つ一つ雲散霧消しながら次第に地域性は薄れ、かつては多様だった日本の文化はどこも金太郎飴のような状況になってきた。

いま日本の林業は市場経済の中で不振にあえいでいる。採算を取ることさえままならない日本林業。林業の不振により、中山間地域の雇用の減少とともに間伐の遅れが大きな問題となっている。間伐の遅れは森林の疲弊とともに森林資源を基盤にして成立してきた日本文化の画一化をもたらす。5年、10年というスパンでもみても、500年、1000年というスパンでみても再生可能な山林の荒廃よりもむしろ再生が不可能な文化の荒廃のほうが問題であろう。

さて、地域独自の文化を荒廃させないためにはどうしたらいいのだろうか。まず雇用創出が大切だ。次に、日本文化を育んだ森林の維持だ。では何からはじめるか。そうだ、荒廃が進む人工林の間伐をとにかく産業ベースで行えるような仕組みづくりからはじめよう。

そこで竹島研究室では間伐促進を進めるためにはどうしたらよいのかヒントを得るため2001年10月より岐阜県内の中山間地域の村々をまわりはじめた。

間伐を促進するためには?

森林の所有者は、個人・地域・企業と様々である。まず地域に入って驚いたことは、個人所有者においては、代々受け継がれてきた所有林の位置を知らない人が少なくないことだ。ある村で座談会を主催し個人所有者を対象にアンケートを実施したところ、2/3が自分の所有する山林の位置を「人に聞けば分かる。」「人に聞いても分からない。」と回答した。これでは「間伐をしましょう。」と声高に叫んだところで、間伐は進まない。そこで、間伐促進をするためには、まずは所有山林の境界をハッキリしなければならなかった。特にこのことは急務であった。というのは、現在所有者の代替わりによってますます山林の境界は分からなくなっており、まだ分かる人がいるうちにそれを次世代に伝えなければ問題はますます肥大化するのだ。

さて、問題はどうやって境界明確化を促進させるかである。竹島研究室の切り口はこうだ。そもそも所有境界が分かってハッピーな人は誰か?それは所有者である。ならば所有者にお金を負担してもらって所有境界明確化を促進させよう。ところが実情はお金を払ってまでやろうとする所有者はきわめて稀である。それはなぜか。境界の明確化というサービスがお金を払うほどのサービスになっていないからである。もしも、明確化したときのアウトプットが所有者にとって魅力的ならば、所有者はお金を払ってまでも明確化したいとおもうだろう。そこで竹島研究室は、どのような商品を所有者に提供したら所有者はそこにどれほどの金銭的価値をみいだしてくれるだろうかについて研究し始めた。そこで、空中写真のオルソフォト、高分解能衛星画像、レーザープロファイラーデータなど岐阜県が基盤整備した情報などを活用しながらGPS・レーザーレンジファインダーを使い森林境界の明確化のサポートを始めた。

活動風景
活動風景

この取り組みを通し、所有者と直接対話しながら我々が作る商品の付加価値を値踏みするとともに、所有者を行動に移すための説得のツボ、活動を円滑に行うための仕組みづくり、ハードウェア・ソフトウェアのシステム開発を行い、森林境界明確化のビジネスモデルのパッケージ化を行っている。

ビジネスモデル

フィールド作業と付加価値商品の製作において、GIS/GPS/RSは非常に有益なツールである。空中写真のオルソ処理を簡単に行うことができるERDAS IMAGINEやオルソフォトや衛星写真を背景に測量成果を重ねたArcMapを使って作成した地図に所有者は十分に満足してくれている。当初GPSを前提にした測量やナビゲーションを行ったが、そのことはカタログ性能を発揮できない起伏の激しい山地においては、フィールドワーク・内業ともに生産性を落とすという結論に達し、いまではGPSに依存しないでも測量・ナビゲーションが行えるシステムを独自に開発した。

よみがえった人工林 作:林業家 内田健一
よみがえった人工林
作:林業家 内田健一

こうして地域に入って住民と活動したり、最新のIT機器を活用したりして中山間地域におけるビジネスモデルのパッケージ化を研究し、いまある程度のめどが立ってきた。
「これから必要なのは、パッケージ化されたビジネスモデルの受け皿です。誰がそれをするのか?私たちは学校ですから、それで商売をするわけではない。しかし、このような息の長い研究は企業ではできないし、土臭い研究は大学で行われることはない。また役所などでは金儲けを前提にした取り組みもできない。県立であり地域密着型の高等教育機関の私たちこそが日本で唯一このような取り組みができるところと自負しています。ですが、目的は地域文化の伝承ですから、普及が研究のゴールです。ですから、大筋が見えてきた現在の問題は普及です。私が行っているGIS/RS/GPSの技術は街でバリバリそれらを使っている人から見ると本当に子供だまし程度です。森林境界の明確化ビジネスには、もうそれほど高度な機械やシステムは必要ありません。それだけで十分にビジネスができる。是非、GIS/GPS/RS使い手の方はその技術を中山間地域で活用してください。支援いたします」と竹島助教授は語った。

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竹島 助教授



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掲載日

  • 2006年1月1日

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