近年積極的な導入が進められている風力発電事業において、事前に風の状況を詳細に把握し、さらには法規制や環境条件も同時に勘案することによって、戦略的なウィンドファームの建設計画の立案が可能となった。
風況予測ソフトとは、地形や建物の間を流れる風の状況を3次元的に解析するソフトである。九州大学応用力学研究所と(有)流体物理研究所では、「RIAM-COMPACT」という複雑地形の上を流れる風の状況を高精度に予測するソフトウェアを開発し、製品化している。現在、前述の2者と、(有)環境ジーアイエス研究所、西日本技術開発(株)が加わりコンソーシアムを形成し、風況解析ソフトとGISを連携させる技術開発および風力発電事業への応用を進めている。
図1 RIAM-COMPACTによる可視化例
地球温暖化やエネルギー需要の増加により、環境負荷の低い石油代替エネルギーとして風力発電が注目されている。政府は2010年までに現状の3倍にあたる約300万kWの発電を風力で行うことを目標とし、様々な支援策を用意している。
風力発電は風のエネルギーを電気エネルギーへと変換する仕組みであり、風速が2倍になると発電量は8倍となることから、効率の良い発電を行うには、いかに風の強い地点に風車を建てるかが重要となる。そこで、NEDOでは全国の風速分布を解析し、風況マップとしてインターネットで公開している。この風況データは約500m四方のメッシュ毎に年間平均風速を示しており、有望地点の絞り込みには参考になるものの、これに基づいて風車開発地点をピンポイントに決定するのは困難であった。
事前に詳細な地形によるシミュレーションを行い、対象地区の風況特性を把握することで、風況精査地点や風車建設地点の検討がより的確に行える。そこで、有望地点の詳細な地形データに基づいた、風の流れを解析し、計算結果データをGISに統合する手法を確立した。これにより、風速の強弱のみならず、風の乱れ状況、法規制の有無、アクセス道路状況、騒音や景観への影響など、総合的な見地から風車建設地点を選定する手法を開発した。
九州や中国地方において、実際の風車建設で適用しており、その概要は図2に示す流れになる。
・RIAM-COMPACT(前処理・後処理ソフトを含む)
・ArcGIS9.0(3D Analyst Extension)
・50mメッシュ標高データ
・5mメッシュ標高データ(紙地図から作成)
・法規制(森林法・農地法・自然公園法など)
・自然環境に関するデータ(国土数値情報や紙地図からの入力)
・NEDOの風況予測データ(Shape形式へ変換)
・航空写真
・Pentium4 3.4Ghz、メモリ2GB、WinXP SP2
図3 NEDO マップを重ね有望地の探査
実際の事業の検討で利用していくことで次のような効果や注目すべき点がわかった。
(ア) 風の解析結果を見慣れた地図の上に重ねて提示することで、風況がより理解しやすくなった。特に、GISの持つ3次元描画機能を活用すれば、風車建設にかかわる自治体や住民に対して視覚的な情報提示と効果的な合意形成が可能となる。
(イ) 検討段階で詳細な風況解析結果と法規制等の他の情報と重ね合わせることにより、合理的な適地選定が可能となる。
(ウ) 通常、急峻な地形の上を流れる気流は、大小様々な渦を形成し、乱れた気流を風下に発生する。この乱れた風が風車のブレードに当たると、本来の発電能力を発揮しないだけでなく、風車の耐久性にも悪影響を与える。RAIM-COMPACTは、風の強弱だけでは無く、風の乱れの状況も視覚的に把握できる点が特徴であり、風車の配置検討に極めて有用である事がわかった。
(エ) NEDOの風況マップをもとに設定した計画案について風況解析を行ったところ、風の乱れを受ける地点があることが判明し、配置計画案の見直しを行うに至った。
(オ) 特別な設備は必要なく、PC1台で検討可能である。1風向のシミュレーションに30分程度の計算時間で済む。
図5 鳥瞰図による風況や景観の確認
図4 詳細地形の流れを予測
実際に提案手法を用いて最適化を図った風車について、予測値と発電量の実績データを対比することで、システムの効果を定量評価する。
RIAM-COMPACTの解析結果と、風向発生頻度データをセットすると、任意地点の発電量を評価できる検討ツールを開発する。(ArcGIS Engineの利用)
都市のヒートアイランド、煙や汚染物質の拡散予測によるリスク管理、ビル風の緩和策の検討など、様々な分野での活用方法を検討する。