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地球に優しい再生可能エネルギーの普及のために

日本大学生産工学部

 

風力発電の設置地点・発電量予測シミュレーションにGISを活用。

地球温暖化を抑制するための新しいエネルギー源として風力発電への期待が高まっている。風車設置地点、発電量予測シミュレーションにGISを活用している。

日本大学生産工学部長井研究室では、地球環境に優しい再生可能エネルギーの普及のための研究に取り組んでいる。風力発電の設置地点の決定(サイティング)や年間発電量の予想には、日本全体の風速分布マップや社会条件地図、将来の洋上風力発電導入に向けた海上の自然条件マップなどが必要であり、これらの作成にも地理情報システムを活用している。

NEDO風況マップ(50m高さ、500mメッシュ)と国立・国定公園の重量(関東・東海地方沿岸)
NEDO風況マップ(50m高さ、500mメッシュ)と
国立・国定公園の重量(関東・東海地方沿岸)

電力消費量が世界4位のわが国においても、地球温暖化抑制のために電力事業者へ発電量の一定割合に再生可能エネルギーを導入することが、RPS法で義務付けられている。

そのためにCO2排出量が少なく、環境に負荷のない風力発電や太陽光発電などへの期待が高まってる。風力発電は設置される地点毎に地形や地物のレイアウトが異なり、さらに風車規模によって取得可能エネルギーの発電量も異なる。また、風車導入には経済性詳細検討が必要となり、候補地点毎に発電量予想シミュレーションを実施して導入の可否が決定される。

風車導入可能エリアの検索

経済産業省所管のNEDO(独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)では、エネルギー源の非化石化を推進するため、比較的低コストの太陽光や風力発電など再生可能エネルギーの調査研究や補助事業を行っている。風力発電の出力は風速の3乗に比例する。風速が10%高くなると発電量は約30%増して累積の年間発電量は大きく異なってくる。従って、平均風速が高い地点を抽出ために、500mメッシュの風況(LAWEPS)のGISデータ化を行った。さらに、風車建設の制限条件となる自然公園マップや住居、道路などを国土地理院の数値地図(空間データ基盤)と照合して、発電ポテンシャルの高い候補エリアを絞ることに活用している。

風力発電機の発電量予想

導入候補風車の年間発電量を特定するために、経年変化を除く空間・時間的変動を1年の風向風速観測結果から詳細なシミュレーションを行う必要がある。その際、数km2の範囲の地形モデル(3次元等高線)、土地利用モデル(地表面粗度)や数100m以内の障害物モデル(対象地点周囲のキャノピーや構築物)が影響要因モデルとして必要となる。また、国土地理院の50mメッシュ標高、国土数値情報の100mメッシュデータからArcInfo、及びエクステンションである3D AnalystやSpatial Analystの機能を利用し数値モデルを作成している。その結果、細分化された10mメッシュの風況マップの作成や年間予想発電量のシミュレーションが容易となっている。

課題

わが国の大型風力発電導入量の推移
わが国の大型風力発電導入量の推移

2010年までに風力発電は300万kWの導入を目標としている。この目標を達成するために、風量調査のみならず、風車輸送のための搬送道路ネットワーク分析や既存の送電線との位置関係、風車設置に関わる多くの要素を考慮した最適な設置地点の候補を検出する必要がある。そのため、現在各要素のGISデータ化を進めている。その一例が、国土の約15%を占める国立公園、国定公園、県立自然公園内の第2、3種区別地域並びに普通地域や海岸線の保安林地区への風車設置である。秩序ある法改正をすることにより、300万kWの導入目標は達成可能な数値になると考えている。わが国における風力発電の導入所況の推移はグラフに示すように、昨年度末で累積924台92.6万kWである。今後、約1,000台~1,500台で各1,000~2,000kW規模(累計207万kW)の導入が必要とされる。

今後の取組み:洋上風力発電

近年、風力発電機製造技術が進化しており、欧州ではロータ直径が110m以上の大規模風車が量産化され始めている。陸上搬送や陸上部への設置が困難なサイズであるが、発電コストは4~6円/kWhになると試算されている。そのため洋上への風車設置需要が高まってくることが予想され、わが国でも風環境に恵まれた洋上における風車設置、発電量予想シミュレーションを行っていく必要がある。

洋上風力発電用基礎マップの一部海岸域100kmの年平均風速(60m高)
洋上風力発電用基礎マップの一部
海岸域100kmの年平均風速(60m高)

長井研では離岸距離100km以内の海域風速マップ(衛星データをもとに10kmメッシュで海面60mにおける予測風速)や自然公園、水深、海底質のGISデータを作成し、将来の導入に向けた、予備的な調査研究を行っている。さらに、洋上風力発電導入には必要となる漁業権設定区域、船舶航行ルート、落雷発生地域頻度分布、海域別の最大波高などのマップの作成も行っていく予定である。

わが国では、京都議定書で定められたCO2削減目標である-6%の2012年達成に懸命となっているが、欧州では全世界で導入している風力発電と同規模の5,000万kWまで導入を拡大する検討がされている。国際環境保護団体グリーンピースと世界風力エネルギー協会(GWEC)が2003年発表した“ウィンド フォース12“は、2020年までに全世界の電力需要の12%相当量を風力発電で賄う計画である。これが達成されると、CO2削減量は2002年の3,870万トンから2020年には18億1,300万トンに増加すると試算されている。OECD(経済協力開発機構)太平洋の導入量を各国で按分すると、わが国の風力発電導入規模は、2010年の300万kWの10倍にあたる3,000万kWが割当量となる。

洋上風力発電用基礎マップの一部 沿岸域100kmの海底質分解(5分類)
洋上風力発電用基礎マップの一部
沿岸域100kmの海底質分解(5分類)

洋上風力発電用基礎マップの一部 沿岸域100kmの水質分解
洋上風力発電用基礎マップの一部
沿岸域100kmの水質分解

プロフィール


日本大学生産工学部
長井 浩 助教授



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掲載日

  • 2006年1月1日