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事例

GISを活用した東京水道の震災情報システム

東京都水道局

 

1,200万人都民へへ安定した給水の確保
震災時に備え万全の対策と訓練で安定給水を目指す

近代水道として通水を開始してから100年余りを経過した東京の水道。
GISによる迅速な情報収集・共有で、より信頼性の高い水道システムを構築する。

東京の水道

私たちの生活には欠かすことのできない水道。
東京の水道は、明治31年(1898年)に近代水道として淀橋浄水場から通水を開始してから100年余りを経過した。その間、清浄な水を常に安定して供給するため、水源の確保や施設の整備拡充などを推進してきた。その結果、給水人口1200万人という世界でも有数の規模と能力を有する水道事業に発展した。現在、東京都水道局は23区及び多摩地区25市町(武蔵野市、昭島市、羽村市を除く)に給水を行っている。
大正12年(1923年)、東京は関東大震災に見舞われた。以後、東京では震度6以上の地震は発生していない。しかし、近年では、首都直下地震の切迫性が指摘されており、東京もいつ大地震に見舞われるか分からない。
東京都水道局では、過去の大地震における教訓を踏まえ、震災が発生した場合でも断水を最小限にとどめ、飲料水をできる限り確保するよう、震災対策に取り組んでいる。

震災に備えて

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システムを使用した
震災時シミュレーション

東京都水道局は、震災時の被害状況等の重要な情報を迅速に把握するため、平成11年4月に震災情報システムを構築、稼動させた。以後、幸いにも訓練以外で使用されることなく10年ほどが経過した。
10年の間、IT技術は目覚しく進化し、安全安心に対する都民ニーズも高まりつつあることから、平成19年に震災情報システムの再構築を開始し、約1年半の開発期間を経て、平成21年9月30日から現在の新震災情報システムが稼動した。
旧システムでは、クライアント/サーバ形式で、70事業所にクライアント端末が約120台設置されていた。現在の新システムでは、Web化が図られ、全職員約4000人が使用する局内LAN(TS-NET)の全端末が使用可能となり、情報入力用端末の確保と情報の共有化が実現された。震災発生時には、断水が発生した箇所にどのように対応するか、またどのように管路等を復旧させるかなどの迅速な対応が求められる。そのためには、水道施設の被害状況や対策を行う職員の参集状況等の情報収集と共有が図られることが重要である。
したがって、本システムには、これらの情報の迅速な収集と共有を可能とし、加えて震災時においても安定して稼動することが求められる。
本システムは、新宿の本庁舎にメインサーバを設置するだけでなく、立川庁舎にサブサーバを設置している。双方とも自家発電装置からの給電が受けられる体制を構築するなど、システム自体も万全の震災対策が施されている。

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震災情報システム概要図

本システムには、震災時に対応するために様々な機能が実装されている。

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応急給水状況情報画面

これら機能は、地図や文字情報のGISによる可視化が進んだだけでなく、開発担当者の間で何度も協議を重ね、重要な情報をシンプルにわかりやすく表示することに成功した。
システム導入に際して苦労した点のひとつとして、「本システムは、職員が常時使用する業務システムではなく、震災時の緊迫した状況で使うシステムです。専門的な知識がなくても、職員なら誰でも直感的に使えることが大切な要件となります。現場からのシステム要件が多い中、シンプル化を図るための現場サイドとの調整が大変でした。」と中村氏。
その結果もあり、各種機能やユーザーインターフェイスの他に、データ入力も簡素化することにより、入力担当者が直感的に迅速な対応を行えるシステムとすることができた。

今後の展開

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応急給水栓組み立て

震災に備え、万全の体制づくりに取り組んでいる東京都水道局。
管路や施設等の耐震化を積極的に推進する一方、緊急時の体制等の整備にも取組んでいる。年2回(7月、10月)の防災訓練は、本番さながらに実施されている。
本システムは、訓練においても情報管理ツールとして中心的に使用されている。
震災が発生した直後においては、情報収集・集約などの情報管理が最も重要となるが、この震災情報システムが常時スタンバイしていることで、迅速な情報管理が行え、素早い対策が図られるのである。
震災時の飲料水確保のために東京都ではおおむね半径2キロメートルの距離内に給水拠点1箇所を設置している。また、震度6弱以上の場合は、全職員が休日でも持ち場に参集する体制が整えられている。
このような緊急時の体制整備とGISで可視化された各施設や職員参集の状況情報があって、はじめて迅速かつ効果的な震災対策が実施できる。
このことにより、断水を最小限にとどめ都民の飲料水をできる限り確保することができるのである。

おわりに

次世代を見据えた新技術の研究開発や人材育成など先導的な役割を果たし、水道界をリードする東京都水道局。
私たちの暮らしと安心は、水道局の絶え間ない努力と水道に対する強い責任感の上に成り立っていると感じた。

プロフィール


左から河井 氏、中村 氏、白井 氏



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資料

掲載日

  • 2010年1月1日