地域間や世代間の公平性という視点から行政サービスの現状やあり方を分析。GISを活用し、「選択と集中」による効率的な施設配置を考える。
日本は出生率及び出生者の低下・減少による少子化の進展により、今後10年以内に人口減少社会が顕在化すると考えられている。なかでも、税収を担う生産年齢人口の減少は著しく、多くの自治体では住民負担の増加、または行政サービスの低下を強いられることが危惧されている。
また、高度経済成長期に建設された公共施設等のインフラは、まもなく一斉に耐用年数を迎え、施設の劣化による建替えや維持管理によるコスト増大も予想されている。
これらの要因を背景に、新潟市では14の周辺市町村と合併を行い、効率的な行政サービスを目指した。それに伴い、重複する公共施設の適正配置への取り組みが求められ、「選択と集中」による戦略的な自治体経営、すなわち、長期的な視点に立ったアセットマネジメントが必要とされていた。
一般的に公共施設の重複度を図る指標としては、類似施設間の距離が「近い」「遠い」という判断基準にのみ基づき抽象的な評価が行われていた。一方で、新潟市は、過去、防災分野においてGISを活用した経験があり、GISが位置情報に特化した定量的な分析に優れた道具であることは認識していた。
以上の理由から、今回は試験的な取り組みとしてアセットマネジメントにGISを活用し、新潟市における公共施設の現状分析および公共サービスのあり方見直しを検討した。
評価の判断基準として、「地域間の公平性」や「世代間の公平性」を重視し、各町丁目と施設の位置関係や施設規模を考慮して、町丁目毎に1人あたりの延床面積を求め、以下の通り定量的評価を実施した。
GISを活用するに当たっては、幾つかの問題に直面した。当初は、GISを操作しようとしても、動かす事すらできず、この時、初めてGISの操作には大変な技量が必要なのだということに気づいた。
GISの基本的な技術を習得すると、次は、正確な情報を分かりやすく市民へ伝えるという問題に直面した。どのような解析手法を用い、いかに地図上で情報を可視化すべきか。画面の構成、データの選定や分類数、配色など、情報を可視化するには、理屈では無い個人の感覚が問われた。
また、地図上で情報を表現するよりも、グラフや表を利用した方が良い場合や、解析手法についても、難しいアルゴリズムが現実世界に近い結果を与えてくれるわけではないと言うことに気づいた。
GISを活用する事により、公共サービスに段階的な優先順位付けをし、定量的に行政評価を実施することができた。そして、限られた財政状況の中、合理的で効率的な行政サービスを実現するために必要な意思決定の一助とすることができた。例えば、人口分布および施設の密集度は必ずしも一致しておらず、地域間における行政サービスに偏在性があることが明らかとなった。古くからの市街地や郊外に位置する合併市町村の人口集中地区では、公共施設の集積が見られる一方、旧新潟市を取り囲む新興住宅地域においては、人口の密集地域と施設集積地域に不均衡が生じていた。ドーナツ化現象や合併の影響、過去の政策や社会現象が都市に与えた痕跡も可視化することもできた。
また、公平性を指標として、既存施設の床利用の見直しや統廃合をすべき施設の選定、新設が望まれる地域の特定をすることができた。新設計画予定の施設は、すでに行政サービスが充実している地域への重複投資であるという結果が明らかとなった。
以上が、「選択と集中」に基づく戦略的自治体経営実践に向けた、新潟市の試験的な取り組みである。
尚、今後実施予定としている検討事項については以下の通りである。