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GISによる京都バーチャル時・空間の構築

立命館大学 衣笠キャンパス

 

新しい4 次元GIS/VR 技術を最大限に活用した、歴史都市京都の町並み景観の復原

世界的な歴史都市京都の景観復原にはいかなる方法が有効であるのか…。時間軸を加えた4次元GISの構築は、GISとVRモデリングの最新技術の融合によりはじめて可能となった。

京都アート・エンタテインメント創成研究

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立命館大学文学部地理学教室では、21世紀COEプログラム「京都アート・エンタテインメント創成研究」の拠点として、GISによる京都バーチャル時・空間の構築を目指し、最も精度の高いバーチャル京都を、MAPCUBETMをベースに現在から過去にさかのぼるかたちで歴史都市京都の景観復原を行っている。GISやバーチャルリアリティ(VR)を用いた歴史時間軸も備えた京都のバーチャル空間の構築は、京都特有の高度で繊細な芸術・文化表現を公開・発信するプラットフォームともなる。

京都バーチャル時・空間の構築の過程では、明治以降の官製地形図、地籍図や空中写真のデジタル化を行い、過去の景観復原にGISを最大限に活用している。とりわけ、都心部における京町家の空間的分布の把握は、過去の景観復原のキーになるとともに、将来の京都市における景観問題の基礎資料ともなる。

GIS環境の高度化により、3次元GISやVR技術による都市景観のモデル化は、その質と操作性の両面で実用化の段階に入りつつある。地理学教室では、豊富な地理情報とGIS技術に最先端の3次元の形状モデリングやテクスチャ技術を融合しながら、新しい3次元GIS/VR環境を実現化し、歴史都市京都の町並み景観の復原を進めている。

京町家分布および京町家の3次元VRモデリング

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平成10年度京都市「京町家まちづくり調査」と平成7、8年度「トヨタ財団助成による市民調査」による「京町家外観調査」により、京都には約28,000の町家があることが知られているが、地理学教室ではこれをもとに京町家データベースのGIS化を完成させた。また、平成7、8、10年以降の京町家の変化に関する追跡調査も行っており、調査地図の作成から結果の空間的な集計まで、すべての過程でGISが利用されている。

また、京町家データベースで2次元的なカタログをつくるのみならず、これをもとに3次元VRモデルを作成し、京町家のつくりだす町並み景観を復原している。この目的のためにつくられた「家屋VRモデル作成マクロ」は、ArcMapのスクリプトを活用してGISデータ、から京町家の位置と形状ポリゴン(間口方向、間口幅、奥行き)、そして建物類型の情報を取得し、総二階、中二階、三階建、平屋などの建物類型の特徴を有した3次元VRモデルを、出力することができる。

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大正地籍図のVR化

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京都の明治・大正期の地籍図に関しては、『明治17年地籍図』と、『京都地籍図』が存在する。明治17年地籍図は、京都府総合資料館に所蔵されるが、台帳が存在していない。そこで、立命館大学付属図書館所蔵の『大正元年地籍図』(縮尺は約1、300~1、500分の1)をデジタル化し、京町家の2次元GISとの重ね合わせを行った。

京都の大通りは、現在のものと位置や幅員なども大きく異なるため、通りを基にした重ね合わせは困難である。しかし、地籍図の特徴として町丁界の折れ点の形状が比較的正確である点が挙げられる。そこで、現在の町丁界の折れ点に合わす形で、地籍図と現在の地形図・住宅地図との重ね合わせを、ArcMapのジオリファレンス機能を用いて行った。そしてさらに、重ね合わせた後、地籍図の一筆ごとにポリゴンを作成した。これは土地の境界であり当時の家屋形状とは異なるが、現在ほとんどの町家が消滅した四条通の景観を復原する際に手掛りとなる。

また、当時の地形や街区形状、京町家以外の建築物のVR化についても、GIS/VR技術が活用される。具体的には、DEMデータより標高値を取得しArcSceneによる3次元とVRML形式による出力から、さまざまな3Dモデルを作成することが可能である。これは、1棟単位の建築物に限らず、広域にわたる空間領域について3D化でき、GISとVRを融合する上で極めて有効なツール足り得るといえる。

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GIS/VR化による景観変遷の把握

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地形図や地籍図以外にも空中写真を利用した景観復原を行っている。空中写真は、1928年(昭和3年)以降、現在まで6時期の画像があり、空中写真の判読によって各時期の京町家の正確な空間的分布を特定した。空中写真のスキャニングの後、ArcMap のジオリファレンス機能を用いて既存の地図にフィットするように幾何補正を行った。京町家の判読は、補正済みの空中写真画像上にておこない、京町家の家屋形状をトレースし、ポリゴン化することによって京町家を抽出した。

これをもとにしたVR化による景観変遷からは、京町家が昭和初期より第二次世界大戦後、高度経済成長期を経て現在に至る過程で、加速的に減少し都心の高度化が進展していく様子が視覚的に把握できる。こうした景観シミュレーションは、精確な位置情報から再現して初めて可能なものであり、GIS技術とVR技術の融合により実現したものといえる。

今後は、2次元GISデータベースの精緻化と景観コンテンツの時・空間情報の量とクオリティのさらなる充実を図っていく。そして、最終的な目標は、様々な京都の伝統文化をデジタル・アーカイブ化し、時・空間位置情報とともに、4D-GISに取り込み、日本の伝統文化をバーチャル京都を通して世界に発信していくことである。そのためには、この京都バーチャル時・空間をクローズドなものとするのではなく、WebGISおよびWeb3Dによる情報の公開や産官学で協働・共有できるような枠組みの構築も視野に入れていきたいと考えている。

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掲載日

  • 2005年1月1日