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事例

森林のゾーニングから森林所有者登録まで、GIS を活用した効率的な森林管理

熊本県森林組合連合会

 

市町村森林GIS導入に向けた取り組み

ArcGIS 操作ビデオの公開や森林所有者登録制の導入で、森林管理業務の大幅な効率化を目指す。

 

熊本県内における GIS 導入状況
熊本県内における GIS 導入状況

熊本県森林組合連合会は、県下森林組合の指導、森林の調査、治山事業調査 設計、治山・林道の施工管理、住宅資材としての木製品の販売、森林国営保険の加入手続きなどを主に行う、県内17の森林組合が出資している協同組合だ。平成 20年(2008年)の国有林保護 林モニタリング基礎調査をきっかけに ArcGIS for Desktop を導入し、森林管理の効率化に向けた GIS の利用と、統一基準によるデータの活用と促進に取り組んでいる。

 

GIS の導入

熊本県内の森林組合による森林 GIS の開発・導入は、平成17年(2005年)から始まった。それ以前は、森林管理の多くを手作業で行っていた。たとえば、森林組合が森林所有者に代わり行うことの多い森林施業計画(※1)立案の際には、年次ごとに複写した森林計画図を手作業で色づけしていた。また、森林簿や林班 (※2)、小班(※3)番号で特定される森林所有者情報が正確でなかったり、適切に更新されてないなど、人力での森林管理は困難を極めていた。

このような状況を背景に、県内に17ある森林組合の内14組合と森林組合連合会で GIS が導入された。手作業で行われていた森林施業計画作成と森林所有者情報管理の効率化を目的に導入された森林 GIS であったが、森林分野に特化したシステムであったこともあり、日常的な利用には至らなかった。

平成20年(2008年)、国有林保護林モニタリング基礎調査を受注し、GIS によ るマップの作成が、必要になった。これをきっかけに森林組合連合会では、汎用性のある ArcGIS の導入を決めた。現在では17の森林組合の内15組合が ArcGIS for Desktop を導入している。

※1 森林所有者等が 30ha 以上の団地的なまとまりを持った森林について、造林や保育、伐採などの森林の施業に関する5ヶ年間の計画を作成し、森林を整備する制度。
※2 林班とは、森林の位置と施業の利便性を考慮し、字界、稜線等を境界として各市町村で設定した森林区画単位。
※3 小班とは、樹種や林齢により区分けし、林班を細分化したもの。

 

市町村における GIS 導入

ゾーニングにより機能区分が付与された林班を表したマップ
ゾーニングにより機能区分が付与された林班を
表したマップ。青色:「水源涵養維持増進」、
黄色:「資源の循環利用木材生産機能」、 
黄色+青線:「木材生産+水源涵養」等

平成22年度(2010年)の時点で、熊本県内の市町村で GIS を導入しているのは、あさぎり町だけだった。そのような中、平成23年度(2011年)に林野庁が「市町村森林情報緊急整備事業」を開始した。この事業は、市町村における森林整備計画策定などに必要な森林情報を整備し、森林の計画的な維持管理と保全の推進を目的としていた。また事業実施の背景には、市町村での森林資源情報と地図情報をリンクさせた森林 GIS の整備が約2割と低水準であったことが挙げられる。そのため、「森林・林業再生プラン」の推進策として、森林・林業の再生を制度面からバックアップする森林情報の整備が急務となっていた。熊本県森林組合連合会は「市町村森林情報緊急整備事業」を活用し、GIS の導入と利用環境の整備に着手した。

スギ・ヒノキ人工林の齢級別構成を表したマップ
スギ・ヒノキ人工林の齢級別構成を表したマップ

この整備事業により、平成23年度に県内21市町村(47市町村中)が GIS を導入した。森林組合連合会では ArcGIS for Desktop 導入にあたり、GIS 初心者である市町村の担当者向けに操作ビデオを作成し、ホームページ上で公開した。内容は、初歩的な操作の説明からはじまり、森林ごとに期待される役割区分を設定していくゾーニングの進め方や、マップの印刷とデータの作成にまで及ぶ。ゾーニングの進め方では、スギ・ヒノキの齢級区分、林班、小班データを使い、水土保全、木材生産機能、資源の循環利用などの機能区分を定めるところまで解説している。また、国有林や希少動植物の生息地を割出し、多様な機能を持つ森林づくりのための設定手順にも触れ、各市町村の担当者の実務に沿った GIS の利活用が進むような導入支援が行われた。

 

GIS を活用した森林管理へ

平成24年(2012年)4 月から、市町村長への「森林の土地の所有者届出書」の提出が義務付けられた。この届出制 度の目的は、GIS 導入以前は難しかった森林(土地)の所有権の移動を把握・管理し、森林法に基づく施業の勧告、伐採および伐採後の造林に関わる命令等を円滑に行うことである。

熊本県林務水産部GISによる市町村地籍情報の反映

届出書に記載された情報が正しいか確認するには、国の管理する地籍システムに登記されている地籍調査(※4)の内容と照らし合わせる必要がある。地籍調査データが存在する場合は、データ内容と照らし合わせを行うだけで済む。 しかし、地籍調査が実施されていない 森林(土地)の場合は、森林計画図を示し、その場所を特定する必要がある。 熊本市西部河内町で森林境界明確化事業を行った際には、調査対象番地3,500筆の所有者800名の内、自己所有林の明確化希望者が約200名いた。さらに、200名の内、所有する森林がどこにあるかわからず調査を希望する人が65名程いるなど、森林とその所有者を結び付けた情報管理体制の整備の重要性と難しさが浮き彫りになった。

届出書に記載された森林(土地)と所有者の情報は、3つのケースに分けて処理される。1つ目は、既に熊本県林務水産部GISに地籍情報が反映されている場合である。筆境未定地を除いた森林計画小班図が地籍情報と一致するため、届出日、新所有者名を更新するだけで済む。2つ目は、地籍調査は完了しているが、熊本県林務水産部 GIS に地籍情報が反映されていない場合である。GIS 上に地籍データを呼び込み、届出書に記載された地番、地目、前所 有者名を確認し、所有権の移動情報の入力を行う。入力したデータを抽出し、熊本県に提出する。3つ目は、地籍調査が実施されていない場合である。森林計画図小班データを参照し、GIS 上に字図をスキャンした後、ジオリファレン スにより位置情報を参照する。しかし、正確な位置情報の把握は非常に困難である。

※4 地籍調査とは、主に市町村が主体となり一筆ごとの土地の所有者、地番、地目を調査し、境界の位置と面積の測量を行うこと

 

今後の課題

GIS を活用した森林管理を効率的に進めるため、森林組合と市町村、市町村と県による統一した基準でのデータ活用が急務となっている。たとえば、施業別・年度別の履歴管理、森林経営計画と進捗管理のためのデータの構築、標準地調査等立木調査データの蓄積とデータ解析、ハザードマップによる山腹崩壊や渓流危険個所等の把握などが挙げられる。また、携帯端末を利用して位置情報を取得し、GIS サーバの運用とクラウドコンピューティングの活用によりデータの共有を行うなど、さらなる GIS の利活用を目指している。

 

プロフィール


熊本県森林組合連合会
総務部 部長
岩下 信正 氏



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掲載日

  • 2013年3月25日