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事例

帝国データバンクの大規模データを地理情報システムと融合。企業間の取引構造を可視化

株式会社帝国データバンク SPECIA 共同研究プロジェクト

 

企業間取引、移転、企業誘致の経済効果など、さまざまな企業活動の実態にどこまで迫れるか?

帝国データバンクの大規模データベースにデータマイニングとGISを融合し、企業間の取引構造を可視化することでサプライチェーンの把握に挑む

GISで産学連携

帝国データバンクは2011年度より大阪市立大学および大阪府立大学との共同研究プロジェクト「地理情報システムおよび帝国データバンクの保有する大規模データベースを用いた取引関係構造の空間分析」を推進している。

企業間の取引構造を地図化

自動車産業は部品点数が多く、すそ野が広いことが特徴であり、完成車工場だけでなく、関連部品産業が周辺に立地する傾向がある。そのような複雑な産業構造を有する自動車産業を対象として、今回は大分県中津市に立地するダイハツ九州を取り上げ、実際にどの地域の企業からさまざまな資材・部品やサービスを調達しているかを、地図によりビジュアルに示すことから始めた。
帝国データバンク保有の企業概要データベースに含まれる発注企業、および受注企業の本社住所を位置情報として地図上にプロットし、取引関係を可視化する。ダイハツ九州と直接取引している企業を一次取引、一次取引先と取引している企業をP R O F I L E二次、さらに二次と取引している企業を三次とし、そのサプライチェーンを捉えることを試みた。
ダイハツ九州とその一次取引先を紐付けしたスパイダーダイアグラムからは、一次取引先のほとんどが九州地域と3大都市圏(大阪・名古屋・東京)に集中して立地していることがわかる。ダイハツ九州が拠点を構える九州地域以外では、大阪にはダイハツ本社が、その他の2地域には既存の自動車産業の集積がある。他方で、ダイハツ九州の二次取引先になると、3大都市圏に限定されず日本全国に立地が広がり、自動車産業のすそ野の広さを垣間見ることができる。

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ダイハツ九州と全国の一次取引先(全業種)との取引関係

 

『結節点都市』の存在とインフラによる立地傾向

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ダイハツ九州と一次・二次・三次取引先
(いずれも九州に立地する製造業)との取引関係

九州内部に目を転じると、九州北西部の特定都市を中心とした地帯に企業立地が偏っていることがわかる。九州に立地する一次取引先の数は限られているが、二次取引先の分布をあわせて参照すると、こうした傾向が明瞭に見てとれる。福岡県北九州市から福岡市、佐賀県佐賀市、熊本県熊本市にかけて企業立地のベルト地帯が形成されている。このような集積傾向の要因としては、他の自動車メーカーの影響も考慮すべきであろう。たとえば、北九州にも近い福岡県若宮市にはトヨタ自動車九州が、同京都郡苅田町には日産自動車九州工場が、熊本県菊池郡大津町には二輪車生産を行っているホンダ熊本製作所がある。
これらの諸都市は、企業が単に立地するだけではなく、あわせて企業間リンケージの結節点ともなっている。九州の製造業に限定すると、一次取引先が上述の都市近辺に立地し、これらの都市を中心に二次取引先の分布が形成されていることが見てとれる。同様に、三次取引先までのリンケージを考慮すると九州全体で非常に複雑な取引関係の網が形成されている。そこでは、一次から三次へと単線的な取引関係が存在するだけではなく、二次取引先同士の取引関係も確認される。これらの企業の立地は、上述の北西部地帯に集中しているが、それ以外では、高速道路の存在など、インフラ整備が行われている地域に限られているのが特徴である。

 

サプライヤーの違いによる企業取引の差異

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ダイハツ九州の取引先(一次・二次・三次)
従業員数の市区町村別集計

ダイハツ九州の有力な一次サプライヤー(製造業)2社の取引先をスパイダーダイアグラムによって確認したところ、両者のサプライチェーンには異なる特徴がみられた。A社が九州に立地する企業と多く取引しているのに対して、B社は親会社の主力工場がある静岡県の企業との取引が目立つ。本州に立地するサプライヤーの数については両社間でそれほど違いはないが、九州の製造業との取引数については 4倍近い開きがあった。こうした違いが生じる要因として推測できるのは、第一に、生産する部品の種類、構成する部品の点数や性質の違いなどの理由が考えられよう。一般に、小型で付加価値が高くコストに占める輸送費の割合の小さいものは遠距離から調達できるが、逆にかさ高で輸送費のかかるものは近距離から調達される傾向があるとされている。第二に、設立からの年数の違いが挙げられる。A社は 1993 年設立であるが、B社は 2005年設立と新しく、まだ地元の調達先を開拓できていないことも考えられる。
地場企業は地域内に意志決定や研究開発の機能を持つため、地域外から進出したサプライヤー企業が地場企業との取引関係を拡大することは、地場企業の成長・発展に寄与し、ひいては地域のものづくり能力の向上につながる可能性をもつ。実際に、九州地場の製造企業は、同じ九州の地場企業と取引上の関係が強い傾向がある。ダイハツ九州のような大企業の分工場の進出に随伴立地した地域外サプライヤー企業であっても、こうした九州の地場資本企業との取引を構築するならば、企業誘致の波及効果は高まると考えられる。

 

ダイハツ九州の雇用に与える効果を地図化

ダイハツ九州の 10km 圏内に近接立地する企業のほとんどが生産のサプライチェーンとは関係の薄い非製造企業となっており、取引リンケージという点では大分県はあまり恩恵を受けていない。大分県では、中津市と大分市周辺に卸・小売・飲食がいくらか立地する程度であるといってよい。ダイハツ九州の立地によって生まれた新規雇用を表すものではなく、あくまでも雇用への間接的な影響を示すものではあるが、ダイハツ九州の一次から三次取引先までの従業員数を市町村単位で確認したところ、ダイハツ九州との取引が最も強く影響するであろうと考えられる一次取引先に関しては、大分県よりも他県の方が雇用への影響が大きく、三次取引先まで対象を広げれば、大分県では中津市・宇佐市・大分市などで一定の雇用効果が想定されるものの、むしろ北九州・福岡・佐賀・熊本といった都市における効果の方が上回っていることが予想された。

今後の取り組み

位置情報に基づいてサプライチェーンや経済効果を視覚的に捉えることによって、さらなる空間分析の展望を拓きつつある。今後も取引の近接性や企業集積、企業間ネットワーク、企業移転等を定量的に捉えることを試みる予定である。これまでに培ってきた膨大かつ詳細な企業データを基に、地図化や空間分析の可能性を探っていく。

プロフィール


大阪市立大学
  木村 義成 講師( 左)
  立見 淳哉 准教授( 中央)
大阪府立大学
  水野 真彦 准教授( 右)


関連業種

関連製品

資料

掲載日

  • 2012年1月1日