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GISとデータ解析でまちづくりを変える

清水建設株式会社 設計本部 プロポーザル・ソリューション推進室

 
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定量的なデータ分析で地域の課題解決を支援するまちづくり計画支援サービス「マチミル」

概要

清水建設株式会社 設計本部 プロポーザル・ソリューション推進室は、都市開発プロジェクトの上流工程である都市計画段階において、地域のまちづくり構想と開発計画の検討を担う部署である。
同部は都市データ分析を活かしたまちづくりの推進をミッションに掲げ、その実現手段としてまちづくり計画支援サービス「マチミル」を提供している。これは、各種オープンデータと ArcGIS を活用し、人やものの動きを見える化することで、地域の防災・省エネルギーや効果的なエリアマネジメントに資する分析を行い、まちづくりの計画を支援するというものである。

課題

同社はこれまで都市開発プロジェクトにおいて、関連事業者や地域住民に対し「こんな街が良い」といった定性的な議論を通じてまちづくり計画の魅力や訴求点を提示してきた。しかし、実際にプロジェクトを推し進めるための情報や根拠(エビデンス)としては説得力に欠ける場面が多く、まちづくり計画のメリットを効果的に訴える方策を模索していた。


まちづくり計画支援サービス「マチミル」

ArcGIS 採用の理由

先述した背景から、同社は都市データ分析により定量的な効果検証に基づくまちづくり計画を行うために GIS を導入することを決めた。
同社内の他の部署がすでに ArcGIS を導入していた経緯もあり、組織内でのデータ共有やプロジェクト連携のスムーズさが評価されたほか、防災や自然環境、エネルギーなど、同社が保有するさまざまな技術・ノウハウを統合できる ArcGIS のデータプラットフォームとしての機能により、多様な視点でのまちづくり計画が可能になることへの期待が ArcGIS の採用を決定づけた。

課題解決手法

「マチミル」の提供開始に向けての第一歩として、同社が 2018 年(平成 29 年)に開発した交通流分析システム「パブリックアセットシミュレータ(以下、PAS)」の ArcGIS への統合を行った。道路ネットワークや建物ポイントデータ、人口統計をもとに都市内の交通流を予測する PAS は、ウォーカブルで人中心なまちづくりの計画に活用される。従来独立した Web システムだった PAS を ArcGIS と連携させることで、さまざまな地理空間情報と組み合わせて分析できる仕様とした。
PAS 内の分析機能を ArcGIS 内で再構築する作業や、マップのアウトプットイメージなど細かな要件定義には時間を要したが、ESRIジャパンのコンサルティングサービスを利用しながら、計画担当者が各プロジェクトで気軽に使えるシステムの構築に成功した。

効果

プロポーザル・ソリューション推進室は「マチミル」の提供を通じて、以下の効果を実感している。

・データに基づく定量的な分析の実現


公園への市民アクセス性評価分析

ある自治体の緑地計画改訂を支援する取り組みでは、PAS により市民の公園アクセス性を分析した。他の事例では、同社の生物多様性評価システムと組み合わせることで、人間と生物の双方にとっての最適な緑地計画を定量的に検討することを可能にした。
また、従来は調査に多大な時間と労力を要していた都市空間の利用状況も、GPS 人流データ等の動的なデータを活用することで、来街者の属性や回遊行動を比較的容易に分析・可視化し、市民の利用実態に応じた公共空間の計画や運営に役立てている 。


人流データによる公園利用実態分析

・強力なコミュニケーションツールに

企画展のポスター
豊洲での社会実験の様子

同社は江東区における防災まちづくりの一環として、豊洲スマートシティ推進協議会が主催する社会実験「明日の危機 -首都直下地震編-」、「明日の危機 -関東大震災 100 年-」に参画し、「マチミル」による江東区の防災に関する都市データ分析の結果をもとにした展示を行った。

災害発生時に帰宅困難者になり得る人口を静的な定住人口データと、動的な滞在人流データをもとに分析した。人流が集中する主要駅周辺における防災まちづくりの重要性を示したほか、地下鉄延伸が災害時の広域避難の安全性にもたらす効果を検証するなど、さまざまな分析結果を展示した。
ArcGIS によりさまざまな都市データを地図上でわかりやすく可視化することで、社会実験参加者が分析の内容を理解することを容易にするなど、「マチミル」は強力なコミュニケーションツールとしても活用されている。


鉄道による広域避難経路の多様性
(地下鉄 8 号線延伸の効果を検証)

・新たな課題とアイデアの発見

多様なデータを分析し定量的な根拠づけを行うことでまちづくり計画の検討時に欠かせないツールとなった「マチミル」は、新たなまちづくりニーズを創出するきっかけにもなっている。都市開発プロジェクトのあらゆる段階において、都市のさまざまな要素を分析・予測することで、これまで見えなかった課題やアイデアが生まれ、より良い議論と合意形成が促進される場面が増えたと、「マチミル」開発に携わった担当者は実感している。

今後の展望

同部は今後も ArcGIS を統合プラットフォームとしてさまざまなシステムと連携し、「マチミル」の機能を拡張していく。「『マチミル 』はまちづくりの種まきのネタでもあり、さまざまな関係者にご納得いただけるまちづくりの目標を共有するための、我々の新たな武器となっています。」と同部の田崎氏は語る。そのためにも、社内だけでなく、スタートアップをはじめとして技術系企業や学識との社外連携にもさらに積極的に取り組んでいきたいと、田崎氏は意気込んでいる。

プロフィール


設計本部 プロポーザル・ソリューション推進室
國嶋氏・土田氏・田﨑氏・甘粕氏



関連業種

掲載日

  • 2025年5月29日