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テレマティクスと GIS で実現する安全・安心なまちづくり

あいおいニッセイ同和損害保険株式会社

 
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社会課題の解決に向けたデータ活用で交通安全から災害対応までを支える保険の新しいカタチ

概要

あいおいニッセイ同和損害保険株式会社(以下、あいおいニッセイ同和損保)は、日本において長年にわたり損害保険事業を展開してきた企業であり、近年ではデジタル・データ活用による新たな価値の提供に力を入れている。同社は、社会的課題の解決と地域社会との価値共創を目指す「CSV × DX(Creating Shared Value by Digital Transformation)」を掲げ、DX と社会課題の解決を同時に推進している。これにより、従来の損害保険の枠組みを超えた、事故の未然防止や迅速な対応が可能な保険サービスの提供に取り組んでいる。
同社は 2004 年(平成 16 年)よりテレマティクス保険の開発と普及を進めており、保険業界においても先駆的な役割を果たしてきた。テレマティクス保険とは、車両の走行データ(時間、位置情報、速度、加速度など)を収集・分析し、保険の提供方法や事故防止対策に役立てる保険である。同社は国内外で約 190 万台分の走行データを蓄積し、膨大なビッグデータに基づいたリスク管理手法の高度化を実現している。
そして、このテレマティクスデータを GIS と組み合わせて活用することで、地域の交通安全や都市計画、さらには災害時の復旧支援まで多岐にわたる支援を行っている。損害保険の役割が「事故の後の補償」から「事故の予防と地域社会の安全・安心の提供」に変化していく中で、同社の取り組みは新たな損保ビジネスの一つのモデルケースとなっている。

あいおいニッセイ同和損保ホームページ「CSV x DX」より
あいおいニッセイ同和損保ホームページ「CSV x DX」より

課題

あいおいニッセイ同和損保が目指すのは、従来の「事故後の補償」から一歩進み、事故の未然防止と迅速な対応を通じて「安全・安心な社会」の実現に寄与する保険である。そのため、お客さま、地域社会とともにリスクを軽減し、地域ごとの課題に即した交通安全対策を提供することを掲げている。しかし、こうした「事故を起こさない保険」を実現するためには、テレマティクスデータの活用だけでは不十分である。
事故防止のための対策を精緻化するには、走行データだけでなく、地形データや事故発地点情報、警察や自治体が保有する交通事故データといった外部データも活用することが必要だ。これにより、地域ごとの道路状況や事故リスクの特性を詳細に把握し、緻密なリスク評価が可能となる。
さらに、事故リスクの高いエリアを的確に特定し、そこに最適な安全対策を提案するためには、データの統合や分析の高度化が不可欠である。必要なデータを一元管理することで、交通事故が発生しやすい地点や危険な運転挙動の傾向を特定し、地域に適した交通安全対策の策定に繋がる。

ArcGIS採用の理由

同社が ArcGIS を採用した理由は、多種多様なデータを地図上で統合・管理・分析できる点だ。テレマティクス保険を提供する中で蓄積される膨大な走行データだけでなく、地域の地形や道路情報、事故多発地点などの外部データも統合する必要があり、これらを一元的に可視化できる機能を ArcGIS は有している。ArcGIS は、位置情報や速度、急ブレーキなどの運転挙動データを地図上に重ねるだけでなく、警察や自治体から提供される事故統計や生活道路の状況、さらには人口分布や地域特性といった異なる種類のデータも直感的に地図に重ねて可視化できる。こうした複数の情報を一つのプラットフォームでまとめて管理することで、交通事故のリスクが高いエリアや危険挙動が発生しやすい地域をより正確に把握できるようになり、従来のデータ分析では得られなかった新しい知見が得られるようになった。

課題解決手法

あいおいニッセイ同和損保は、ArcGIS を活用し、さまざまな地域の課題に応じた分析を行っている。テレマティクスデータと GIS の組み合わせによる高度な分析を活用し、地域の交通安全と災害時の迅速な対応を実現している。
まず、渋谷区の小学校周辺での取り組みについてである。このエリアは人通りや車の往来が非常に多く、通学路の定期的な安全確認が行われている。同社は、テレマティクスデータによる急ブレーキや急ハンドルといった危険挙動のデータを ArcGIS で視覚化し、さらに警察から提供された事故多発地点情報と統合することで、小学校付近の危険エリアの抽出を行い、リスクの高い場所や時間帯の傾向を可視化した。このような客観的なデータを根拠に通学路を点検することで、たとえば危険挙動が多発する場所を避けたルートを検討するなど、具体的な改善を行うための基礎データとして活用された。

小学校周辺の走行量・事故発生地点分析(渋谷区)
小学校周辺の走行量・事故発生地点分析(渋谷区)

次に、能登半島地震の際の事例である。この震災発生時、同社はテレマティクスデータを通じて、被災地周辺の通行可能な道路状況を迅速に把握し、分析を行った。震災後、地域の走行データから得られる振動や速度の情報を活用し、通行が可能な道路と通行が困難な場所を識別することで、救援物資や支援車両の最適なルートを把握することができた。また、振動データを基に、道路の損傷が疑われる箇所を推定することができ、災害時における迅速な対応を支えるインフラ情報として活用することができた。

能登半島地震前後での走行データ:震災後に山中の道路が通行止めとなり交通がなくなっていることがわかる
能登半島地震前後での走行データ:震災後に山中の道路が通行止めとなり交通がなくなっていることがわかる

効果

ArcGIS とテレマティクスデータを活用した取り組みは、さまざまな実績と成果を生み出している。その一つが、2023 年(令和 5 年)度の「キッズデザイン賞」を受賞したことである。この賞は、同社が保育事業者の周辺の「交通量」と「事故の危険個所」を地図上に可視化し、散歩等の園外活動の際、使用する経路や目的地の安全確認に利用され、社会的な安全意識向上へとつなげる取り組みが評価されたものである。
また、地図上でのデータの可視化は、社内において営業活動の支援ツールとしても使われている。データを地図上で可視化する環境が整備されたことで、営業担当者が各地の顧客に対してデータに基づく具体的な説明が可能となり、提案力が向上している。

今後の展望

あいおいニッセイ同和損保は、今後もデータを活用して社会の安全・安心を支援する取り組みをさらに拡充していく方針である。これまで蓄積してきたテレマティクスデータに加え、データの精度やリアルタイム性を向上し、新たなデータを取り入れて、多角的な視点から地域社会の課題に対応していくことを目指している。
さらに、同社がこれまでに培ったテレマティクス技術や GIS 分析のノウハウは、自治体や企業が政策決定に役立てられるエビデンスの提供にも応用できると考えている。
このように、今後もデータを通じて社会に価値を還元し、「事故を防ぐ保険会社」としての役割を果たしながら、安全・安心な地域づくりの一翼を担う存在となることを目指している。

プロフィール


デジタルビジネスデザイン部
データソリューショングループ
主席スペシャリスト 山田 武史 氏



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資料

掲載日

  • 2025年1月10日