課題
導入効果
日本工営株式会社は、総合建設コンサルタント会社として、全国で建設コンサルティング・エネルギー・都市空間事業を展開している。「誠意をもってことにあたり、技術を軸に社会に貢献する」という経営理念のもと、1946 年(昭和 21 年)の設立以来、社会インフラの持続と発展をミッションとし、業務にあたっている。
同社の国土保全部は、土砂災害による防災・減災に関する業務を担当する。有事の際には、地すべり、土石流といった土砂災害対応を行い、早期のインフラ復旧とその後の維持管理に携わっている。同部の減災への取り組みの一環として、土砂災害関連の基礎調査業務がある。これは土砂災害の発生が想定される範囲で、周辺の地形、地質、集水地形の有無等を調査し、リスク評価を行うものである。 2021 年(令和 3 年)に発生した「熱海市伊豆山土石流災害」を契機に改正された「宅地造成及び特定盛土等規制法」(以下、盛土規制法)に伴う基礎調査業務の実施において、ArcGIS を活用している。
※1 基礎調査実施要領(規制区域指定編)の解説、令和 5 年 5 月(国土交通省 農林水産省 林野庁)
2023 年(令和 5 年)の盛土規制法の改正により、盛土等の崩落による災害から国民の生命・身体を守るため、盛土等を行う土地の用途やその目的にかかわらず、危険な盛土等を全国一律の基準で包括的に規制する取り組みが始まった。下記が、取り組みの 2 本の柱である。
既存盛土等の抽出
既に存在している盛土・切土を既存盛土等と呼ぶ。災害の要因になりうる全国の既存盛土等をくまなく調査し、抽出する。
盛土等に対する規制区域の指定
宅地、農地、森林等、土地の用途にかかわらず、盛土等の崩落により人家等に被害を及ぼしうる区域を規制区域として指定する。
これらの取り組みに対し、国土交通省から対応の指針は示されているものの、具体的な対応方法は提示されていないため、試行錯誤を繰り返しながら対応を進めることとなった。
「既存盛土等の抽出」について、以下の流れで検討を行った。
1.資料収集
(1)数値標高モデル(DEM):5m DEMと 10m DEMの 2 時期の標高値を収集し、地形改変を見つける手がかりとした。
(2)光学衛星画像:色調データから植生情報を収集し、地形改変に伴う森林伐採などの手がかりとした。
(3)空中写真:多時期の空中写真を収集し、判読の材料とした。
2.データの解析
(1)DEM の解析:2 時期の DEM データから標高差分を取り、地形改変の可能性がある箇所を抽出した。
(2)光学衛星画像の解析:植生の健康状態を示す数値である NDVI 値の差分を解析し、植生の変化を確認した。
(3)解析結果と空中写真の重ね合わせ:標高差や植生差がある箇所を空中写真と照合し、盛土等を判断した。
※2 盛土等の安全対策推進ガイドライン及び同解説、令和 5 年 5 月(国土交通省 農林水産省 林野庁)
DEM 解析では、水面や樹木成長度合の違いによるノイズが多く含まれたが、下図のように空中写真と重ね合わせることで、盛土の可能性が高い箇所を特定した。NDVI 解析では、植生差がある箇所を盛土の可能性がある箇所とし、人工的な地形変化を確認した。
NDVI 解析の結果から、植生差があるとされる範囲に対して、直線的な地形変化、いわゆる人工的な地形改変がないかを確認した。
課題に示した盛土規制法改正にかかる 2 つの取り組みに対して、下記の理由から、GIS を用いることとした。
GIS の中でも、ArcGIS を採用した理由は、下記の通りである。
既存盛土等の抽出
盛土等に対する規制区域の指定
既存盛土等の抽出においては、「2 時期の標高差分」と「2 時期の植生差分」の項目を用いることで、空中判読のみよりも、効率的な盛土等の抽出を行うことができた。 判読を行う際も、ArcGIS の「スワイプ」、「マップとシーンの切り替え」等の機能を使って、効果的に盛土等の抽出を行うことができた。
盛土等に対する規制区域の指定においては、 ArcGIS 内で、一定の条件下で広範囲にわたって画一的な処理を行うことができ、規制区域設定の検討に役立った。
今後も、GIS のさらなる活用を進め、盛土規制法の運用をより効果的に行っていきたい。具体的には、抽出した既存盛土等分布調査の結果をデータベース化し、座標での管理を行うことで、以降の地形改変の履歴を追うことができる。そして、規制区域の運用開始後、申請情報の一元化などでも GIS が活用できると考える。本取り組みで作成した GIS データは、ArcGIS 上だけでなく、Web GIS で公開・共有ができるため、住民による閲覧・利用も期待している。