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河川管理の DX 推進とその成果

国土交通省 関東地方整備局 荒川下流河川事務所

 
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河川管理の高度化への挑戦 河川管理 DX 始動

ArcGIS を基盤とした GIS プラットフォームの特徴

  • 日本初の 3D 河川管内図で実現した、業務のさらなる DX 化
  • 河川管理の高度化を図り、行政サービスの向上と働き方改革へ

概要

国土交通省 関東地方整備局 荒川下流河川事務所(以下、荒川下流河川事務所)は、河川管理の DX を推進するため、2021 年(令和 3 年)7 月に日本初となる「Arakawa Digital Twin online - 荒川 3D 河川管内図」(現 荒川デジタル河川管内図)を公開した (ArcGIS 事例集 Vol.18 掲載)。職員によりデータを随時追加し、住民や周辺自治体へ迅速な情報発信を行うほか、クラウドサービスの活用により、関係者との間で円滑な意思疎通を実現している。荒川下流河川事務所は、この荒川デジタル河川管内図をデータプラットフォームとして活用し、さらなる河川管理業務の効率化と高度化、そして行政サービスの向上を目指している。

背景

荒川下流河川事務所は、河川の調査・設計から施工、維持管理、防災等の一連の河川管理業務の効率化をするべく、荒川デジタル河川管内図を事務所のデータプラットフォームとして運用している。
また、2023 年(令和 5 年)度より始動した全国初の河川系 DX 出張所の小名木川出張所(東京都江東区)において、デジタル技術を活用した河川管理業務の高度化による行政サービスの向上、働き方改革に取り組んでいる。

各業務での活用と効果

荒川デジタル河川管内図 河川区域等の公開
荒川デジタル河川管内図 河川区域等の公開

河川区域等の把握(公開)
河川沿いの河川保全区域内で建築物を新たに建築、解体する際は、河川法第 55 条に基づいた申請が必要となる。この河川保全区域の確認の問い合わせが多数寄せられ、電話対応等で窓口業務がひっ迫する現状があった。Web サイトの荒川デジタル河川管内図上に河川区域および河川保全区域を公開したことにより、住所検索機能で区域該当有無の確認が可能となり、一般利用者の問い合わせから職員が回答するまでの時間が短縮され、行政サービスが向上した。また、Web サイトへの誘導のみで解決できるようになったため、直接の担当職員以外でも問い合わせ対応が可能となり、担当職員の問い合わせ対応時間を年間 50 時間削減することができた。

一時使用届のオンライン化
マラソンや撮影などで河川を一時的に利用する際には、出張所窓口などで、一時使用届を申請するための手続きを踏む必要があった。しかし、河川の情報がWeb 上で公開されたのち、一時使用届は紙ベースから現地調査アプリの ArcGIS Survey123 によるオンラインフォームへ移行することで、対面対応の削減、ペーパーレス化の他、届け出状況を荒川デジタル河川管内図で確認できるようになり、利便性が向上した。

オンライン一時使用届
オンライン一時使用届

ゴミマップ
ゴミマップ

荒川下流ゴミマップ
(地域の清掃活動を支えるツール)

荒川下流河川事務所が公開している「荒川下流ゴミマップ」は、荒川のどの場所にゴミが多く捨てられているかを視覚的に示しており、荒川のゴミ問題に対する意識を高め、地域の清掃活動を支援するための重要なツールである。

スマホ画像

台帳データの管理(台帳アプリ構築)
職員からの要望により、階段や坂路等の複数の施設台帳を一元的に管理し、問い合わせを受けた際に現状を確認できるように写真を簡単に登録する「台帳アプリ」を構築した。現地写真登録には ArcGIS Field Maps を利用し、データを閲覧するための台帳アプリは テンプレートからノーコードでアプリ作成が行える ArcGIS Instant Apps を利用して構築した。このアプリにより各台帳の情報を一元的に管理し、台帳データの更新や出力も行うことが可能になった。問い合わせ時にも容易に確認できるため、迅速な対応が可能となった。

台帳アプリ写真の登録
台帳アプリ写真の登録

河川管理ダッシュボードの例
河川管理ダッシュボードの例

河川管理ダッシュボード(工程管理)
地図を活用した情報の閲覧や編集機能を備えた柔軟なアプリ構築ができる ArcGIS Web AppBuilder を用いて荒川デジタル河川管内図上で「河川管理ダッシュボード」を構築し、一時使用情報や、隣接する工事情報などの各種デジタル情報を一元的に管理、閲覧可能とした。これにより工事発注者と受注者間の情報共有が容易となり、業務効率が飛躍的に向上した。また、今まで対面で開催していた工事工程会議を Web 開催に切り替えて河川管理ダッシュボード上に会議資料を保存することにより、「いつでも」「どこでも」事業調整を可能としたほか、ペーパーレス化も実現している。

今後の展望

荒川下流河川事務所で挑戦中の河川管理DXは「D(デジタル技術)を導入しても、X(変革・改革)できなければ職員の負担が増えるだけとなること、行政サービスの向上や働き方改革を実現できなければ DX の意味がない」を強く意識し、D(デジタル技術)よりも X(変革・改革)を合言葉に、所内関係者でプロジェクトチームを結成して議論を重ね、取り組みを推進している。人口減少や少子化・高齢化による担い手確保が課題となる中で、どのように X(変革・改革)できるかを試行錯誤しながら、課題解決型で河川管理の高度化を図り、行政サービスの向上と働き方改革に挑戦し続けていきたい。また、今後は荒川下流河川事務所で実装した各種の取り組みを他事務所へ横展開し、関係者と意見交換や改善を重ね、さらなる業務の効率化・河川利用者への利便性向上を目指していきたい。
より良い行政サービス提供のため、失敗を恐れずに新しい技術を積極的に導入して変革を追い求めていくことは、建設業全体が将来を担う若者から選ばれる魅力ある産業として発展し、強靱で持続可能な地域づくりに寄与するものと考えている。

プロフィール


荒川下流河川事務所



関連業種

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資料

掲載日

  • 2025年1月10日