課題
導入効果
日野市は東京の東西ほぼ中心部に位置し、約 18.8 万人(2024 年現在)が暮らす郊外都市である。市内には多摩川、浅川の二本の一級河川が流れ、古くは水田が広がる田園地帯であった。その多くは都市化により姿を消したが、今でも延長 118 kmの用水がまちの特徴となっており、多摩丘陵など緑豊かな環境が広がっている。
また、市の北西部には高度経済成長時に造成された工業団地があり、企業の研究施設等が集積するなど、企業に隣接するベッドタウンとして発展してきた都市でもある。人口急増に伴い居住に特化した日野市は、時代の経過とともに、都市インフラの老朽化、居住世代の均質化による高齢課題、公共施設需給のミスマッチ、コミュニティの衰退などの課題が生じている。日野市は ArcGIS を用いて地域ごとの特性や課題を可視化し、まちづくり分野における業務改善や政策立案、分析・評価を行ってきた。
今後は住民情報システムと GIS の連携による匿名化処理済の住民統計データが各政策、取り組みに活かされることが期待されている。
日野市は、2002 年(平成 14 年)から GIS を活用しており、2012 年(平成 24 年)には ArcGIS を導入している。
当時、東京都主導の都市計画分野における土地利用状況調査の結果を紙で受け取っていたが、情報の利活用を促進する目的で GIS を導入することとなった。
ArcGIS の採用理由は、機能における自由度の高さが挙げられる。地図の分析機能が豊富なのはもちろん、地図以外のアプリケーションも豊富に揃っているため、多様な取り組みや業務において、用途や目的に合わせたカスタマイズが可能である。特に公共事業においては、デジタルツールを用いて一定程度合理的な理由をもとに政策立案をしたとしても、予算、議会、市民、政治等さまざまな要因によって、必ずしも分析や取り組み実行のタイミングが合致するわけではない。そのため、アプリ構築に自由度の高さがあることで、そのタイミング、ニーズに合わせてユーザー自身でカスタマイズができることはメリットが大きい。
地域の課題や特性を可視化することは、住民や行政がその地域にあった解決策を見つけることの手助けとなる。
日野市南部の丘陵部では高度経済成長期に整備された住宅地や団地が多く存在することから住民には高齢者の割合が高い。最近では、スーパー、コンビニや診療所等生活に必要な民間サービスの撤退も目立つようになってきている。地理的に見ても道路に傾斜があり狭く、住宅地も密集しており、公園や公共施設も少ない。
そこで、ArcGIS Online のダッシュボードを利用し地域特性や課題を可視化した。
・都市機能可視化ダッシュボード
このダッシュボードのマップには、商業、医療、福祉、子ども、交通、公共、民間それぞれの拠点から身近に通える範囲(徒歩 500m 圏域)を地図化した。
人口構成、推移のグラフや、各拠点数の表示、その内訳の切替機能(たとえば商業機能であれば、スーパー・コンビニ・ショッピングセンターの施設数、移動販売や飲食可能な空き家拠点等も含む)に加え、小中学校の学区域や町丁目ごとに集計範囲を切替できるフィルター機能を搭載している。
さらに災害、土地利用、空き家、緑や水、歴史資源マップにも切り替え可能であり、地域(主に小中学校学区域)の特性や課題が分かるようになっている。
空き家政策の事例では、特に丘陵部のとある住宅地の中では、商業、防災交流拠点が徒歩圏域に不足していることが可視化され、課題とされた。この住宅地の中で空き家が発生したときに、空き家を解体し、その場所を地域の庭、いわゆるコミュニティスペースとして利活用できるようになり、自治会の防災訓練、日常的な交流・飲食等の役割を担う拠点となった。また、空き地の所有者、自治会、市の三者で協定を結び、コミュニティスペースを公共に資する場所とし、固定資産税の減免を行っている。これにより空き地の所有者、地域の住民、自治会、行政と四者にメリットがあり、地域に不足する機能を補完できるスペースとして活用されている。
この拠点での活動は、空き家特措法が 2014 年(平成 26 年)に制定されてから早い段階で開始し、今日まで 7 年間続いている。空き家課題の抽出だけでなく、その拠点の評価にも ArcGIS を用いている。職員が調査する際にはスマートフォンで現地に赴き、写真撮影や位置の記録、ステータスの管理、集計等を ArcGIS Online のダッシュボードで行っている。
職員の日々の業務コストを抑えながら、経年データを蓄積しているため、現状把握に余計なコストをかけずに、計画改定等の政策立案を行うことができる。このように地域に対して効果的な政策を展開するだけでなく、業務改善にも ArcGIS が貢献している。
日野市では、近隣三市(立川市、三鷹市、小金井市)と住民情報システムの共同利用を 2023 年(令和 5 年)から(小金井市は 2024 年(令和 6 年)から)開始している。住民情報システムには ArcGIS Enterprise が利用されており、住民情報をメッシュ(格子状)ごとに集計し、匿名化を図ることで政策立案等に活かせるかどうかを検討している。
・外国人ダッシュボード
これまで土地や建物等の場所の可視化での利用がメインだったが、人に関わる属性データを可視化できれば、データ同士を掛け合わせた分析も可能にもなってくる。
・防災避難拠点収容能力分析
人の属性データを需要地点とし、公共施設、公共用地の立地を最適化する分析(ロケーションアロケーション分析)にも GIS が非常に有効であると考え、今後の利活用を検討している。
日野市総務部建築営繕課 主任
デジタル改革推進検討会 座長
氏家 健太郎 氏