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事例

GIS と衛星データで世界貿易をモニタリングする

国際通貨基金(IMF)

 

リアルタイム港湾データプラットフォームで貿易の混乱を防ぐ

概要

国際通貨基金(以下、IMF)とオックスフォード大学(英国)は、港湾で発生する人為的あるいは自然災害の影響を予測・分析するためのオープンプラットフォーム「PortWatch(ポートウォッチ)」を開発した。PortWatch は、人工衛星による船舶データと GIS 技術を利用して、港湾の活動を監視し、港湾の混乱が世界貿易に与える影響をシミュレーションする。この情報は、政策立案者が経済・金融の安定を促進するための効果的な政策を実施するのに役立っている。

課題

港湾は、衣料品から食品までのさまざまな物品の流通を促進するための重要なインフラの一つである。多くの国の経済活動にとって海上貿易は重要な役割を果たしており、港湾は世界貿易量の 80% を取り扱っている。しかし一方で、港湾で発生する人為的災害や自然災害による被害は、世界的な影響を及ぼす可能性がある。2021 年(令和 3 年)3 月には、世界最大級のコンテナ船の一つである台湾船社が運航する Ever Given が座礁し、ヨーロッパとアジアの間の最短海路であるスエズ運河(所要時間 6 日半)を遮断し、25 億米ドル相当の貿易が滞った。また、南アフリカ最大の港であるダーバン港が洪水により被害を受けたり、トルコのイスケンデルン港が地震により損傷を受けたりなど、これらの自然災害は貿易相手国にも多くの波及効果をもたらした。

港湾の状況をリアルタイムで把握することは、経済の動向を追跡するのに有用であるが、貿易データは大きなタイムラグがあるため、ほぼリアルタイムで入手することができない。また、港の混乱の影響を評価するためのデータやツールは、多くの国では入手困難であった。

課題解決手法

IMF とオックスフォード大学は、港湾で発生する問題の潜在的な影響について早期に洞察したいというニーズに応えるために、PortWatch を開発した。PortWatch は、政策立案者や一般の利用者が港湾に関する情報にアクセスできるオープンプラットフォームで、人工衛星による船舶データと GIS 技術を利用して、港湾の活動を監視し、港湾の混乱が世界貿易に与える影響をシミュレーションできる。また、政策立案者は PortWatch に登録することで、災害が港湾に影響を及ぼす可能性がある場合、メールで通知を受け取ることができる仕組みとなっている。

PortWatch は、クラウドベースの ArcGIS Hub にホストされており、船舶の位置情報を人工衛星で捉えることで、リアルタイムの港湾データにアクセスできる国や人々の範囲を広げる。これにより、IMF のチームは、データを簡単に保存し、加盟国に提供することができる。また、この技術は、自動化された港湾のデータを視覚化、更新、共有するのにも便利である。さらに、PortWatch には、ArcGIS Experience Builder が組み込まれており、利用者は、港湾に影響を与える可能性のある仮想的な混乱や気候シナリオの波及効果をシミュレーションすることができる。


気候シナリオマップ:このマップは、さまざまな気候災害による物理的インフラへの年間予想損害額(米ドル/年)で表した、
港湾に対する現在の気候リスクを示している。

効果

PortWatch は、2023 年(令和 5 年)11 月にオンラインプラットフォームとして公開されてから、多くの人々に利用されている。報道機関、企業、政策機関など何千人ものユーザーがプラットフォームにアクセスし、自然災害が貿易ルートに影響する可能性が高いときにメールで知らせてもらうサービスに登録している。

IMF の経済学者や企業の経営者、ジャーナリスト、海事専門家、港湾当局、政策立案者などは、PortWatch を使って、経済の動きをすぐに把握したり、情報が不足しているところを補ったり、港湾や海上で起こる人為的災害や自然災害による経済の不安定な兆候を見つけたりできるようになった。PortWatch は、海事貿易のデータを提供することで、貿易の影響を大きく受ける国にとってより詳細な貿易分析を可能にしている。オックスフォード大学の研究者であるヴェルシュール氏は、「ArcGIS によって、一般の人々が私たちの研究成果であるさまざまなデータに触れ、作業することが可能になり、科学が一般の人々の手に届くようになった」と述べている。

今後の展望

IMF は、PortWatch を貿易の混乱に対して幅広く利用されるリソースにすることを目指している。「最近の紅海での危機が、気候変動や自然災害を超えた貿易の混乱へと進行する事態において、PortWatch が重要な情報源になり得ることを示唆している」と、IMF の経済学者であるケプケ氏は語る。


PortWatch プラットフォームのホームページ。地球儀は PortWatch が追跡している港湾と絞り込み地点を表示し、
ホー ムページの下部左側には、最近の紅海での貿易の混乱が強調されている ※2024 年(令和 6 年)11 月時点

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掲載日

  • 2024年10月30日