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設計支援ツール「設計 BIM ツール」に ArcGIS を導入し設計業務を革新

株式会社竹中工務店

 

地理情報システムを活用した設計 BIM ツールで設計の効率化と精度向上を実現する革新的な取り組み

概要

株式会社竹中工務店(以下、竹中工務店)は日本を代表する総合建設会社で、長年にわたり革新的な建築技術と優れたデザインを提供してきた。現在、同社はデジタルトランスフォーメーション(DX)に注力しており、地理情報システム(GIS)を活用した新たな取り組みを進めている。

その一環として開発されたのが「設計 BIM ツール」である。設計 BIM ツールは設計段階での建築情報を含むモデル(BIM)データを効率的に管理・共有するためのシステムで、プロジェクト全体のデータ一元化を目指している。このツールは 2019 年(平成 31 年)3 月に企画が開始され、 2021 年(令和 3 年)9 月から一部プロジェクトでの運用を開始、2023 年(令和 5 年)10 月にはすべての新規プロジェクトでの運用を開始した。設計 BIM ツールに GIS を導入することで、設計条件や法的制限、気候や災害情報などの地理情報を迅速かつ正確に取得し、設計業務の効率化を図っている。

これにより、設計者は地理情報を容易に取得・利用でき、プロジェクトの精度向上と作業時間の短縮が実現されている。同社は今後も設計 BIM ツールを中心に DX を推進し、建設業界全体のデジタル化をリードしていくことを目指している。


建設 DX を取り巻く環境

課題

建築設計において、敷地に関するデータは非常に重要である。具体的には、都市計画地図、用途地域、防火地域、多雪地域、塩害地域、地震・津波などの防災情報、気候情報などが含まれる。これらのデータは設計条件を決定するための基本情報であり、正確かつ迅速な取得が求められる。従来の方法では、これらの情報を収集するのに多大な労力と時間がかかっていた。

行政のホームページや学会のデータベースなど、複数のソースから個別に情報を調査しなければならず、情報の精度や最新性にも気を配る必要があった。また、各情報を手作業で統合し、Excelファイルにまとめる作業も発生していた。たとえば、防災情報を確認するためには、気象庁や自治体のサイトを逐一チェックし、その後、各種データを手作業でまとめるという非効率なプロセスが一般的だった。

さらに、地図情報のトレース作業も紙地図とトレーシングペーパーを用いて行うなど、アナログな手法が主流であり、時間と手間を要していた。

このように各種データ収集業務は、設計者にとって大きな負担になっていた。

ArcGIS採用の理由

設計 BIM ツールに ArcGIS を採用した理由は、社内における GIS 活用の積極的な姿勢と、GIS の世界標準としての信頼性にある。同社では、設計 BIM ツールの開発と並行して、GIS を活用したオフィス空間の評価システム「GISTA」や都市ポテンシャル評価ツールの「GISCOVERY」を展開しており、GIS 技術の導入と利用を積極的に推進していた。

これらのプロジェクトは、社内における GIS の理解と利用促進に大きく寄与し、設計 BIM ツールにおける GIS 導入の下地を作った。

さらに、ArcGIS は世界標準の GIS ソフトウェアとして、信頼性と実績を兼ね備えている。多くの国や企業で導入されており、豊富なデータベースと高度な分析機能が設計 BIM ツールのニーズに合致していた。

課題解決手法

設計 BIM ツールでの敷地情報
設計 BIM ツールでの敷地情報

設計 BIM ツールでは、ArcGIS の豊富な機能がさまざまな場面で効果的に活用されている。

まず、ArcGIS の地図データベース機能を活用して、敷地情報を簡単に取得できるようにした。誰もが利用できるようにユーザーインターフェイスをこだわった。発注者から提供された敷地の住所や緯度経度を設計 BIM ツールに入力すると、ArcGIS がジオコーディングし、各関連データを照会し、その地点の各種情報を迅速に取得できる。これにより、都市計画地図、用途地域、防火地域などの重要な地理情報を簡単に手に入れることができるようになった。

さらに、ArcGIS の高度な分析機能も活用している。たとえば、防災情報や気候情報の解析により、設計条件の詳細な評価を行うことができる。地震や津波などの災害リスクを評価し、それに基づいた設計を行うことで、より安全な建築物を提供することが可能となっている。

ArcGIS のデータ更新機能も重要な役割を果たしている。最新の地理情報を常に取得し、設計 BIM ツールのデータを自動的に更新することで、設計者は常に最新の情報を基に設計を行うことができる。

効果

設計 BIM ツールの導入により、設計プロセスが見直され、効率化と精度向上が実現された。従来、敷地情報の収集や整理には半日から 1 日かかっていたが、1〜2 時間に短縮された。これにより、設計者は創造的な業務に集中でき、設計の質の向上につながった。

ArcGIS の地図データベース機能により、ツール利用者には最新の地理情報が提供され、またデータも自動更新されることで、設計ミスのリスクが大幅に減少した。また、設計 BIM ツールを通じて、地理情報や設計条件が一元管理され、プロジェクトチーム全体で共有されることで、関係者間の情報共有やコミュニケーションが円滑化し、設計プロセス全体の効率が向上した。


設計 BIM ツールでの GIS 表示画面

今後の展望

竹中工務店は、設計 BIM ツールと ArcGIS の導入成功を基に、DX 推進と技術革新を目指している。設計 BIM ツールでは、使いやすく直感的なインターフェイスを提供し、設計プロセスの効率化を図る。また、建設プロセス全体でのデータ連携を強化し、設計から施工、管理まで一貫したデジタルワークフローを構築する。さらに、設計段階やフィージビリティスタディ、環境アセスメントなどでの GIS データ活用を計画している。デジタルツインの実現も視野に入れ、建物の運用・維持管理の効率化を図る。

また、公共データと自社データを組み合わせることで、より精度の高い設計が可能となり、持続可能な都市開発やスマートシティの実現にも貢献する。技術革新とデジタル化の推進により、竹中工務店は業界のリーダーとしての地位を確立していく。

プロフィール


設計本部 BIM推進グループ
シニアチーフエキスパート
千田 尚一 氏



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資料

掲載日

  • 2024年10月30日