課題
導入効果
慶應義塾大学SFC研究所xSDG・ラボ(代表:蟹江憲史教授)は、「持続可能な開発目標(以下、SDGs)」という切り口から複雑な社会問題を解決することを目的として 2018 年(平成 30 年)に設置された。同研究所は、アカデミアの枠を超えてソリューション指向の研究を実施し、SDGs のベストプラクティスを創出・集積している。[1]
SDGs については、達成期限の 2030 年に向け、折り返し地点を迎えますます活動の加速化が求められている。加速化に向け、現状の達成状況を可視化する手段として有効な GIS(地理情報システム)を活用し、日本国内における自治体・企業・団体等の SDGs の進捗状況や取り組みを集約するプラットフォーム「SDGs Today Japan」を、クラウド GIS サービスである ArcGIS Online を用いて構築し、2023 年(令和 5 年) 6 月に公開した。
SDGs Today Japan で発信している情報コンテンツ
[1] 慶應義塾大学SFC研究所 xSDG・ラボ ウェブサイトを参考に記載(最終閲覧日:2024 年 3 月 5 日)
SDGs は「貧困をなくそう(目標 1)」や「飢餓をゼロに(目標 2)」といった 17 の目標と、その内容をより具体的に示した 169 のターゲットが設定されており、ターゲットの進捗を 231(重複を除く)の指標で計測するという三層構造である。そのため、野心的な目標の達成に向けては、各国における定量的なデータの収集と、それに基づく進捗状況の可視化が必要不可欠である。
こうしたモニタリングとレビューの重要性から、SDSN(Sustainable Development Solutions Network)、米国Esri社、ナショナルジオグラフィック協会が協力し、国際的な SDGs の進捗を可視化するプラットフォーム「SDGs Today」を開発し、公開している。
SDGs で設定された指標に関連する定量的なデータを国や地域ごとに収集し、GIS を用いて可視化することで、現時点でどのような進捗状況にあり、目標値からどれぐらいの乖離があるのかを理解することができる。
それだけではなく、SDGs 達成に向けた優良事例や課題などがストーリーマップ(ストーリーテリングに地図の要素を加えた Web ブラウザーベースのアプリケーション)と呼ばれる記事形式でまとめられており、有効なハブサイトとして機能している。SDGs Today のように、日本国内における SDGs に関する多数の情報を集約したハブサイトを構築することが必要とされていた。
慶應義塾大学・蟹江憲史研究室は、2018 年度から GIS を活用して SDGs の指標を可視化するために、研究を実施してきた。
2019 年(令和元年)度には、xSDG・ラボに設置された分科会活動の一環として「プラスチックごみを写真で撮影して投稿するアプリ」について、開発・実証実験を行うなど、GIS を活用した社会課題の可視化の可能性を検討している。こうした研究の成果として、前述の課題を踏まえ、日本国内の SDGs に関する情報や進捗状況を集約したハブサイト「SDGs Today Japan」の構築を目指すこととなった。
SDGs Today Japan では、主に日本の SDGs の進捗に焦点を当て、各組織が取り組んでいる SDGs の進捗状況・達成度について GIS を用いて可視化した事例を紹介し、SDGs に関わる人々が現状を把握できる情報を発信することを目指している。掲載する情報コンテンツについては、「現状の把握」と「Storytelling」の 2 つのカテゴリで整備を行った。
「現状の把握」については、世界における日本の状況や自治体の SDGs 達成状況を GIS で可視化するコンテンツを整備した。
具体例としては、神奈川県 SDGs 指標候補を地図で可視化したダッシュボードを、ArcGIS Dashboards で作成した。このダッシュボードでは、指標と年度を選択することで、対象年の数値を市町村または市区町村ごとに地図上で色分け表示でき、指標の数値の経年変化をグラフで確認することもできる。
「Storytelling」については、SDGs に関するさまざまな状況や取り組みを紹介するストーリーマップを整備した。ストーリーマップの作成については、ArcGIS Story Maps を使用した。コンテンツの具体例としては、同研究室の学生との共同制作による「食品ロス」や「ごみのリサイクル」を題材にしたストーリーマップや、日本航空のサステナブルチャーターフライトにおける取り組みを紹介したストーリーマップがある。
これら一連のコンテンツを集約して掲載するハブサイトを、ArcGIS Onlineのハブサイト構築用アプリである ArcGIS Hub を利用して構築し、SDGs Today Japan として2023 年 6 月に公開した。
SDGs Today Japan には、
① 地理情報を用いた定量データの可視化と、
② SDGs 達成に資する優良事例のストーリーマップ
という 2 つの内容が掲載されている。
指標に関する数値データを収集するだけで、その達成度に大きな関心が寄せられる一方、具体的な改善策の検討は容易ではない。
そこで、① のコンテンツによって、指標の数値データを地図情報と重ね合わせることで、どこの地域にどの程度の問題が発生しているか、といった詳細な分析が可能になり、解決策を検討する際の助けになる。
また、② のストーリーマップから、先進的な事例が備える重要な要素を理解し、閲覧者が自らの取り組みの参考にすることができる。
2023 年 6 月の公開から約1年が経過したが、ストーリーマップの数など、コンテンツが限られている点を改善し、発展させる必要がある。そこで、xSDG・ラボに設置されたコンソーシアムの会員(企業・団体)が行う取り組みのストーリーマップ化を端緒として、さらに Web サイトの内容を充実させていくことを予定している。
また、ストーリーマップという手法を通じて、前述の会員に限らず、広く企業・自治体等の取り組みをまとめ、日本国内の SDGs 推進に寄与していきたい。
蟹江 憲史 教授